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AIを組織論研究でどうとらえるべきか?

 社会的な視点が、技術と組織を考える際には欠かせない。今日の論文はそんな主張です。 Glaser, V. L., Pllocl, N., & D’Adderio, L. 2021. The biography of an algorithm: Performing algorithmic technologies in organizations. Organization Theory, 2: 1-27. 要するにこの論文は: 経営学(組織論)での伝統的なAIのとらえ方を批判的に振り返り、あるべきとらえ方を提唱した理論論文。 ポイント: 経営学では、AIを主とするアルゴリズムを「コンピューターツール」としてとらえる研究が支配的となってきた。そこでは、次のような前提がある: アルゴリズムは自律的で独立しており、その内容はブラックボックスで文脈と関係なく一定の働きをする アルゴリズムは、強力な予測能力を持ち、その力で組織をより合理的に運営させるツールである しかし、そのような見方には次のような課題がある: 技術を固定的に見ることは、人が技術をどのように解釈し反応するかを無視し、組織の中で予想できない反応が出る可能性を無視してしまう 組織の文脈は千差万別であり、同じ技術でも、組織によってその採用時期・習慣・文化・持っている資源などの条件で反応が大きく変わり得る そのため、AIを考える際には、①行為遂行性と②伝記的アプローチを視点に加えることが重要である。 ①行為遂行性とは、人は言葉を通じて解釈することで社会的な現実を創り出す、理解し行うことで現実が形作られるという視点である。 この視点を入れることで、AIが組織にもたらす影響の微妙なニュアンスや個別性をより精緻に分析することが出来る。 要は、AIを人がどう解釈するかによって、組織のルーチンや構成員の役割は少しずつ違う形に変化し、その変化が次の変化を生むとする考え方である。 ②伝記的アプローチとは、ちょうど人の伝記を書くように、ある技術とある組織が相互にどう影響していくかを、時系列を追って重要なイベントを精緻に見ることで描き出す視点である。 コメント: この論文は、従来の技術決定論を覆して1980年代から台頭してきた「技術の社会構成主義」を、AIにもきちんと適用しよう、という論文です。組織論では既にそれが主...

データ万能主義をどう克服するか?

AIやデータ分析の重要性は、絶対的なものとして広く認識されるようになっています。しかし、そのようにテクノロジーを盲信して良いのでしょうか?今日の論文(エッセイ)は、こうした技術万能主義に対して、組織論がどのような視点を提示できるかを考察したものです。 Saifer, A., & Dacin, M. T. 2022. Data and Organization Studies: Aesthetics, emotions, discourse and our everyday encounters with data. Organization Studies, 43(4) 623–636 要するにこの論文は : 組織論研究で、昨今のデータの台頭をどうとらえるかについてのエッセイ。 ポイント : 昨今は、データの重要性に関する議論が熱狂的なまでに高まっている。それにもかかわらず、組織論研究者は、人が組織やその周辺のデータと「データ化」をどのように経験し、関与するかについて、固定的な価値観に囚われている。 固定的な価値観とは、はじめから組織に決まった形で潜在的に埋もれているデータが、昨今の技術でうまく数値や統計としてキャプチャされるようになり、解釈され、運用可能になるという世界観である。 しかし、実際には、データとデータ化は、多くの場合、数値や統計とはほとんど関係のないさまざまな方法で組織生活の中で経験されるものである。具体的には、我々の日常におけるデータの美的側面、感情的側面、そして言説としての側面が重要である。 美的側面とは、データ化自体を絶対正義と見なし、データに基づいて決定すること自体が、優れていて価値があると盲信したくなる作用(とそれに対する反対運動)である。一部の人や団体はデータ化を盲目的に善として大量のデータを生み出そうとするが、それが使える知恵につながるとは限らない。 感情的側面とは、データ化と監視社会化が、様々な感情的反応を呼び起こすことである。サーベイランスの強化は、監視される恐怖や不安をあおり、また怒りを起こすこともある。一方で、文脈によっては監視されていることが安心感を生む。 言説としての側面とは、「データ分析は仮説も結果の解釈もなしに唯一で明快な正解を出す」と思われやすいが、実際には結果の解釈や使い方に関する議論を必要とすることである。人...

技術のとらえ方はどんな尺度で測れるか?

