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AI時代の民主主義とリーダーシップ

本日、第33回AI社会論研究会が本郷三丁目のドワンゴ社(φカフェ)で行われました。今回の話題は、政治(選挙)におけるアナリティクスの影響です。講演者はビクトリア大学(カナダ)のコリン・ベネット教授。演題は「民主主義社会におけるデータ駆動型選挙」でした。経営学とは少し縁遠いですが、少し内容を紹介してみたいと思います。 

講演は、次のような骨子のものでした。 

AIも活用した先端技術で、精緻なマイクロターゲティングが可能となっている。北米では、それが選挙で徹底的に使われ始めている。具体的には、個人のネット上の履歴ビッグデータを統計的に分析し、個人をセグメント分けし、プロファイリングに応じターゲット広告・キャンペーンを行う技法が進んでいる。

しかし、そこには副作用もある。選挙操作リスクとプライバシーの問題である。分析のために、個々の有権者のソーシャルメディアや行動履歴からありとあらゆる情報が収集されている。つい最近米国で話題となった、ケンブリッジ・アナリティカ社のスキャンダルは、その端的な例である。 

(スキャンダルの内容)
 ケンブリッジ・アナリティカ社は、消費者(有権者)の心理学的プロファイリングにより、高い精度の選挙運動の政治メッセージ提供を実現し、多数ある同種の業者の中で差別化を実現していた。具体的には、
・米国で国民2.2億人に対し一人につき5000件相当のウェブ上データを取得し、
・独自の「OCEAN」フレームワークで個人個人の性格と政治志向を精緻に分析し、嗜好に合わせた数千種類の性格に合わせた政治的メッセージをその人のウェブ閲覧時に発信していた
・問題は、そのためフェイスブックの8700万人分のデータが性格診断に無断流用され、かつ個人が押した「いいね」に応じてその人の嗜好を丸裸に分析していたことだった
・例えば米国での「銃規制への反対意見を高める」目的で、心配性な性格と診断した人には犯罪やテロの懸念を協調するメッセージを見せて不安をあおり、より前向きな人には憲法の銃を持つ権利をポジティブに見せるメッセージを見せる、などを無断で実行していた 

昨年の米国大統領選挙のスキャンダル自体は、アメリカでは「ロシアの陰謀的介入」という枠組みでとらえられているようですが、その裏でこうした技術による新しいリスクが台頭しているということ。さらに、もし国家がこうした情報を安全保障的な観点で収集し管理すれば、監視国家的な世界が開かれるリスクがあります。たとえ個人が特定できない形でデータを収集しても、分析で集団の傾向が把握できれば、例えば特定の選挙区の嗜好や行動を推測するなど、政治に影響を及ぼす可能性があります。
(ビジネスAIの世界のプライバシー論では、ある意味で中国が最も極端な状況で(リスクを度外視して進めるため)、例えばあらゆる履歴を活用して個人の信用をスコア化するジーマ信用など、個人のプライバシーを犠牲にしてより社会的利便を実現する方向に話が進んでいます。中国について教授はどう思うのかなとも思ったのですが、今回は民主主義の話なので、中国のような国は対象外の話になります)

 経営学で言うと、政治や選挙と経営は直接関わらないので、こうした話には少し距離があります。プライバシーが問題になる、やや近い議論は消費者向けのマーケティングなどでしょう。ただ、 
・消費者向けのビジネスならOKなことも、政治ではより敏感でプライバシーとして保護すべき度合いが高いため、より慎重な議論が必要になる(「何を買いたいか/買ったか」という情報は、「どういう政治信条を持っているか」よりも機密性が低いという理解がある)
・かつ、選挙運動のマーケティング化(「民主主義」を経済的にとらえる見方:投票者ニーズを充足することを最優先する理論的立場)が進めば、ニーズを収集分析しそれに応じたメッセージ発信をし、なるべく多くの有権者を喜ばせれば良いことになる。しかし、それでは本当は必要な政策的議論(嫌われたとしてもしなければならない話を、建設的に結論に導くこと)が全く深まらないことが真の問題である

という懸念が主眼になっている点で、やはり政治はビジネスとは別の目的を追っている点が大きいかも知れません。
ただ、プライバシーと監視社会への社会的不安という視点は、経営でも重要度を増していると思います。 

・個人情報を使う際に、どこまでが適切な範囲なのか 
・革新的技術を使う際に、法的にOKであっても、社会的に批判を受け炎上しないか 
・技術的に可能な新しいマネジメント手法も、本当に組織の皆がハッピーになるのか 

という視点は企業にとっても重要になっています。

 AOM Big Data Conferenceでもシンポジウムで特に話題になっていたのですが、デジタル時代のリーダーの要件の一つとして、社会や組織における倫理的問題への感度を高めることの必要性が、強調されていました。
 要は、技術でこれまでに無いことが可能だからと言って、一方的にそれを実行すると従業員が監視強化でモチベーションを失ったり、社会から忌避され炎上しビジネスが続けられなくなるリスクが高まっている。なので、他者や社会が新しい技術やサービスにどういう目を向けるかをきちんと共感して想像でき、かつ法的・制度的に必要な手をきちんとおさえられることが、AI時代の成功の要件である、と。
そのようなリーダーシップを育成するためには、どうすれば良いのか、という論点は海外の経営学でも真剣な議論の対象になってきています。

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