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再スタート

2017年から19年まで、慶應義塾大学SFC研究所での、AI社会論研究会というプロジェクトに参加していました。  AIが社会にどう浸透し、社会を変えていくか?   こうした問いを、ブームが始まっていた当時、学際的に議論していました。  このブログの19年までの過去記事は、当時の備忘録です。 そして3年が過ぎ、AIとデジタルはすっかり社会に定着しました。 経営学でも、当時予言した通り、AIを扱った論文が激増しています。 そこで、この4月から、2020年代に登場した AIを扱った経営学論文のポイントを毎週1本ずつまとめてアップ していこうと思います。 対象は、組織論を中心とした主要ジャーナル。  - Academy of Management Annals  - Academy of Management Review  - Academy of Management Discoveries  - Administrative Science Quarterly  - Organization Science  - Journal of Management Studies  - Organization Studies  - Organization Theory  (Academy of Management JournalはAI論文がほぼ無いので基本除外) など  AIの定義は論文によって違いますが、少し広めに取って見ていきます。   <背景:近年の動向>   結論から言うと、こんな感じで状況が進化してきたと見ています。  - 決定的な経営学革命のようなものは起こっていない  - しかし、 何が問題になるか、主な論点のかたまりは明確になってきた - さらに、AI特別視に否定的だったトップジャーナルも、態度を変えてきた ジャーナルで言うと、AI系の論文はノントップの少しずれた領域で圧倒的に増えています。具体的には:  - Technological Forecasting and Social Changeのような、技術自体を扱う論文誌  - Journal o...

AI実装に関する組織論の3つの論点:ミクロ/メゾを主に

アメリカ経営学会(AOM) の学術論文誌である Academy of Management Discoveries(AMD) 誌で、昨年12月に 「AIを研究すべき」とするコメンタリー が出ました。AMDは、従来型の論文誌でなく、萌芽的な定性研究を発信し経営研究を刺激する特殊な論文誌です。とはいえ、発行母体が世界の経営学の中心であり、そこがAIを正面から対象と認めたことは、一定のインパクトがあったと思います。 コメンタリーでは、意思決定論の視点を軸に AIの組織実装の重要論点 を抽出しています。 ここでは、それをサマリーすると共に、一部に私見を入れて整理してみます。 まず、 実装の流れには3つの段階がある 、とAMDのコメンタリーは整理します。第一に、 Task input (入力変数としてのデータ) 。テキスト・画像・生態情報など、どのようなデータをどのように取得するか。第二に、 task processes (アルゴリズム) 。入力データをどういう手法で機械が処理するか。そして第三に、 task outputs (solutions, decisions) 。機械が出した分析解に対して組織がどう反応するか、です。このうち前二者は、主にコンピュータサイエンスなどの分野が扱うもの。 経営学では最後の点(組織反応)が重要 と指摘しています。 AIが出す分析解に対して組織がどう反応するか 。コメンタリーは、論点を二つの視点で整理しています。一つには、個々の意思決定にAIをどう使うか。そしてもう一つには、個別の意思決定を越えて問題解決にAIがどう寄与するか。率直に言って原文は二者で論理的重複があると思われ、ここでは分かりやすくするため、これを再編した三点に整理しています。 1.意思決定にAIをどう使うか 意思決定にAIを使う際、避けて通れないのが AIへの権限委譲の問題 です。これは、20世紀からカーネギー学派で議論されてきた本流に近い議論。AIが解を出したとき、それをそのまま意思決定に使うなら、実質的にAIに決定権を委ねることになります。しかし、どうでもよいことを自動決定するだけなら便利で良いですが、「AIが決めたから」ではとても納得できない、深刻な結果を招く領域もあるでしょう。例えば、 コスト削減のために、AIが人員整理を決めてよいのでしょうか。人...

