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AI社会論2.0の可能性

この数年で、AIの社会実装がずいぶん進みました。結果として、組織論に限らず、経営情報論・戦略論・マーケティング・会計学など、経営学の幅広い分野でAIの議論が進んでいます。これは、経営学以外にもあてはまる話で、法学や社会学、教育学など社会科学全般でもそれぞれ議論が進んでいます。 ここで5年くらい前の状況を思い返してみると、当時はパイロット的な取り組みや議論が各分野で萌芽的に出てきた段階だったと思います。そのため、分野に閉じていては、まだこうした論がマイノリティに過ぎず、十分に議論を深めにくかったと感じます。経営学でも、先行研究も理論もないので、仮に何かを打ち出しても反応が取りにくい状態でした。そのため、分野を超えて先端的な事例や議論を持ち寄ることが、必要な刺激につながっていました。当時の「AI社会論」の取り組みは、そうした課題に応えるものだったと思います。 しかし現在は、各分野である程度話が成熟した分、逆に分野横断の魅力が少し忘れられていると感じます。分野の中だけでも、ある程度AIに関して学術的な対話が成り立って続いてしまうためです。しかし、少し各分野で知見がたまり論点が明確になってきた今こそ、あらためて分野横断で統合的な視点を持つチャンスとも感じます。実際に、最近法学のAI関連の議論(法解釈ではなく、法制度に関して最近増えている)を読みこむ機会があり、経営学の視点で忘れていた強い刺激を受けています。こうした、「AIについて個別分野で溜まった知見をあらためて分野横断で棚卸して視座を上げる」という取り組み。こうした取り組みが重要性を増すタイミングが来ていると感じますし、今後そうした方向で少しずつできることをやってみたいと感じます。
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AIを利用する意向は何で決まるのか

さまざまなAIツールが開発されても、現場で使われなければ宝の持ち腐れになります。実際に、専門職の仕事でも、「既にAIが出来ること」が、必ずしも100%現場に反映されているわけではありません。そのような、現場でのAI採用・活用を阻害する要因は何か。ここでは、医療を事例とした、経営情報論での研究を取り上げます。 Prakash, A. V., & Das, S. (2021) Medical practitioner’s adoption of intelligent clinical diagnostic decision support systems: A mixed-methods study. Information & Management, 58. 103524. 要するにこの論文は : AIを使った診断ツールの医療従事者による利用意向に何が影響を与えるか、テキスト解析・インタビュー・サーベイ分析で影響要因を検証した実証研究。 ポイント : 医療へのAI活用が進み、それら技術を利用したツールも多く登場している。しかし、医療現場では必ずしもそうしたツールを採用しない、抵抗が広く観察される。 そこで、本研究は医療へのAIを活用した診断ツールの利用意向に何が影響を与えるか、3つの手法を混合した検証を行った: テキスト解析:医療従事者が集うウェブフォーラムの関連コメント解析(人間の研究者がコーディング) インタビュー:インドの放射線科医師15人(結果を人間の研究者がコーディング) サーベイ:放射線科医の研修プログラムで依頼した回答(n=183、6割強が経験5年以内) 結果として、以下が明らかになった: 利用意向に最も影響を与えるのは、1.その技術に対する信頼と2.変化に対する抵抗感 技術への信頼を強く持っていれば利用意向は高まり、変化に対する抵抗感が高ければ利用意向は下がる ツールの性能に対する期待と周囲からの社会的影響も、上記に加えて利用意向に直接影響を与える さらに、これら2つの重要要素に影響を与える要因も明らかになった: 1.技術に対する信頼に影響するのは、以下: 1-1ツールの性能に対する期待 1-2ツール利用に必要と思われる努力の量 1-3周囲からの社会的影響 2.変化に対する抵抗感に影響を与えるのは、以下: 2-1利用した際の性能リスク...

