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デジタル時代の4つの組織パターン

今回、Organization Scienceの特集号ではないのですが、少し前の割と重要な議論かと思う論文を取り上げます。 Vergne, J. P. (2020) ‘Decentralized vs. Distributed Organization: Blockchain, Machine Learning and the Future of the Digital Platform’, Organization Theory, 1. 要するにこの論文は : AI・ブロックチェーンなどのデジタル技術が生み出す新たな組織形態の類型を整理した、理論論文。 ポイント : デジタル技術は新たな組織形態を生む。組織の形態は、データを知識に変換する役割を誰が担うかに応じて、二軸で整理できる。二軸とは、(コミュニケーションの)分散度✕(意思決定の)分権度である。 具体的には、現代の組織には以下の四類型がある: 1.集中・集権型:データ収集はメンバーが行うが、あとはリーダーが判断し意思決定する(例:コンサルティング会社のプロジェクトチーム) 2.集中・分権型:データ収集はメンバーが行い、データ処理と情報統合を中間マネジャーが行い、意思決定をリーダーが行う(従来型の会社組織) 3.分散・集権型:データ収集から処理、情報統合までメンバーが行い、それを束ねるリーダーが意思決定する(権限委譲の進んだチーム) 4.分権・分権型:全部メンバーが行う(いわゆるDAO) それぞれの類型には、次のような特徴がある: 1.集中・集権: 明確な目標達成に最適化されている 2.集中・分権:多少複雑な環境でも漸進的な成長が可能なことが強み、弱みはコミュニケーションエラーや情報の出し惜しみで低信頼組織となるリスク 3.分散・集権: ある程度明確な目標やパターンのあるタスクに対し創造性を発揮することに適した形態 4.分散・分散:未来の組織と言われるが、信頼が絶対的に必要となるため、それをどのように構築するかが重要 現在、プラットフォーマーが社会的公正を阻害するリスクが懸念されている。特定の有力企業の利害に左右されない、中立的オンラインプラットフォームの必要性は広く議論されており、DAOをその裏付けとする新たな可能性は重要な意味を持つ。 コメント : デジタル時代の組織形態の整理として分かりやすい論考です(但...

AIの予測を実務で使う際の、データサイエンティストの真の役割とは?

今回は、再びOrganization Scienceのデジタル特集号に戻ります。特集号の中でも特に面白かった、エスノグラフィー論文の紹介です。 Waardenburg, L., Huysman, M. and Sergeeva, A. V. (2022) ‘In the land of the blind, the one-eyed man is the king: Knowledge brokerage in the age of learning algorithms’, Organization Science, 33/1: 59-82. 要するにこの論文は : AIの予測について、結果は複雑である事が多く、また分析結果がなぜそうなるかを人間は説明できない。しかし、実務で予測を使う際、根拠や結論が不明確だと現場は動けない。データサイエンティストがこれにどう対処するかを検証した実証研究論文。 ポイント : データサイエンティストは、組織の現場でAI予測をオペレーションに落とし込む際、次のような課題に直面する アルゴリズムの予測はブラックボックスで複雑である。そのため、「結局何をすべきか」の結論を簡単には言い切れず、また人間にはその根拠を説明できない  しかし、組織の業務にアルゴリズムを導入するには、簡潔な要約や根拠の説明が必要となる この問いに関して、オランダの警察署での犯罪予測アルゴリズムの利用過程を深く観察し分析した オランダの警察では、過去3年分の数十の変数と犯罪発生件数をアルゴリズムで分析した犯罪予測システム(CAS)を2013年に開発した。  これは、国全体を125平方メートルずつの区画に区分し、区画ごとに犯罪発生件数を二週間ごとに自動的に予測更新し、色分けして地図を表示するシステムだった。 警察では、色分けに基づいてパトロールする警官の配置数など、業務効率を改善する目的を持って推進していた  手法として、以下のような方法を使った 2016年10月から31ヶ月にわたるエスノグラフィーを行い、ある警察署で500時間以上の参与観察(多いときで週3日)をおこなった  合わせて、30件以上のインタビューを、データサイエンティストと通常の警察官両方を対象に行った  結果として、以下の発見があった データサイエンティ...