デジタル化と戦略論:組織論的に気になる2つのこと

デジタル技術の進化は経営戦略をどう変えていくのか? 欧州経営学の総合系で最高峰のジャーナル、 Journal of Management Studies がSpecial Issueでデジタル時代の企業戦略に関する研究を1月まで募集していました。革新的技術の台頭が経営学に与える影響を考える上で、重要な一歩だと思います。どんなポイントを問題視しているか、さっと確認してみたいと思います。 Call for papers for a special issue:Corporate strategy and the theory of the firm in the digital age (Journal of Management Studies) ―――以下、要旨――― 経営学における戦略論の研究は、戦略(組織による目標達成)に注目する視点を軸に、「なぜ(他の形態でなく)今日有るような企業組織が成功し存在するのか」という根源的な問いを探ってきた。 昨今のデジタル技術の台頭は、そうした我々の理解の前提を大きく変える可能性がある。戦略論は主に個々の組織について議論してきたが、組織レベルよりも、技術・国際政治のようなより上位レベルの変化に組織行動が左右される傾向が強まっている。また組織から見ても、ビジネスの生態系をどう構成するか、単に顧客と競合ではない、より広範囲を視野に入れた戦略が求められる。こうした 戦略論の新たな論点は具体的には、市場・企業・企業内の3つのレベルで考える ことが出来る。 まず 市場レベル では、デジタル化は市場の境界線を溶かし、新たな産業と生態系を生み出す。 こうした変化は、市場同士の相関性や産業のライフサイクルに関する従来の知識を覆す。総じて言えば、 伝統的な分析単位としての市場や産業が、今日でも本当に意味があるのか が問われている。 次に 企業レベル では、企業の間の境界線、そして企業と市場との間の境界線も徐々に曖昧になりつつある。それに加え、GAFAのような業界を越えた圧倒的巨人企業も台頭している。 これは、戦略論に新たな問いを突きつける。例えば、デジタル化による取引コストの低減は、企業がどこまで自ら保有すべきかの境界線を変化させ、そこで浮いたリソースを他の市場に投入する戦略の重要性を増すかもしれない。また取引コストの...

Datification:技術がヒトの行動原理を変え、社会を支配する?

3つの視点での経営情報論における関心の整理(前回の続き)。 1 システムそのもの(ツール、技術、手法) 2 システムがもたらすある分野への影響(例:医療、マーケティング、教育) 3 システムの具体的な活用とその結果のあり方(例:個人・組織・社会への影響) (以下、次の論文の要旨を咀嚼したものです Günther, W.A., Mehrizi, M.H.R., Feldberg, F., Huysman, M.H., 2017. "Debating Big Data; a Literature Review on Realizing Value from Big Data,". Journal of Strategic Information Systems 26 (3), 191-209. ) 2/3で問題となっている一つの大きなテーマは、「 Datification 」です。ある技術を使ったら、組織がどういう結果を生むか。これが単線・一次的な因果関係ですが、Datificationはこれを越えて因果関係をシステム的にとらえたものです。要は、 ・あらゆるもののデータ化が進み、様々な変化が発生する ・そして、今度はその変化を所与として前提が変化した組織行動が起こる ・特にデータ化浸透の場合、行動や成果の評価方法と質、序列化と分類の方法が革命的に進化することが大きい (主観的な分析と行動に任せた結果を断片的に解析する状態から、データ全量解析と行動の結果に基づく即時フィードバックの浸透) ・その結果、AIが規定する高い評価基準に沿って高評価を得ようと、組織・個人の行動が変質する( AIの分析が結果として意図せざるビッグブラザーになる ) といった議論です。 これに代表される重要なイシューとして、 AIが組織に不可避的につきつける倫理課題を無視することはできない 、という論調が情報系に強く存在します。主に、次のようなものが挙げられています。 ・AI活用による雇用問題・職務の性質変化の問題 (よくある議論ですが)AIは仕事を奪うのか?どう変えてしまうのか? ・AI活用による経営誤判断の問題 データの偏りも含め、AI判断には誤判断もある。小さな分析なら良いが、経営判断の重要部分を結果的に誤判断し、組織や他社に...

AIは経営情報論と組織論をつなげるのか?

組織論は、組織のあり方を問題にした、経営学の中で比較的大きなボリュームを占める領域です。一方で、情報技術を中心に、技術がビジネスの中でどのような影響を及ぼすかをより問題にした領域もあります。いわゆる経営情報論とか情報システム研究に関する学術分野です。これまで 両者は微妙に住み分けあまり会話しなかった ところがあると思います。AOMでいえば、前者(OMTや一部OBなど)と、後者(TIM、OCIS)の微妙だが埋めがたい断絶といいますか。結局それぞれのトップジャーナル(トップ研究者)で問題意識や良しとされる基準が同じでないことが、棲み分けを自然に促してきたと思います。 組織論では、技術を組織のメカニズムの中核としては必ずしもとらえず、むしろそれ以外にも 要因が無数にある組織に関する原理を追求 してきたもの(技術もその一つ)。しかし、AIは徐々に浸透し、ほとんどの経営現象(人間が思考する部分まで)に大きな影響を与えるように見られ始めています。本当にそのような特有の性質があるのかどうか、というのがまずは論点になりますが。 一方で、情報系の経営学では、これまでずっと 新技術が経営・組織に与える影響 を中心イシューの一つとして扱ってきました。情報系ジャーナルでも、Intelligent systemも想定したBig dataに関して、一定の議論が進んできました(実証研究はまだ少ないですが)。情報系のジャーナルで何が問題となっているのか?例えば、Markus (2017)によると3つの視点が提示されています。 Markus, M. L. (2017). Datification, Organizational Strategy, and IS Research: What's the Score? Journal of Strategic Information Systems, 26(3), 233-241. 1 システムそのもの(ツール、技術、手法) 2 システムがもたらすある分野への影響(例:医療、マーケティング、教育) 3 システムの具体的な活用とその結果のあり方(例:個人・組織・社会への影響) 1は、いわゆる IT自体の研究 です。どういうツールやシステムが、どういう技術で成立し、どういう手法で使えるか。ITを組織に実装する実務家にとっては...