生成AIをどうとらえるか

最近の話題として、生成AIが組織や仕事をどう変えるか、というものがあります。実務界では既に話題も一巡し、少しずつ本格利用に向かう方向性かと思います。一方で、学術論文としてはまだ「生成AI」を扱った本格的な論文はありません。 最近、海外研究者と共著を進めることになり、まさに生成AIを主題にすることになりました。おそらく、世界中で多くの研究者が同じことを考えて、パイオニアとして名を挙げようとしていると思います。しかしここで気付いたのですが、意外にそうした論文は書きにくい事情があると思います。理由は、2つあります。 第一に、生成AIを「こういう風に扱えばOK」というテンプレートが無い。先例がないので、あまり大袈裟に扱ったり大胆なことを言うと、「流行を追っているだけ」などと頭から受け付けられないリスクがあります。著名で有力な研究者や、ガイドポストなどの本格的な論文で無いものなら許されるのでしょうが。頭からリジェクトはされない範囲で、ぎりぎりの線を狙う必要性がある気がします。 第二に、現在進行形で浸透が続いている技術の話なので、現象がまだ定まっておらず常に変化している最中である。そのため、ある断面を切り取っても、それが後で全体から見たら枝葉の話だったりずれた話になっている可能性もあります。そうした怖さを感じるというのが、正直な感想です。 とはいえ、慎重なだけでは何も生まれないので、対象となるジャーナルのターゲティングや書き方の工夫でゼロを1にする取り組みをしていくことになります。このような取り組みは、普通の実証研究とはかなり異なる、別種の取り組みであるように感じます。

AIとの適度な関係とは

AIは便利だが、頼りすぎると、使っている人間が自分では判断出来なくなってしまうかもしれない。また、常にAIが正しい判断をしているのか、リスクもあるかもしれない。このような、便利な一方リスクもある中で、どのように適度な距離感をAIと人間との間で取れば良いのか。ここでは、こうしたテーマの経営情報論の論文を取り上げます。 Fugener, A., Grahl, J., Gupta, A., & Ketter, W. (2021). Will humans-in-the-loop become borgs? Merits and pitfalls of working with AI. MIS Quarterly, 45(3): 1527-1556. 要するにこの論文は : AIの助言が人間とAIの補完性にどう影響するかを、数式・シミュレーションおよび実験で検証した論文。 ポイント : 昨今では、AIと人間の協働が重要と言われる。特に、人間しか知らない知識があるからこそ、二者は互いに補完関係にあると言われている。このような、人間とAIの関係性はより具体的にはどのようなものなのか。 本研究では、次の3点を数式・シミュレーションおよび実験で検証した: 1.AIの助言を使っていくことは、それを使う人間の意思決定の正確性と、人間しか知らない知識のあり方にどう影響するか? 2.AIの助言を使うことでの負の効果は、どのように緩和可能か? 3.AI利用によって、人間しか知らない知識が失われていったとき、人間の集合知にどのような影響があるか? 検証の結果、次のことが明らかになった: AIの助言を使えば、短期的に人間の意思決定の正確性は高まる。しかし、そのような意思決定を繰り返せば、人間しか知らない知識は失われ、人間だけで意思決定をした際の正確性が下がっていく。 この問題に対処するには、二つの対応策が有効である。 (A)AIの助言と共にその正確性(確からしさ)も人間に知らせる。これにより、人間はAIの助言を採用するかしないかを適切に判断でき、結果として、人間しか知らない知識も保全され意思決定の正確性も高まる。 (B)AIの助言を個人の知識レベルに合わせてカスタマイズする。これにより、人間しか知らない知識も増え意思決定の正確性も高まる。 AIの助言は意思決定者が一人や少数の場合は意思決...

AIの効果を高める条件とは

実務にAIを利用する中で、効果が出る場合と出ない場合、効果が出る企業と出ない企業があります。それらを分ける条件は何なのか?こうした実務的に関心を集める問いに答えた、経営情報論の論文をここでは取り上げます。 Low, B. & Wu, L. (2021). AI on drugs: Can artificial intelligence accelerate drug development? Evidence from a large-scale examination of bio-pharma firms. MIS Quarterly, 45(3): 1451-1482. 要するにこの論文は : 企業が持つAI技術と、AIでイノベーションを起こす組織能力がどのような条件で結果に結びつくか、製薬企業による新薬発見の文脈で統計解析を行った実証研究論文。 ポイント : 新薬の発見は厖大な化合物の可能性の中から効果があり害の少ないものを選定する、人間には困難な作業である。このため、製薬企業でAIを活用し新薬発見プロセスを一気に加速する取り組みが進行している。 しかし、AI技術は強みがある反面で限界もあり、全ての企業やプロジェクトで有効に機能するわけではない。そのため、創薬イノベーションにおいてAIに何が出来るのか、企業はどうすれば結果につながるようにAIを構築し管理できるのかは、重要な問いである。 そこで本研究は、組織のAIイノベーション能力(AI Innovation capacity, AIIC=科学的発見と研究開発に用いるためにAI関連資源を育成・管理・活用する企業の能力)という概念を立て、企業の取得AI特許(AI関連の知見とそれを構築するインフラ)と求人データ(AIを育成・管理・活用する人材の採用を、公開された求人情報から推定したもの)からこれを計測した。そして、幅広い製薬企業について、その創薬イノベーションにおける効果を調査した。 結果として、以下が明らかになった。 AIICが高い企業ほど、臨床前ステージで開発した新薬候補の数が多かった。 これは、AIでなくIT関連の特許では見られない、AI特許固有の現象だった。 AI技術をさらに分解して検証すると、効果の4割ほどは機械学習から生じていた。これは、創薬プロセスでの優位性に最も影響するのが機械学習技術であ...