AI時代の労働者vs.資本家

Organization Science誌の特集号論文がこのところ続いたので、今回は少し毛色を変えます。2020年という少し早い段階に出た、昔からの議論を継承したAI論です。 Kellogg, K., Valentine, M. and Christine, A. (2020) ‘Algorithms at work: The new contested terrain of control’, Academy of Management Annals, 14/1: 366-410. 要するにこの論文は : 技術革新が資本家による労働者の搾取を促すという伝統的な議論を念頭に、AI導入が労働者の管理に及ぼす影響を整理した理論論文。 ポイント : アルゴリズムは6つのメカニズム(6R)を通じて業務を統制する。6つとは、Restricting, Recommending, Recording, Rating, Replacing, Rewardingである。  さらに、アルゴリズムは以下の影響をもたらす: アルゴリズムは、その性能を通じて高い経済的成果を生む しかし、アルゴリズムは従来にない包括的な労働者管理(常時・個別化・相互的・ステルス化されたモニタリングと賞罰)を可能とするため、労働者にとっては一挙一投足が監視される強力な管理の世界が生まれる  労働者にとって、アルゴリズムの利用が進むことは、AIを駆使する新たな職業を生み、高度な職業にステップアップする機会を持てる側面もある 一方で労働者は、「アルゴアクティビズム」とも呼べる新たな方法(規制・世論喚起・データ所有権などの活動)を駆使し、アルゴリズムによる強力な管理に対して抵抗する コメント : 前提として、この論文は マルクス主義的史観における資本家と労働者の対立 労働者に対する構造的な搾取促進のツールとしての技術革新 という観点から論じている点に留意が必要です。具体的な示唆抽出というよりは、どちらかというと、研究用の論点出しをしている論文だと思います。より一般社会向けですが、和訳もされたZuboffの近著(Surveilannce Capitalism, 2018年)は、系譜や内容としては少し近いかも知れません。 特に面白いのは、AIが労働者にとっても資本家にとってもそれぞれ武器として使われるこ...

どの位の業務経験の従業員が、AIを一番うまく使いこなせるか?

今日の論文は、生産性に関する実証研究です。 今日の論文 : Allen, R. T., & Choudhury, P. (2022). Algorithm-augmented work and domain expertise: The countervailing forces of ability and aversion. Organization Science, 33(1): 149-169. 要するにこの論文は : AI導入が業務改善にもたらす影響が、働き手の経験度合いで異なることを検証した実証研究論文。 ポイント : 先行研究では、AIが仕事の質を高めるかどうかについて、2つの矛盾する論点があった。 第一に、AIを使って働く使い手について、業務経験が長ければ長いほど、AIによるレコメンドを上手く使いこなし効果が高まるとする視点がある。 第二に、業務経験が長ければ長居ほど、AIによるレコメンドを機械的に受け入れることを嫌い、自ら判断したがる傾向が強いとする視点もある。 では、これらの効果が両方作用すると、AIは労働者の仕事の質にどう影響を与えるのか。本研究では、オンラインのブッキングサイトでAIのレコメンドを見ながら予約処理をする従業員を対象にデータを取りそれを実証した。 結果として、以下が明らかになった。 中間程度の業務経験を持つ従業員だけが、AIを使うことで有意に高い業績を上げることが出来た。つまり横軸に経験年数、縦軸に業績を取ると、グラフは逆U字型のカーブを描く。 背景として、業務経験があまりに低い従業員は、そもそも業務に習熟していないため機械のレコメンドを正しく理解できずうまく使いこなせない。 一方で、業務経験があまりに長い従業員は、機械のレコメンドが正しくても取り入れようとしないため、さほど効果が高まらない。 コメント : これも、特集号の一連の論文の一つです。「AIが組織の業務生産性をどう高めるか」という実務的な関心に、割と直球で答えるタイプの研究です。結果がかなり明確に出ているため、非常に分かりやすく、知識を積み上げることに貢献するタイプの論文と思います。この結果から発展する問いが多く考えられ、その点で今後の基盤となる研究と思います。 例えば、業務経験が長いからと言って、AIのレコメンドを使うのを嫌うかどうかは、必ずしもそうとは限ら...

ソーシャルメディアは、組織の説明責任をどう変えるか?

前回に続き、トップジャーナルのデジタル特集号の記事です。 Karunakaran, A., Orlikowski, W. J., & Scott, S. V. (2022). Crowd-based accountability: Examining how social media commentary reconfigures organizational accountability. Organization Science, 33(1): 170-193. 要するにこの論文は : インターネット上の口コミの評判に対する、企業組織の反応のあり方を検討した実証研究論文。 ポイント : 様々なステークホルダーの要求に対して、組織は可能な範囲で要求に従うことでその不満を抑えることができる。そのため一般に、収斂的対応(特定の問題に関する要求に合わせて自社のやり方を変え、火消しをする)がかつては重要だった しかし、ソーシャルメディアの台頭により、状況は一変した。顔の見えるステークホルダーの意見ではなく、クラウドで無限に匿名コメントがわき上がる。そのため、次のような状況が生まれる: 要求が衝動的で、互いに矛盾するものも多く、しかも次々に上書きされていく 何が正しいとされるかの基準もはっきりせず、かつ基準自体が流動的で変化していく 結果として、現代の組織にとっては、回析的対応(次々に変わる要求に対して、結論無く対峙し続ける)が重要となっている。 そのような対応は、対応する企業側にとって、そもそも何について説明責任を問われていて、誰に対して、いつ、何に関して責任があるのかを曖昧にさせる。 本研究では、これをTwitterとTrip Advisorのプラットフォーム上の事例で実証した。 コメント : この論文は、「デジタルが組織論についてどのような新しい論点を提示するか?」という特集号の趣旨に合わせ、現代的な現象を理論化しようとした論文になっています。 見方を変えると、現象自体が新しいため先行研究が無く、非常にトピックベースの論文になっているとも言えます。ソーシャルメディア上で起こる現象を、そのようなものがない世界で作られた理論で説明しようとしても、そもそも整合しない。一方で全く新しいソーシャルメディア時代の理論を提唱しようとすると、トップジャーナルとして求められる厳...

