今日の論文は、米国の組織論トップジャーナルの最新のデジタル特集号からです。
Rauch, M., & Ansari, S. Forthcoming. Waging War from Remote Cubicles: How Workers Cope with Technologies That Disrupt the Meaning and Morality of Their Work. Organization Science, 1-22.
要するにこの論文は:
革新的な技術が、仕事の核となる神聖な価値観を壊してしまう場合に、どのような感情的反応が生まれるかを検討した実証研究論文。
ポイント:
- 革新的な技術の台頭は、仕事の内容、職場の地位や階級、職業間の仕事の境界を変える、大きな変化をもたらす。ことに、新技術がその職業にとって仕事の核となる神聖な価値観を壊してしまう場合、強い感情的な反応をもたらす。
- では、技術に対するそうした感情的な反応とは具体的にどのようなものか。本研究では、米空軍がドローン技術を導入することで、無人機によるリモート攻撃や標的殺害が可能となった文脈を題材に、事例研究を行った。
- 先行研究では、新しい技術が不安・ストレス・恐怖など負の感情を巻き起こす場合があることは報告されている。この研究では、これを深めて次の3つの示唆が提示された:
- 第一に、新技術はその使われ方によってモラルの問題を引き起こし、新技術を使うことが正しいのか誤っているのかを問う感情を巻き起こす。これは、ドローンが、パイロットの犠牲を抑える一方で、自らを危険にさらすことなく簡単に人命を奪うことも可能にするためであった。
- 第二に、リモートワーク(物理的な作業が行われる場から離れて仕事をする環境)は、人同士の信頼や従来の権力関係を難しくするだけでなく、モラルのような形で感情がかえって重要な役割を果たすものである。
- 第三に、研究手法として、労働者に日記を書かせることでデータを収集する新しい方法の実効性を示す。
コメント:
これは、米国のトップ組織論ジャーナルで最近発表された、デジタル特集号の論文の一つです。このジャーナルは、「技術と仕事・組織」という研究領域は時々掲載していたものの、AIやデジタルについてさほど積極的に発信しているわけでもありませんでした。しかし、2021年から一気に論文が登場しています。米国の組織論研究者も、いよいよ本気を出してAI系の話に参加し、一気に議論をリードしようとしている感じがします。
手法的には、Barley以来米国で続いてきた伝統に乗って、技術の影響を現場での丹念な観察から説き起こすアプローチを取っています。もともと1970年代まで、技術が組織や仕事に与える影響は、決定論的に理解されていました。つまり、技術のスペックが研究開発で決まれば、いずれ組織がそれを導入しどういう影響を受けるかもあらかじめほぼ決まっている、という考え方です。しかし1980年代からその前提は否定され、技術はどういう使われ方をするか、どういう存在なのかということ自体が社会的に構成される(様々な思惑や議論、力関係のせめぎ合いで決まっていく)ため、結果は運命的に全く決まっていないとする考え方が、現在の組織論では主流になっています。
そして、社会構成主義的に技術と組織を理解しようとする際、米国ジャーナルの論文の多くが、ミクロレベルで個々人やグループの反応を観察します。つまり、一足飛びに「技術→組織変化」を見るのでなく、「技術→個人の役割の変化→個人やグループ間の関係性やネットワークの変化→組織変化」を考える視点を取ります。その点でこの論文も、このジャーナルの特集号の他の論文も、忠実にその手続を踏まえており米国らしいと思います。ここから、以降のエントリーでこのジャーナルの一連の論文を順次見ていきたいと思います。
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