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営業組織にデータ分析を導入する

データ分析の導入で、大企業の組織はどう変わるのか?今回の論文は、特定の部門(営業)に閉じた話ですが、そうしたよくある関心に応える事例研究です。 Pachidi, S., Berends, H., Faraj, S., & Huysman, M. (2021). Make way for the algorithms: Symbolic actions and change in a regime of knowing. Organization Science, 32(1): 18-41. 要するにこの論文は : データサイエンティストによるアルゴリズム分析の営業組織への導入を題材に、新技術導入が組織を変えるメカニズムを探索した事例研究。 ポイント : 新技術の導入は組織を変える。その経路として、組織の中で知識獲得のあり方(Regime of knowing)が変わることは重要である。 知識獲得のあり方とは、知識を得る手段(Knowing practice:)、得た知識を評価する基準(Valuation scheme)、意思決定権のあり方(Authority arrangements)から成る。 これらが変わることは、組織の構成員が何に基づいて、何を重視して意思決定するかを変えることにつながるため、理論的に重要な影響を持つ。 本研究は、深く検討されてこなかったこのメカニズムを、新技術導入の事例研究を通じて解明する。 具体的には、大手通信会社のB2B営業組織を2年間にわたり観察研究し、そこでデータサイエンティストがデータ分析技術を導入し組織が変化する過程を検討した。 結果として、以下が明らかになった: データサイエンティストがデータ分析に基づくCRMシステムの導入を始めると、その受け手である顧客担当マネジャーたちは顧客との信頼関係に基づく顧客情報こそが成功のカギと考え、新しいシステムを自分たちと相容れないものと見た。しかし、変革を平穏にやり過ごすために、導入に表面上は賛成し、システムを使用したフリをして、時に古いやり方で挙げた成果を新システム使用によるもののように報告した これに対して、データサイエンティストはマネジャーたちの「フリ」を利用し、新システムが成果を挙げたことを事実として主張した。営業組織の知識獲得のあり方が、個人の関係性依存からデータのアルゴリズ...

AIを理論構築・仮説検証でどう使うか

経営学の学術研究をAIがどう変えていくのか? 例えば、経営理論やその検証をAIが自動化することはあるのか? ここでは、前回のエントリーで示した総論(デルファイ法による専門家の想像)に対して、実際に今AIを使って提唱される研究手法の論文を紹介します。 Shrestha, Y. R., He, V. F., Puranam, P., & von Krogh, G. (2021). Algorithm supported induction for building theory: How can we use prediction models to theorize? Organization Science, 32(3): 856-880. ポイント: 社会科学の多くの分野で、機械学習アルゴリズムを使った新しい研究手法が急速に浸透している。伝統的な仮説検証型の研究も、その例外ではない。 アルゴリズムを効果的に使うことで、定量研究の中核である仮説検証型の研究の質を高めることが出来る。具体的には、次のような4つのステップが推奨される(詳細はごく簡略にして記載) 1. サンプルの分割 ランダムに定量データを2つに分ける(サンプル1とサンプル2)  2. 頑健かつ人間に理解できる変数とパターンの抽出 サンプル1に対し、機械学習モデルを使って重要な変数を抽出する 重要変数間の関係性を抽出する(複雑性の程度を決め、また過適応への調整を行う) 3.理論(検証すべき仮説)を構築する (変数の意味と紐付けて人間が意味があると思う仮説にする必要があるため、通常の仮説検証と同様に人間が行う) 4.仮説検証 サンプル2で仮説を統計検証する(方法は通常の仮説検証と同様) AIが真価を発揮するのは理論形成(仮説構築)の部分であり、アルゴリズム支援による理論抽出は人間が形成するよりも妥当性の高い変数(例えば説明変数候補)を抽出する。これは、アルゴリズムで検証する方が、人間が行うよりも過適応(オーバーフィッティング)の問題を厳密に取り除くことができるためである。 このような、AIの浸透は人間をただちに置き換えるものではない。しかし、一流の研究者が行うのと同じ配慮を、より厳密な方法で行う点で研究者に大きな発展性をもたらす。 この方法を使って各研究者が研究を進めていくと、従来は人間がお...