組織学習にAIを入れる

人と同じように、組織も学習を続けながら、環境に適応してサバイバルしていきます。組織学習は重要な概念ですが、人間だけの組織でなく、判断や意思決定にAIも使われる組織では、組織学習はどのようになっていくのか。今後重要となるこうした論点について、経営情報学の分野で論じた研究を取り上げます。 Sturm, T. et al. (2021) Coordinating human and machine learning for effective organizational learning. MIS Quarterly, 45(3): 1581-1602. <要するにこの論文は> 組織がどうすれば人間の学習と機械学習を効果的に使いこなして学習できるのか、をシミュレーションで検討したシミュレーション論文。 <ポイント> 機械学習は広く人間の組織に浸透しつつあるが、そこでは文字通り機械が学習し意思決定に貢献する度合いが高まっていく。組織学習はもともと人間による学習のみを前提としていたが、この前提を外したとき、何が起こるかは十分に検討されていない重要課題である。 そこで、本研究ではいくつかの条件でシミュレーションを行った。問いは、どのような条件であれば、人間の学習と機械学習を効果的に使いこなして学習できるのか、である。 結果として、次の点が明らかになった: 学習初期から学習能力を高く発揮する機械学習システムを使えば、学習初期の段階であれこれ法則性を探索する人間の労力を代替し、不要にすることが出来る。 人間による機械学習システムの微調整が組織学習効果に与える影響は、機械学習システムの学習能力が学習初期から高いかどうかで変わる。(人間による微調整は一定の効果を上げるにはいずれにせよ必要) 変化の激しい環境では、効果的な組織学習には人間による探索と速やかなその知見のコード化(機械学習への反映)が有用となる。 <コメント> これはシミュレーション論文であり、そうした論文の価値をどう評価するには多様な見方があります。そのためここで取り上げるかどうか検討の余地があると思いましたが、論点の重要性を考えて取り上げました。 この研究の良さは、やはり取り上げている論点の重要性だと思います。結果自体は、現実の実証ではないので受け止め方は人それぞれという側面があると思います(含める変数の範囲や値などモ...

「雇用の未来」の今後

雇用代替の議論は、生成AIの登場を経てさらに継続していくと思われます。今後の研究の方向を考える上で、指導的なトップジャーナルで掲載されたエッセイは参考になります。そこで、ここではそうしたエッセイの一つを取り上げます。 Hunt, W., Sarkar, S., & Warhurst, C. (2022) Measuring the impact of AI on jobs at the organization level: Lessons from a survey of UK business leaders. Research Policy, 51.  要するにこの論文は : AIが雇用と仕事にもたらす影響について、研究のあるべき方向性を論じたエッセイ。 ポイント : デジタル技術は、雇用を代替し仕事の未来のあり方を変えてしまうと議論されてきた。そのような劇的変化は実現しなかったが、AIの登場で状況は一変し、雇用代替が一気に進むのではないかとする議論が活発化している。 これに関連して、AIが雇用を代替するポテンシャルを推計する二種類の研究が登場してきた。 まず、マクロレベルで経済モデリングを使って推計を行う、Frey & Osborneとそれに続く研究である。この系譜では、AIによるさまざまな職業の代替可能性が、AI専門家の評価やアルゴリズムによる分析を通じて推計された。しかし、そこにはいくつかの問題がある。 第一に、推計モデルの判断根拠がAI専門家等による主観的な評価となっている。このような評価は、バイアスがかかる可能性がある。 第二に、モデリングは技術的性能を重視し、技術がどのように使われるかを決める、技術に関わる社会的な要因を軽視している。ある技術に性能があるからといって、採用されるかどうかは別の問題である。 第三に、このような推計方法は、多くの自動化可能なタスクが既に既存の技術で自動化されているか、またはよりコストの安い海外にオフショアリングされていることを無視している。 第四に、これらの研究の多くは、雇用代替ばかりを計測し、AIによる雇用創造効果を無視している。 さらに、より少数ではあるがもう一つの研究系譜として、組織レベルで関連データを用いて推計を行うものがある。ここでは、各企業の技術関連の投資などが関連指標として分析される...