社会科学で様々な概念を使うためには、それを測るための尺度が必要です。データの中である概念を示す部分がどこなのか、それをどう解釈できるかについて、ルールがないと恣意的で再現不能な結果が自由に作れてしまうためです。今回の論文は、AIをはじめとする昨今のデジタル化に関して、そうした尺度の一つを提唱したものです。 Spieth et al. 2021. Technological Frames in the Digital Age: Theory, Measurement Instrument, and Future Research Areas. Journal of Management Studies, 58: 1962-1993. 要するにこの論文は: 個人が技術をどのようなものとして捉えるか、とらえ方(Technology framing)を規定する基準を、検証に基づいて提案する論文。 ポイント: 人が技術をどのようなものとしてとらえるか、そのとらえ方(Technology framing)は、技術の使われ方と結果を大きく左右するため重要である。 しかし、そのとらえ方を測る基準や類型がなく、研究毎にばらばらな解釈をしている。そのため、この研究ではそれを測定する尺度のフレームワークを開発した。 文献から技術のとらえ方の候補となる箇所を抽出すると共に、それを人間が手分けして数段階に分けてラベリングし、互いの評価結果から重複や不整合を排除し、新しい候補を出す過程を何度か繰り返し、その後サーベイなどで追加検証を行って確定した 結果として、personal attitude, application value, organizational influence, industrial influence, supervisor influenceの5つが技術のとらえ方を形成する要因であり、結果として新しい技術受容への態度に影響することが確認された。 コメント: 技術の機能や普及は運命的に決まったものではなく、受け手の人々がそれをどういうものだと解釈するかによって変わる。現在は、このような、技術を社会構成主義的に考える見方が支配的となっています。それを突き詰めると、「人はそれぞれ新技術に対する見方が違い反応も違うので、新技術がもたらす結果は、実際に人々がそれを解釈してみない...

AIの導入によって、どのような従業員のパフォーマンスが上がるのか?

今日の論文は、トップジャーナルで珍しい、AIがからんだ最新の実証研究です。  Tang, P. M., et al. Forthcoming. When conscientious employees meet intelligent machines: An integrative approach inspired by complementary theory and role theory. Academy of Management Journal, 1-72. 要するにこの論文は: 機械学習をはじめとするAI利用の普及が、従業員に与える影響を三種の実験で検証した実証研究論文。 ポイント: AI・ロボットの普及によって、20世紀の前提に立つ組織理論のいくつかは修正を余儀なくされる可能性がある。 ここでは、その一つとして「実直で秩序立てて働くことが得意な従業員こそが、組織で最も高い成果を上げる」とする古典的理論を検証した。 具体的には、以下三種の実験を行った: 実験1:マレーシアのIT企業で、AIと協働して顧客企業の従業員のコンプライアンスを監視する従業員と同僚に対して、一定期間アンケートを行った。 実験2:台湾のホテルで、サービス提供にロボットを使う場合と使わない場合とを両方スタッフに体験させ(3日間)、その後アンケートを取った。 実験3:米国の多様な業界で働くホワイトカラーのフルタイム従業員に、オンライン上で仮想のビジネスコンサルティングにアルゴリズムを使ってもらう実験を行い、アンケートを取った。 以下の結果を得た: 実験1:AIを仕事で使う場合、実直でシステマチックな従業員の方が、そうでない従業員よりも、自分の役割の曖昧さを強く感じたと回答した。そして役割の曖昧さを強く感じるほど、周囲による仕事の評価(成果)が低かった。 実験2:ロボットを使った場合に、実直でシステマチックではないスタッフの方が、自分の有能性への評価が高まり、自分の役割がより曖昧になったと感じる度合いが低かった。この役割が曖昧だとする認識は、評価(成果)の低さと相関していた。 実験3:(本当は有用ではないが有用であると誤って被験者に知らされた)アルゴリズムを使った場合に、実直でシステマチックな従業員の方が、アルゴリズムを使ったことによる自分の役割の曖昧さを感じる度合いが高く、周...

AIと機械学習は経営理論をどう変えるか?