AIが激変させる経営学の未来

 経営学は、自動化されるのか?人間の経営学者は、不要になるのか? 今回扱う論考は、AIが専門職の仕事を自動化していく時代に、経営学研究者という専門職のタスクがどうなるかを予測した議論です。伝統的な意味での厳密な研究ではありませんが、AIが経営学(のみならず社会科学全般)研究どのような影響を及ぼしていくかを深く検討しています。 Johnson, C. K., Bauer, B. C., & Niederman, F. (Forthcoming). The automation of management and business science. Academy of Management Perspectives. ポイント : AIは、専門的知識を必要とするタスクを自動化しつつあり、その範囲は徐々に広がってきている。 経営学研究もその例外ではなく、実際に少しずつAIや自動化ツールが浸透しつつある。今こそ、経営学者自らがメタ的に経営学の未来を構想すべき時である。 そこで、本研究ではデルファイ法を使って、技術にも知見の深い経営学者68名に意見を募り、のべ合計16名から意見を集めた。経営学者全体の平均的見解を描くことよりも、幅広い先進的な可能性の可視化を重視した。経営学研究プロセスの次の各ステップについて近未来・遠未来の技術的代替性とその示唆を提示した。 その結果、以下の未来像が浮かび上がった。 1.近未来: 文献サーチ・データ収集・データ分析の3つのタスクで、自動化が最も進みつつあり、この傾向が続く。なぜなら、これらが最も判断の必要性が小さいためである。 文献サーチ:①今ある文献を把握し、②著者や内容など基本情報を紐づけ、③ギャップのある領域を特定するタスク。ネットワーク分析やトピックモデリングの利用により、包括的に関連文献を抽出し、そこから研究アジェンダやリサーチクエスチョンを抽出することは既に可能になっている(そうした論文も一部公刊されている)。 データ収集: 定量データは既にオンラインで提供される・取得できる範囲が十分に拡大しており、ツールも多い(mTurkやSurveyMonkeyで簡単にデータを取得できる)。但し、論文誌がこうして簡易かつ大量に取得したデータに懐疑的になりつつある点は留意が必要。 定性データは、取得が難しそうに見えるが、情報量...

専門職の仕事は、デジタル化でどう変わるか?

AIが人間を代替して仕事を奪うという議論は一時期大きく話題になりました。その後、職業、特に専門職(弁護士・会計士・医師など)とAIをめぐる議論はさらに発展しています。ここでは、そうした最新の論文の一つを取り上げます。 Sako, M., Qian, M., & Atolini, J. (2022). Future of professional work: evidence from legal jobs in Britain and the United States. Journal of Professions and Organization, 9 (2): 143–169. 要するにこの論文は : AI等デジタル技術の浸透が専門職の仕事にもたらす影響を、英米の弁護士を題材にウェブ上の求人情報から検証した定量実証研究。 ポイント : デジタル技術は専門職の仕事にどう影響するか? この問いには、専門職の管轄領域のコントロール(professional jurisdictional control)という視点が有用である。 専門職の管轄領域のコントロールとは、外部からの妨害要因に対して、専門職が自らの管轄領域を守ったり変えたりする働きかけを指す。国や専門職によってその方向性が異なる デジタル技術は、そのような外部からの妨害要因の典型例である 管轄領域のコントロールは、防衛的である場合も開放的である場合もある。 防衛的なコントロール:専門職は既存の管轄領域を守りながら、外部変化から生まれた新しい補助タスクを、自らに従属する他の職業に担当させる 連携的なコントロール:専門職は新しいタスクを他の職業と分かち合い、対等な立場で望みつつ、自らの管轄領域も変化させる。 本研究では、法務の仕事に関するウェブ上の求職データを大量に集め、上記の仮説を検証した。具体的には: 2014-2020年について、以下のデータを収集した 雇用主は、英米共に伝統的な法律事務所・企業的な法律サービス事務所(リーガルテックを使った法務アウトソースなどを請け負う)・それら以外の他の企業雇用主の3種のセグメントを含む 英国:連携的なコントロールの例 法曹業界の求人89.1万件(要求資格に応じて弁護士向け42.6万件・その他の法律専門職向け19.5万件・その他向け27万件の3種) 他の業界での求...

人材の可視化がもたらす影響

社内でこういう分野が得意な人はいないか?社内でこういうプロジェクトを過去にやった人がいるのではないか?必要な知識や専門性を持つ人材と素早くコンタクトできれば、ゼロからやるよりも圧倒的に速く仕事が出来ます。昔からそういう社内ディレクトリはありましたが、デジタル技術はそれをさらに高度に、かつコミュニケーションとも連動させています。今回の論文は、そうした人材検索システムが成果にもたらす影響を検証したものです。 Wu, L., & Kane, G. C. (2022). Network-biased technical change: How modern digital collaboration tools overcome some biases but exacerbate others. Organization Science, 32(2): 273-292. 要するにこの論文は : あるITサービス企業への社内人材検索システム導入を題材に、そうしたシステムがもたらす結果を検証した定量実証研究。 ポイント : 企業にとって知識は重要な競争優位の源泉であり、社内の誰がどのような知識と専門性を持つかを的確に把握して知識を活用することは重要である。 デジタル技術の台頭で、そのような「誰がどのような知識と専門性を持つか」を可視化する仕組み(Digital transactive memory system, DTMS)が浸透しつつある。本研究では、DTMSがもたらす影響を検討した。 具体的には、ある大手IT専門サービスファームで、社内人材の専門性が検索・表示され、連絡が可能となるデータベースシステムを導入した3年間の利用データを統計的に分析した。その結果、以下が明らかになった。 DTMSの影響は、ユーザーの属性によって異なる形であらわれる。 特に、これまで組織で権力を持たなかった層(若手や女性)に対して、ポジティブな影響が強く表われた。具体的には、リアルの世界で目立たない/過小評価される人も知識やスキルがあれば検索で表示されるため、こうした層の組織内での新しいコネクション量が特に増え、より多様な相手とつながって新しい仕事への貢献や情報獲得が可能となり、売上(顧客にチャージできる稼働時間)も増えた。 一方で、組織内で高い地位にあるなど有利な立場にあった層は、若手や...

