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デジタル化と戦略論:組織論的に気になる2つのこと

デジタル技術の進化は経営戦略をどう変えていくのか?
欧州経営学の総合系で最高峰のジャーナル、Journal of Management StudiesがSpecial Issueでデジタル時代の企業戦略に関する研究を1月まで募集していました。革新的技術の台頭が経営学に与える影響を考える上で、重要な一歩だと思います。どんなポイントを問題視しているか、さっと確認してみたいと思います。

Call for papers for a special issue:Corporate strategy and the theory of the firm in the digital age (Journal of Management Studies)

―――以下、要旨―――
経営学における戦略論の研究は、戦略(組織による目標達成)に注目する視点を軸に、「なぜ(他の形態でなく)今日有るような企業組織が成功し存在するのか」という根源的な問いを探ってきた。

昨今のデジタル技術の台頭は、そうした我々の理解の前提を大きく変える可能性がある。戦略論は主に個々の組織について議論してきたが、組織レベルよりも、技術・国際政治のようなより上位レベルの変化に組織行動が左右される傾向が強まっている。また組織から見ても、ビジネスの生態系をどう構成するか、単に顧客と競合ではない、より広範囲を視野に入れた戦略が求められる。こうした戦略論の新たな論点は具体的には、市場・企業・企業内の3つのレベルで考えることが出来る。

まず市場レベルでは、デジタル化は市場の境界線を溶かし、新たな産業と生態系を生み出す。
こうした変化は、市場同士の相関性や産業のライフサイクルに関する従来の知識を覆す。総じて言えば、伝統的な分析単位としての市場や産業が、今日でも本当に意味があるのかが問われている。

次に企業レベルでは、企業の間の境界線、そして企業と市場との間の境界線も徐々に曖昧になりつつある。それに加え、GAFAのような業界を越えた圧倒的巨人企業も台頭している。
これは、戦略論に新たな問いを突きつける。例えば、デジタル化による取引コストの低減は、企業がどこまで自ら保有すべきかの境界線を変化させ、そこで浮いたリソースを他の市場に投入する戦略の重要性を増すかもしれない。また取引コストの変化は、M&A、事業売却、アライアンスの効果と戦略を変化させる。

最後に企業内レベルでは、デジタル化が企業の内部組織に関する常識を変える可能性がある。具体的には、内部の資源配分やそれを行う本社部門の役割の変化、企業戦略の作り方の変化とそれに伴う本社部門の戦略的リーダーシップの変化が萌芽的に議論されている。ビッグデータを活用した自動分析が戦略立案の根幹となるとき、トップダウンでの戦略立案は時代遅れとなり、データが生まれアクションが取れる現場からのボトムアップで、分権化した意思決定をその場その場で常時行うことが常識化するかも知れない。
―――――――――

個人的に面白いと思うのは二点。

第一に、マクロレベル(「市場レベル」)で、環境自体に影響しそれを形成する戦略の議論があまり注視されていないこと。いわゆる非市場戦略、あるいは制度戦略と呼ばれる領域がこれに近く、規制対応・スタンダード形成・世論喚起・業界制度形成などがきわめて重要性が高いと思うのですが。あくまで「市場戦略がデジタル化でどう変わるのか」という色が濃いのは、やはり戦略論の主流が市場戦略にあるということかと感じました。(この議論もあくまで戦略論という経営学の一分野のこれまでの議論ありき、という)

第二に、組織内レベルの議論での、意思決定の未来像が非常に面白い。データツールが行き渡った果てにある未来像として、確かにこれはあり得ると思います。一方で、組織論の方ではあまりこうした未来の意思決定と組織形態の議論が深まっていない印象です。

現在は、例えば人事であれば採用のマッチング、評価、退職予兆のAIによる特定などが話題になっています。ここで単なる参考意見として機械の分析を使い人間が意思決定するのか、さらに踏み込んで自動決定させていくのかは、今後の進展次第です。また、これらは確かに高度な業務ではあるがオペレーションレベル。そもそもどういう人を何人取り、どういう組織に開発していくかを分析を元に策定していく、人事戦略の分野でも機械が人間を代替していくかも知れません。その際に起こりえることは、上級マネジャーや経営陣がデータを待ってトップダウンで意思決定(決裁)する意味が薄まること。「ほぼ正しい」といえる分析結果が自動で上がる中で、いちいち上に上げる時間を取る意味も無い。そうすると意思決定の民主化(AIを参照すれば誰でも複雑な意思決定で間違えにくい)、分権化(意思決定を現場・スタッフレベルでAIの力を借りて行う)が進む。こうした傾向が出てくる可能性は強いでしょう。ごく小さな程度であれば、これは既に起こりつつあります。

そうした未来組織では、いくつかの組織論的な論点が浮かび上がると思います。一つには、意思決定の権限委譲の問題。人はどこまで機械に意思決定を任せることが許容できるか。どのような意思決定は機械任せで気にならず、どこからは機械に任せられないのか。その基準は何か。自動運転のトロッコ問題などで既に話題になっていますが、AIが浸透すると、程度の差はあれオフィスでも同じ問題が起こってきます。例えば、パーソナルアシスタントで業務を自動化したとき、どこまで機械に予定や優先度を変更させてよいのか。あるいは、AIが裁定した採用や人事評価に人は納得するのか。それが退職勧奨ならどうなのか。AIが決めたM&Aで大損が出たらどうするのか。経済的責任だけでなく、これらは倫理的にも許せるのか。こうしたメカニズムを心理的な側面も含めて解明し、規範を形成していく必要が今まさにあると思います。

もう一つ気になるのは、新しい時代に経営者やマネージャーの役割とは何になるのか、という点です。スタッフがAIを使って現場で即時意思決定できるようになる、あるいはそもそもAIが大半の意思決定をする企業で、経営者やマネージャーの役割とは何でしょうか。教科書的には、人間の社員に対してビジョンを提示しコミュニケーションし動機づけることだ、となるのでしょう。確かに当面はそうだと思うのですが、それは移行期の話なのかも知れません。AIの性能やメンテナンスが競争優位性を大きく左右する時代となると、経営者やマネージャー自体が人間である必要性がなくなるかも知れません。確率上、経済価値を損なう意思決定が人間より少なくなれば、従業員から見てもその方が依怙贔屓がなくてよいという考え方もあるでしょうし。あるいは、むしろ個々の従業員がスキルを売る個人経営者となり、企業組織自体が随時メンバーが変化する協働プロジェクトのようになるか。
このあたりはまだ実データが無く妄想になってしまいますが、大変重要で面白い論点だと思います。

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