今日の論文は、人工知能の学術研究が、組織理論に与えてきた影響を整理した、少し毛色の変わった最新のレビュー論文です。
Csaszar, F. A., & Steinberger, T. 2022. Organizations as artificial intelligences: The use of artificial intelligence analogies in organization theory. Academy of Management Annals, 16: 1-37.
要するにこの論文は:
人工知能研究の理論が、組織論の研究に影響を与えてきた影響を概観したレビュー論文。
ポイント:
- あまり注目されることがないが、組織論研究は、人工知能研究の理論から多くのアイデアを借りて発展してきた。
- その理由は、人工知能も組織論も、「人為的に作られたシステムがどのように知的行動を追求できるか」という、同じ問いを問う共通項があるためである。
- それらの移転されたアイデアは、次の10種のアプローチに要約できる。
- サイバネティクスと制御理論
- 組織論では、aspirations, communication processes, requisite variety and simple rules, system dynamics and vacillation
- 発見的問題解決
- Bounded rationality search, rugged landscapes, organizational programs and routines
- 進化的計算
- Exploration and exploitation, organizational evolution, modularity
- 強化学習
- Ambiguity in organizational learning, credit assignment and model-based organizational methods, complex and interactive learning processes
- エキスパートシステムと知識
- Codifying organizational knowledge, limits of codified knowledge, scripts, skills, and routines
- コネクショニズムと機械学習
- Interactive learning in games, interpretive processes, representational complexity
- ベイジアンネットワーク
- Strategic decision-making process, dealing with causal ambiguity, causal understanding
- セルオートマトン
- Segregation, evolution of cooperation, population ecology dynamics, social autopoietic systems
- 分散型人工知能
- Organizational cognition, coordination and organizational processes, transactive memory, boundary objects
- アンサンブル学習
- Information aggregation in organizations, reliability of decision-making structures, wisdom of crowd, cognitive diversity
コメント:
この論文は、「人工知能が組織や戦略をどう変えるか」というよくある問いでなく、「そもそも組織を考える我々の理論(ものの見方)に、人工知能の研究がどう影響してきたか」を問題にしています。やや研究者向けのメタ的な視点とも言えるでしょう。非常に面白い視点で、また人工知能研究・組織論両面で、幅広く理論を捉えてその類似性を指摘しています。挙げられた範囲では説得力もあり、こうした橋渡しの視点が、組織を考える視点を重層的にするのに役立つと思います。
一方で、この議論には明確な限界が2つあると思います。第一に、組織論はもちろんこれで全てではなく、特に人間の非合理性や制度・文化・象徴性などの影響を考える社会構成主義的な視点群が大きく欠落しています。組織を機械のように捉えると、確かに人工知能と組織はよく似ているかもしれません。一方で、
- 組織が機械のように動くなら分かりやすいが、現実はそうではない
- そこにはより非合理的な要因群がお互いに影響し合う
- またその影響関係は決定論的でもなく、都度変化する過程にある
- その変化のメカニズムは、人工知能とは全然違う視点で検討できる
といった世界観の組織論研究もまた数多くあり、それらはここでの議論とは別の前提で動いているように感じます。
第二に、組織と人工知能の共通性と言ったときに、「組織が何を指すか」と言う問題があります。組織といった時に、企業や団体などのいわゆる組織であれば、確かにある程度人工知能的な共通要素は捉えやすいと思います。一方で、組織論ではより普遍的な視点である「組織化」を問題にする、言い換えればいわゆる形ある組織ではなく、例えば社会運動や専門職などの必ずしも組織の形が無い社会的現象のメカニズムを考えようとすると、これとは別の議論も登場してくると思います。
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