専門的サービスのDX

法律や会計など、専門的知識に基づくサービスにも、デジタル技術の影響は広がっています。今回扱うのは、そのような専門的サービスの世界で、どうイノベーションを実現するかという論文です。 Dodgson, M., Ash, S., Andrews, J., & Phillips, N. (Forthcoming). Managing Technology-Enabled Innovation in a Professional Services Firm: A Cooperative Case Study. Academy of Management Discoveries. 要するにこの論文は : AIなど技術を導入したイノベーションを、総合プロフェッショナルサービスファーム(PwC)がどう実現したかについての実証研究。 ポイント : イノベーションの研究は製造業を中心としており、サービス業、特に専門サービスについての研究は非常に限られている。 本研究は、監査法人やコンサルティングなど幅広い専門サービスを提供する国際的プロフェッショナルサービスファーム(PSF)であるPwC(イギリス)が、AIなど技術を導入したイノベーションをどう実現したか、3年間の過程を、当事者も研究者と共に研究に参加する形で探索した。 結果として、以下が明らかになった: PSFの技術導入イノベーションは、新技術導入に対する必要性(ファーム内部での効率性向上ニーズ、クライアントの競争優位向上支援のニーズ)を契機として始まる しかし、PSFには固有の障害(パートナーが自律的である組織構造、ファームとしての全体戦略よりも個々のクライアント中心、規制産業としてのイノベーションスキルの不足)がある そのため、PSFの技術導入イノベーションは特有の形を取る。具体的には: シニアリーダー層の強いコミットメントが重要となる 具体的な成果物は、現場と協働しながら創発的に作られていく イノベーション自体が浸透していないため変化の触媒となるような仕掛けが必要となる(人材育成など) さらに、これを支援するために。実験的なスペース(試行錯誤を許す環境、物理的なコラボレーションスペースを含む)と知識面のスペース(学びの共有と反芻)の二つが発達する これらが効果的に機能することで、イノベーションは成果を生む 合わせて、プラ...

デジタル化とコーポレートストラテジー

論文誌では、ときどきテーマを決めて特集号が組まれることがあります。デジタル化についての特集号も2020-21年に刊行されるタイミングでかなり多く出ていました。ここでは、その一つを扱い、個々の論文ではなくその冒頭のエッセイでまとめとして書かれたことを取り上げます。 Menz, M. et al. (2021). Corporate Strategy and the Theory of the Firm in the Digital Age. Journal of Management Studies, 58 (7): 1695-1720. 要するにこの論文は : デジタル特集号の巻頭論文。特に全社戦略と企業に関する論点を整理した論考。 ポイント : デジタル化は、①全社戦略のあり方について、また②企業という存在の境界について、③企業の内部構造について、大きな変化の可能性を投げかける。 ①全社戦略のあり方について、デジタル技術が様々な領域の境界線を曖昧にする影響から、特に二点について新しい傾向が登場している。 ビジネスモデルの選択肢が大きく多様化し、かつリアルよりもビジネスモデルの可変性が高まっている。かつ、プラットフォームモデルを筆頭に、優れたビジネスモデルを構築できるか否かが、他のリアル要素を超えて圧倒的に重要な影響を持つようになる。このため、全社戦略の意味がビジネスモデル論に集約する傾向すらある。 全社戦略の焦点が、価値獲得から価値創造にシフトしている。これは、デジタル時代に登場するビジネスモデルの多くが、ポーター的な視点で見れば魅力の無い市場であることと関係している。参入障壁は低く、差別化可能な固定資産は無く、ITで多くの情報を持つ買い手の交渉力は圧倒的に強く、サービス開始当初はスイッチングコストも非常に低い。しかし、成功するデジタルビジネスは、顧客が一度ロックインされると替えの効かない圧倒的な依存性を実現する。そのため、勝者となれば価値を総取りできる。企業はこれが分かっているため、目先の利益獲得ではなく後で収奪するための価値の創造に邁進する。 ②企業の境界については、デジタル化は二律背反する作用がある。 一方では、あらゆるものがオンライン市場で取引可能になるため自前で人や資産を抱える必要性は下がり、企業が機能を内製化して規模を追う意味がなくなる。他方では、AI...