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経営学が人工知能を正面からとらえ始めた


Academy of Management Discoveries(AMD)という論文誌があります。そこで昨年12月に、人工知能がもたらす影響を経営学として研究すべき、というコメンタリーがついに出ました。

AMDは、発行元がAcademy of Management (AOM,米国経営学会)で世界的なトップ学会です。しかし、AMDはAOMが出す他の論文誌とは一線を画した特殊ジャーナルです。普通、ジャーナルは理論的貢献(先行研究が提示した理論に関して、それを修正したり、別の側面を示したり、理論間をつないだり、適用範囲や条件を明確にしたり)を尺度に評価されます。しかしこれでは、先行研究に十分材料がなく議論がされない領域だと、理論的貢献を作れず論文になりません。そのため研究には、既存研究に引っ張られそれがある範囲で無難な貢献を探す方が現実的、という力学が働きます。かといって、逆に先行研究を無視して新しい理論や現象を自己流に提示しても、それは研究ではなく個人のブログや一般書と同じです。もちろん、ブログや実務書には価値があり、特に実務ではその方がよほどすぐ参考になるものですが、「研究」とはあえてそうしない営みを指すという共通理解があります。要は、研究をする以上、過去の蓄積を活用できる一方で、論文採択のされやすさを考えると、蓄積に縛られ新奇性を出しにくいというジレンマがあります。

AMDはこうしたジレンマにも対応して4年前に生まれた若いウェブ専門ジャーナルです。AMDが求めるのは、理論的貢献ではなくその萌芽となる「Discoveries」です。つまり、現実の新奇な現象や、理論に修正を迫るかもしれない発見を、無理に理論まで結論付けない素材の状態で出す。これを刺激に、続く研究者がその発見の含意を理論に昇華させていこう、という取り組みです。
・定性研究限定
・厳格性:但しデータ収集・分析手法は普通の論文以上に厳格さを求める
・マルチメディア:文章に加え、研究者の動機など生の声を音声メディアで共有
という特徴があります。

このようなAMDにとって、人工知能の台頭がもたらしつつある大変化は、まさに見過ごせないもの。率直に言って経営学全体のAIに関する取り組みは驚異的なまでに遅かったと思いますが、ようやく本丸が動き出したという感じです。AMDはこのコメンタリーに合わせて、特別号「Digital Transformation: What is new if anything?」の募集を行いました。そこでの問題提起で、こんなくだりがあります。

1995年から2018年まで、経営学のトップ22誌でタイトルと要旨を検索すると、「Internet」は125件あるが、「Artificial intelligence」はわずか1件しかない!

これまで、経営学にはバズワードに対して懐疑的なことを善しとする(それが存在価値だという)価値観が強かったのだと思います。しかし、もはやAIをはじめとするデジタルが及ぼす影響は、流行ではなく未来への質的な変化と考えざるを得ない状況なのでしょう。

もちろん、いきなり普通のジャーナルや学会へAI(を素材とした経営理論に関する実証研究の)論文を出すと、まだまだ拒絶感が強いのが昨年(2018年)の実態でした。実際に、あるトップジャーナルにそうした論文を投稿した際のリジェクトコメントは、「これは経営理論ではない、なぜなら誰もそうしたacademic conversationsをしていないから」というものでした。学会でも、春のAOM Big data conferenceでは、理論研究やAIを研究者が分析に使った「普通の素材の研究」は多数ありましたが、AIの実装に関して組織を実際に検証した実証研究はごく少数派でした。欧州中心ですが研究者の反応も、率直に言えば唖然というかコメントが無い(出せない)感じだったと思います。

AMDに限らず、まずは特別号でAIを除外しない形での「デジタル特集号」を組む経営論文誌が増えました。2018-19年のCall for proposalでざっと見てもこんな感じです。
・”Digital Transformation, What is new if anything?”, Academy of Management Discoveries
・”Organizing for social and institutional change in response to disruption, division, and displacement”, Organization Studies (視点が社会課題全般で、若干違いますが)
・”Corporate strategy and the theory of the firm in the digital age”, Journal of Management Studies
・”Leadership in the digital era: Social media, big data, virtual reality, computational methods, and deep learning”, Leadership Quarterly
・“Artificial intelligence and the shaping of business contexts”, Journal of Business Research

2019年(実際には発行までタイムラグがあるので2020年代か)には、AIが経営理論にどう影響を与えるか、ようやく真剣な議論が始まると思います。その中で、経営研究自体もディスラプトされる可能性が高まり、経営研究者自身の存在意義が問われていくと思います。2018年を振り返ると、「水面下の変化が水面に近づき始めた1年」という感じです。

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