AIとリテール:経営学とトピックの関係

Journal of Retailing で、この12月にAIリテールの研究を薦めるコメンタリーが出ました。(Shankar, V. 2018. How Artificial Intelligence (AI) Is Reshaping Retailing. Journal of Retailing, 94: ⅵ-ⅺ.) いわゆるネット小売りだけでなく、リアルの小売店舗の経営にも、AIを適用した新しい変化が起こりつつあり、これを研究すべきとする主旨です。 同誌はマーケティング分野で実績ある論文誌です(ABSのAcademic Journal Guide 2018で上から二番目の4点評価)。AIを研究対象として真剣にとらえる姿勢が、経営学の各分野に広がっている好例と思います。 このコメンタリーでは、小売企業がAIで得られるメリットを、次のように例示しています。 1.モバイルを含めたオムニチャネルでの消費者行動の理解 2.個客に最適化した提案(アマゾンのエコー) 3.接客・顧客リレーション管理(ペッパー) 4.店内の個客経験価値の向上(店内ロボットによる顧客支援、現金レス決済) 5.個客対応窓口と決済マネジメント(チャットボット、ペイパル) 6.広告販促メディア最適化 7.在庫最適化 8.物流最適化・自動化 9.店舗清掃の自動化 そして、有望な研究領域の例として (1)具体的なAI活用システムの設計と効果検証 (2)AI利用環境下での顧客行動のメカニズム (3)AIを応用した、顧客行動の神経心理学的解析 を挙げています。 このコメンタリー自体は、引用文献もほとんどなく、著者の意見が内容のほとんどです。ビジネス雑誌等でも事例はもっと沢山出ていると思いますが、精緻に公開事例を拾ったわけでもなく、網羅的な整理でもない印象です。ただ、先行研究が無い中で、まずはとにかく 「AIの研究をしてもOKだ」と提唱すること が主眼だったのかもしれません。反論や突っ込みも含めて刺激を与える流れと言いますか。 このように、トピック主導で研究をドライブすることに対して、懐疑的な考え方もあります。「 バズワードに乗って経営の流行語を研究するのは真の研究ではない。研究とは理論的貢献のためにあり、理論を磨く道具に過ぎないトピックがどうこうというのは、...

経営学が人工知能を正面からとらえ始めた

Academy of Management Discoveries ( AMD ) という論文誌があります。そこで昨年 12 月に、人工知能がもたらす影響を経営学として研究すべき、というコメンタリーがついに出ました。 AMD は、発行元が Academy of Management ( AOM, 米国経営学会) で世界的なトップ学会です。しかし、 AMD は AOM が出す他の論文誌とは一線を画した特殊ジャーナルです。普通、ジャーナルは理論的貢献(先行研究が提示した理論に関して、それを修正したり、別の側面を示したり、理論間をつないだり、適用範囲や条件を明確にしたり)を尺度に評価されます。しかしこれでは、先行研究に十分材料がなく議論がされない領域だと、理論的貢献を作れず論文になりません。そのため研究には、 既存研究に引っ張られそれがある範囲で無難な貢献を探す方が現実的 、という力学が働きます。かといって、逆に先行研究を無視して新しい理論や現象を自己流に提示しても、それは研究ではなく個人のブログや一般書と同じです。もちろん、ブログや実務書には価値があり、特に実務ではその方がよほどすぐ参考になるものですが、「研究」とはあえてそうしない営みを指すという共通理解があります。要は、 研究をする以上、過去の蓄積を活用できる一方で、論文採択のされやすさを考えると、蓄積に縛られ新奇性を出しにくいというジレンマ があります。 AMD はこうしたジレンマにも対応して 4 年前に生まれた若いウェブ専門ジャーナルです。 AMD が求めるのは、理論的貢献ではなくその萌芽となる「 Discoveries 」です。つまり、 現実の新奇な現象や、理論に修正を迫るかもしれない発見を、無理に理論まで結論付けない素材の状態で出す 。これを刺激に、続く研究者がその発見の含意を理論に昇華させていこう、という取り組みです。 ・定性研究限定 ・厳格性:但しデータ収集・分析手法は普通の論文以上に厳格さを求める ・マルチメディア:文章に加え、研究者の動機など生の声を音声メディアで共有 という特徴があります。 このような AMD にとって、人工知能の台頭がもたらしつつある大変化は、まさに見過ごせないもの。率直に言って 経営学全体の AI に関する取り組みは驚異的なまでに遅かっ...