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どんな姿のAIなら信頼できるのか?

今日のAIに関する経営学論文は、AIに関してよく登場するテーマを扱ったレビューです。 Glikson, E. and Woolley, A. W. (2020)   ‘Human Trust in Artificial Intelligence: Review of Empirical Research’, Academy of Management Annals , 14/2: 627-660. 要するにこの論文は: AI に対して人間が感じる信頼に関する、過去の研究をレビューした。 ポイント: •         AI の形態には大きく 3 種類ある 1.       Robotic AI :人型・あるいはその他の形の物理的なロボット 2.       Virtual AI :チャットボットやアバターなど、バーチャルな姿 3.       Embedded AI :姿がなく、人間には直接見えない存在 •         これらの形態は、人間が AI に対して感じる信頼感に強い影響を与える •         具体的には、認知・感情の両面で、次の点が信頼感に影響する: 1.       Tangibility : AI が目に見える存在か? 2.       Transparency : AI の判断のあり方に透明性があるか? 3.       Reliability :繰り返し AI を使っても同じ対応を取ると信頼できるか? 4.       Task characteristics :作業の特性上、人間でないと不快・不安なものはあるか? 5. ...

AI時代の組織はどう学習するのか?

AIに関わる経営学論文、2本目です。今日の論文は、組織学習に関するものです。 今日の論文: Balasubramanian, N., Ye, Y. and Xu, M. (Forthcoming) ‘Substituting Human Decision-Making with Machine Learning: Implications for Organizational Learning’, Academy of Management Review. 要するにこの論文は: AIの学習と人間の学習がどう違い、その結果AIが浸透すると組織学習がどう変化するかを理論化した。 ポイント: 人間の学習・AIの学習にはそれぞれ長短がある。 人間の学習は、社会的な文脈を想像で補完することに強く、状況に応じて拡張性があり、予想外の事態に対して修正がききやすい。 AIの学習は、条件がそろえば人間を超える高い正答率を出すが、3つの弱点がある。弱点とは、①データに含まれるバイアスが増大してしまう、②過学習により歪んだ正解を出すことがある、③計算過程がブラックボックスなため説明が必要なプロセスには使えない、ことである。 組織として考えると、人間の意思決定をAIで代替していくことで、短期的には最適化が進む。その理由として、AI導入後に組織内で2つの変化が進むことがある。 変化①:AIを導入していくと、組織内の業務は画一化していく。これは、AI導入にはデータの形式・処理方法の統一化が不可欠なため。そうすると、人為的なミスや、定式に合わない属人的・非効率な作業方法が駆逐されていく。 変化②:AIを導入していくと、業務の裏で話し合われてきた背景知識は次第に省略される。無駄な情報で煩わされることがなくなる一方、必要とされる以外の余分な情報を知る人は減っていく。 結果として、AIによる人間の代替を進めていくと、組織には次のようなリスクがある。 リスク①:長期的なトレンドや長期的な結果を軽視してしまう。 リスク②:組織・人間の間の複雑な相互関係を軽視してしまう。 リスク③:極端なシナリオを排除してしまう。 コメント: 組織学習の観点で、AI導入が何をもたらすかを論じた、先駆的な理論論文です。組織は常に学習していくものであり、組織学習の質は成果に直結するとされています。しかし、AIによる人間の代替を...

自動化と強化のパラドックス

AI関係の経営学論文紹介の1本目です。正式な論文ではない(ブックレビュー)のですが、有名な考え方でもあるので紹介します。  <今日の論文> Raisch, S. and Krakowski, S. (2021), ‘Artificial intelligence and management: The automation-augmentation paradox’, Academy of Management Review, 46/1: 192–210. <簡単に言うと> AIは人の簡単な作業を代替し(自動化)、人はより高度な作業を受け持つようになる(強化)が、業務の強化は新たな自動化を生むので、そのサイクルは止まらない。 <ポイント> AIは業務の自動化と強化をもたらす。 これらは二律背反で、組織はどちらかを選ぶ必要があると考えられてきた。しかし、実際には両者は補完関係にある。具体的には、次の二つの作用で相互強化が進む。 第一に、長い時間軸で考えると、AIによる業務の強化は業務の自動化につながる。具体的には、AIを活用しより高度な業務に取り組むことで、新たな法則性や業務プロセスのパターンが発見される。またその解析に必要なデータを特定して蓄積することが可能になる。そのため、高度な業務に専念するほど、新たにさらに自動化出来る業務領域が見つかり、さらに高度な業務領域に人間はフォーカスしていくサイクルがある。 第二に、業務の幅を広く取ると、AIによる自動化は、自動化する業務の前工程と後工程で、AIによる業務の強化につながる。これは、自動化に必要なインプットを前工程で用意し、またAIが出したアウトプットを後工程で解釈して使う必要があるためである。それらの準備・AI利用の過程で、それら前後工程自体にも考えなければならない要素が増え、それが業務の強化につながる。 但し、AIによる完全な自動化は実現しない。なぜなら、4つの技術・社会的要因がボトルネックとなるためである。 目標設定:機械には、責任と表裏一体である目標設定が出来ない(そもそも「組織が何を目指すべきか」自体を機械に任せて良いとする合意が人間には出来ていない。 意思決定:機械には、ある決定が学習データ範囲を超えて組織・社会に広く及ぼす影響を推察する能力が限られている。 文脈化:機械は、訓練されたデータと異なる文...