今日の論文は経営学研究者向けの、AI活用のススメ的な内容です。 Leavitt, K., Schabram, K., Hariharan, P. & Barnes, C. M. 2021. Ghost in the machine: On organizational theory in the age of machine learning. Academy of Management Review, 46: 750-777. 要するにこの論文は: 機械学習をはじめとするAI利用の普及が、経営理論に与える影響を検討したレビュー論文。 ポイント: 前提として、機械学習の3形態は、経営理論の理由付けに用いられる3つの手法と対応している。これは、経営理論と機械学習の相互の役割を理解する土台となる: 教師あり学習:演繹法(仮定と規則から、現象を説明する) 強化学習:仮説的推論法(現象から、仮の規則をあてはめ仮定を抽出する) 教師無し学習:帰納法(仮定と現象から、規則を抽出する) 機械学習と経営理論は、機械学習があれば経営理論が不要になるといった、相反するものではない。むしろ、両者を適切に併用することで、近年の経営理論が抱える課題が解決できる。経営学者はそのシナジーを追求すべきである。 機械学習は、現時点でそれだけでは万能ではない。 一方の経営理論も、細かい専門領域にタコツボ化して全体像や相互の整合性が全く無く、また論文採択を狙って当たり前の無難な小さな飛躍しか言わない、という深刻な課題を抱える。 具体的には、機械学習は経営理論に多数ある、理論として提唱されたが検証されずに放置されている中射程の理論を広くテストし、その適用範囲を自在に調整することに役立つ。 中射程の理論は、個々の組織に完璧にあてはまり実務にすぐ使えるほど具体的ではないが、社会全体にあてはまるほど普遍的で抽象的なものではなく、その中間にある。ある法則性を提示するが、そのあてはまる条件として特定の文脈が設定されているので、実際にそれが正しいか現実に幅広くテストするには大きな時間とコストがかかる。機械学習であれば、モデル化によってこれを一気にテストすることが可能となる。 さらに、用いるデータや文脈を変えてモデルを再調整することで、中射程の理論から普遍的な理論として何が抽出出来るかを試す、あるいは局所的にの...

AIと組織はどう似ているか?

今日の論文は、人工知能の学術研究が、組織理論に与えてきた影響を整理した、少し毛色の変わった最新のレビュー論文です。 Csaszar, F. A., & Steinberger, T. 2022. Organizations as artificial intelligences: The use of artificial intelligence analogies in organization theory. Academy of Management Annals, 16: 1-37. 要するにこの論文は: 人工知能研究の理論が、組織論の研究に影響を与えてきた影響を概観したレビュー論文。 ポイント: あまり注目されることがないが、組織論研究は、人工知能研究の理論から多くのアイデアを借りて発展してきた。 その理由は、人工知能も組織論も、「人為的に作られたシステムがどのように知的行動を追求できるか」という、同じ問いを問う共通項があるためである。 それらの移転されたアイデアは、次の10種のアプローチに要約できる。 サイバネティクスと制御理論 組織論では、aspirations, communication processes, requisite variety and simple rules, system dynamics and vacillation 発見的問題解決 Bounded rationality search, rugged landscapes, organizational programs and routines 進化的計算 Exploration and exploitation, organizational evolution, modularity 強化学習 Ambiguity in organizational learning, credit assignment and model-based organizational methods, complex and interactive learning processes エキスパートシステムと知識 Codifying organizational knowledge, limits of codified knowledge, scripts, skills,...

AIのバイアスはどうすれば抑制できるのか?

アルゴリズムの処理結果をそのまま使おうとすると、結果が歪んでいることがあります。このようなバイアスにどう対処すべきか?ここでは、これを実験で検証した戦略論ジャーナルの論文を取り上げます。 Choudhury, P., Starr, E., & Agarwal, R. 2020. Machine learning and human capital complementarities: Experimental evidence on bias mitigation. Strategic Management Journal, 41(8): 1381-1411. 要するにこの論文は: データのゆがみから生まれるAIのバイアスをどう抑制できるかに関する、事例と実験での実証研究論文 ポイント: 特許審査は、申請データにゆがみがあり、その微妙な真贋の判定が必要なタスクである。 申請者は一般に、申請が認められやすいよう、言葉の工夫で新規性を誇張して主張する(ゆがんだ言語データを生成する)。 そのため、審査分析を単純に人工知能で機械化すると、文言に誘導され結果にバイアスがかかってしまう。 これに対し、米国MBA学生(221人)による実験(AIを活用した特許の模擬審査)を行った。結果として、特許対象の文脈に予備知識がある人間がAIを補助することで、AIはより妥当性の高い分析結果を抽出できるようになり、バイアスが抑制された。 コメント: AIの判断の質(バイアス)は、データの質に強く影響されます。現実にはゆがんだデータは多いため、AI活用の際には、バイアス除去のための対応が重要な準備となります。そのための一つの解決策は、綺麗なデータを使うこと(データクリーニング)ですが、それだけでは十分ではありません。もう一つの解決の方向性は、AI自体は不十分なものとして受け入れ、文脈知識ある人間がAIの補助を行う、相互補完の共同作業を設計することとなります。 この論文は、そのような、「人間とAIの共同作業で実際にバイアスが抑制できる」ことを示した点が、発見の中心となります。特許審査という、実際に存在する業務でこれを実証した点も画期的です。 アルゴリズムの処理結果を使う時に、一定の誤りやバイアスがあることを前提とすることは、非常に重要です。その際に重要なことが二つあります。 一つには、 誤...