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人材の可視化がもたらす影響

社内でこういう分野が得意な人はいないか?社内でこういうプロジェクトを過去にやった人がいるのではないか?必要な知識や専門性を持つ人材と素早くコンタクトできれば、ゼロからやるよりも圧倒的に速く仕事が出来ます。昔からそういう社内ディレクトリはありましたが、デジタル技術はそれをさらに高度に、かつコミュニケーションとも連動させています。今回の論文は、そうした人材検索システムが成果にもたらす影響を検証したものです。

Wu, L., & Kane, G. C. (2022). Network-biased technical change: How modern digital collaboration tools overcome some biases but exacerbate others. Organization Science, 32(2): 273-292.

要するにこの論文は:

あるITサービス企業への社内人材検索システム導入を題材に、そうしたシステムがもたらす結果を検証した定量実証研究。

ポイント:

  • 企業にとって知識は重要な競争優位の源泉であり、社内の誰がどのような知識と専門性を持つかを的確に把握して知識を活用することは重要である。
  • デジタル技術の台頭で、そのような「誰がどのような知識と専門性を持つか」を可視化する仕組み(Digital transactive memory system, DTMS)が浸透しつつある。本研究では、DTMSがもたらす影響を検討した。
  • 具体的には、ある大手IT専門サービスファームで、社内人材の専門性が検索・表示され、連絡が可能となるデータベースシステムを導入した3年間の利用データを統計的に分析した。その結果、以下が明らかになった。
    • DTMSの影響は、ユーザーの属性によって異なる形であらわれる。
    • 特に、これまで組織で権力を持たなかった層(若手や女性)に対して、ポジティブな影響が強く表われた。具体的には、リアルの世界で目立たない/過小評価される人も知識やスキルがあれば検索で表示されるため、こうした層の組織内での新しいコネクション量が特に増え、より多様な相手とつながって新しい仕事への貢献や情報獲得が可能となり、売上(顧客にチャージできる稼働時間)も増えた。
    • 一方で、組織内で高い地位にあるなど有利な立場にあった層は、若手や女性よりもコネクション量の増え方は少なかった。ただし、コネクションの多様性は増した。これは、最初から多くの情報やコネクションをもっているので、ピンポイントで必要な相手(今まで無視されがちだった女性や若手も含む)にアクセスすることに使う指向が強かったことを示す。
  • 経営的には、これは次のような示唆を持つ:
    • DTMSなどの人材を可視化するツールは、これまで不利になりがちだった層(女性や若手)をより活躍させるのに有効な働きをする。
    • DTMSは万人にフラットな状態で機能するのではなく、元からある組織内のリアルの関係性が結果に大きな影響を及ぼす。経済学では最新技術の登場の結果が、使い手のスキルによって影響されることを強調する(skill-based technical change)が、本研究からは、ネットワークによって影響を受けることが含意される。(network-based technical change)

コメント:

デジタル技術を使った新しいツールの浸透が、組織にどのような影響を及ぼすか。このような実務的関心も広く集める領域の研究です。定量的に検証している点は、デジタル技術のログが残り統計解析もしやすい特性をうまく生かしていると思います。

また、この研究の文脈の特徴として、ITサービス企業(タイムチャージ制)であることがあると思います。いわゆるプロジェクトベースで動く専門職組織にやや近いと思われますが、特に法律などで規制された環境ではないので、論文で主張しているプロフェッショナルサービスファーム一般にあてはまる話ではないと思います。たとえば通常の弁護士事務所などは、より専門性の幅が狭く範囲も決まっていて、キャリアの初期/中期は経験年数の影響が大きいので、ITで容易に検索してもらえるようになったからといって、若手にそこまで活躍の機会が広がるか疑問です。また一般に専門職組織はお互いが分かる小さい組織が多いので、いちいち検索する必然性が無い場合も多いと思われます。もちろん多少なり論文で主張するような効果はあり得るとは思いますが。プロジェクトベースでチームを柔軟に変え、必要に応じて助っ人を一時的に組み込める体制の組織、かつお互いの顔が見えないレベルの大規模な組織、と考えると対象がより正確だと思います。

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