デジタルスタートアップ企業は、オープンソースコラボレーションでどう価値を生むのか?

昨今広がっている、オープンソースコラボレーションのプラットフォームを扱った論文が、今日の論文です。 Lin, Y., & Maruping, L., M. Forthcoming. Open source collaboration in digital entrepreneurship. Organization Science, 1-19. 要するにこの論文は: デジタルスタートアップ企業が、GitHubのプラットフォームをどう活用して成果につなげるかを検討した実証研究論文。 ポイント: デジタル技術をビジネスモデルの核とするスタートアップ企業(デジタルスタートアップ企業)が台頭しており、彼らはオープンソースコラボレーションのプラットフォームを有効に活用し急速な企業成長につなげていると言われる。 しかし、オープンにノウハウや技術を共有し合うことがイノベーションにつながる一方、何でもオープンに共有してしまえば、機密や事業としての差別化要素まで失われてしまう。 このような「オープン性のパラドックス」に対して、スタートアップ企業はオープンソースプラットフォームをどう活用し何が結果につながっているか、米国の4,388社のデータを分析し、以下の結果を得た。 プラットフォームの活用の仕方には、スタートアップ企業の創業からのステージによって違いがある。初期にはインバウンド(タスクを依頼し知識を外から獲得する)が多いが、成長と共にアウトバウンド(依頼されたタスクを受け知識を提供する)が増える。 そして、これらの違いは企業価値(資金調達時の金額)と相関する。つまり、創業初期にインバウンドを多く活用する企業が企業価値を高めやすく、また創業から成長期に移行していればアウトバウンドを多く活用する企業が企業価値を高めやすい。 コメント: この論文は、先週紹介した特集号の論文の一つです。まず重要なのが、オンラインプラットフォームでの組織の関係や価値創造を扱っている点です。プラットフォームは、AIやデジタル技術でこそ運用が可能になっているという点で、AI・デジタル系の経営学研究のかなり多くがこれを扱っています。経営情報論・戦略論のプラットフォーム戦略などはその典型で、ずいぶん前から研究が蓄積しています。オンラインプラットフォームは、それ自体が組織化の新しい形態でもあり、組織のあり方を...

AI技術の応用はどのような感情的反応を生むか?

今日の論文は、米国の組織論トップジャーナルの最新のデジタル特集号からです。 Rauch, M., & Ansari, S. Forthcoming. Waging War from Remote Cubicles: How Workers Cope with Technologies That Disrupt the Meaning and Morality of Their Work. Organization Science, 1-22. 要するにこの論文は: 革新的な技術が、仕事の核となる神聖な価値観を壊してしまう場合に、どのような感情的反応が生まれるかを検討した実証研究論文。 ポイント: 革新的な技術の台頭は、仕事の内容、職場の地位や階級、職業間の仕事の境界を変える、大きな変化をもたらす。ことに、新技術がその職業にとって仕事の核となる神聖な価値観を壊してしまう場合、強い感情的な反応をもたらす。 では、技術に対するそうした感情的な反応とは具体的にどのようなものか。本研究では、米空軍がドローン技術を導入することで、無人機によるリモート攻撃や標的殺害が可能となった文脈を題材に、事例研究を行った。 先行研究では、新しい技術が不安・ストレス・恐怖など負の感情を巻き起こす場合があることは報告されている。この研究では、これを深めて次の3つの示唆が提示された: 第一に、新技術はその使われ方によってモラルの問題を引き起こし、新技術を使うことが正しいのか誤っているのかを問う感情を巻き起こす。これは、ドローンが、パイロットの犠牲を抑える一方で、自らを危険にさらすことなく簡単に人命を奪うことも可能にするためであった。 第二に、リモートワーク(物理的な作業が行われる場から離れて仕事をする環境)は、人同士の信頼や従来の権力関係を難しくするだけでなく、モラルのような形で感情がかえって重要な役割を果たすものである。 第三に、研究手法として、労働者に日記を書かせることでデータを収集する新しい方法の実効性を示す。 コメント: これは、米国のトップ組織論ジャーナルで最近発表された、デジタル特集号の論文の一つです。このジャーナルは、「技術と仕事・組織」という研究領域は時々掲載していたものの、AIやデジタルについてさほど積極的に発信しているわけでもありませんでした。しかし、2021年から一気...