再スタート

2017年から19年まで、慶應義塾大学SFC研究所での、AI社会論研究会というプロジェクトに参加していました。  AIが社会にどう浸透し、社会を変えていくか?   こうした問いを、ブームが始まっていた当時、学際的に議論していました。  このブログの19年までの過去記事は、当時の備忘録です。 そして3年が過ぎ、AIとデジタルはすっかり社会に定着しました。 経営学でも、当時予言した通り、AIを扱った論文が激増しています。 そこで、この4月から、2020年代に登場した AIを扱った経営学論文のポイントを毎週1本ずつまとめてアップ していこうと思います。 対象は、組織論を中心とした主要ジャーナル。  - Academy of Management Annals  - Academy of Management Review  - Academy of Management Discoveries  - Administrative Science Quarterly  - Organization Science  - Journal of Management Studies  - Organization Studies  - Organization Theory  (Academy of Management JournalはAI論文がほぼ無いので基本除外) など  AIの定義は論文によって違いますが、少し広めに取って見ていきます。   <背景:近年の動向>   結論から言うと、こんな感じで状況が進化してきたと見ています。  - 決定的な経営学革命のようなものは起こっていない  - しかし、 何が問題になるか、主な論点のかたまりは明確になってきた - さらに、AI特別視に否定的だったトップジャーナルも、態度を変えてきた ジャーナルで言うと、AI系の論文はノントップの少しずれた領域で圧倒的に増えています。具体的には:  - Technological Forecasting and Social Changeのような、技術自体を扱う論文誌  - Journal o...

AI実装に関する組織論の3つの論点:ミクロ/メゾを主に

アメリカ経営学会(AOM) の学術論文誌である Academy of Management Discoveries(AMD) 誌で、昨年12月に 「AIを研究すべき」とするコメンタリー が出ました。AMDは、従来型の論文誌でなく、萌芽的な定性研究を発信し経営研究を刺激する特殊な論文誌です。とはいえ、発行母体が世界の経営学の中心であり、そこがAIを正面から対象と認めたことは、一定のインパクトがあったと思います。 コメンタリーでは、意思決定論の視点を軸に AIの組織実装の重要論点 を抽出しています。 ここでは、それをサマリーすると共に、一部に私見を入れて整理してみます。 まず、 実装の流れには3つの段階がある 、とAMDのコメンタリーは整理します。第一に、 Task input (入力変数としてのデータ) 。テキスト・画像・生態情報など、どのようなデータをどのように取得するか。第二に、 task processes (アルゴリズム) 。入力データをどういう手法で機械が処理するか。そして第三に、 task outputs (solutions, decisions) 。機械が出した分析解に対して組織がどう反応するか、です。このうち前二者は、主にコンピュータサイエンスなどの分野が扱うもの。 経営学では最後の点(組織反応)が重要 と指摘しています。 AIが出す分析解に対して組織がどう反応するか 。コメンタリーは、論点を二つの視点で整理しています。一つには、個々の意思決定にAIをどう使うか。そしてもう一つには、個別の意思決定を越えて問題解決にAIがどう寄与するか。率直に言って原文は二者で論理的重複があると思われ、ここでは分かりやすくするため、これを再編した三点に整理しています。 1.意思決定にAIをどう使うか 意思決定にAIを使う際、避けて通れないのが AIへの権限委譲の問題 です。これは、20世紀からカーネギー学派で議論されてきた本流に近い議論。AIが解を出したとき、それをそのまま意思決定に使うなら、実質的にAIに決定権を委ねることになります。しかし、どうでもよいことを自動決定するだけなら便利で良いですが、「AIが決めたから」ではとても納得できない、深刻な結果を招く領域もあるでしょう。例えば、 コスト削減のために、AIが人員整理を決めてよいのでしょうか。人...

デジタル化と戦略論:組織論的に気になる2つのこと

デジタル技術の進化は経営戦略をどう変えていくのか? 欧州経営学の総合系で最高峰のジャーナル、 Journal of Management Studies がSpecial Issueでデジタル時代の企業戦略に関する研究を1月まで募集していました。革新的技術の台頭が経営学に与える影響を考える上で、重要な一歩だと思います。どんなポイントを問題視しているか、さっと確認してみたいと思います。 Call for papers for a special issue:Corporate strategy and the theory of the firm in the digital age (Journal of Management Studies) ―――以下、要旨――― 経営学における戦略論の研究は、戦略(組織による目標達成)に注目する視点を軸に、「なぜ(他の形態でなく)今日有るような企業組織が成功し存在するのか」という根源的な問いを探ってきた。 昨今のデジタル技術の台頭は、そうした我々の理解の前提を大きく変える可能性がある。戦略論は主に個々の組織について議論してきたが、組織レベルよりも、技術・国際政治のようなより上位レベルの変化に組織行動が左右される傾向が強まっている。また組織から見ても、ビジネスの生態系をどう構成するか、単に顧客と競合ではない、より広範囲を視野に入れた戦略が求められる。こうした 戦略論の新たな論点は具体的には、市場・企業・企業内の3つのレベルで考える ことが出来る。 まず 市場レベル では、デジタル化は市場の境界線を溶かし、新たな産業と生態系を生み出す。 こうした変化は、市場同士の相関性や産業のライフサイクルに関する従来の知識を覆す。総じて言えば、 伝統的な分析単位としての市場や産業が、今日でも本当に意味があるのか が問われている。 次に 企業レベル では、企業の間の境界線、そして企業と市場との間の境界線も徐々に曖昧になりつつある。それに加え、GAFAのような業界を越えた圧倒的巨人企業も台頭している。 これは、戦略論に新たな問いを突きつける。例えば、デジタル化による取引コストの低減は、企業がどこまで自ら保有すべきかの境界線を変化させ、そこで浮いたリソースを他の市場に投入する戦略の重要性を増すかもしれない。また取引コストの...

Datification:技術がヒトの行動原理を変え、社会を支配する?

3つの視点での経営情報論における関心の整理(前回の続き)。 1 システムそのもの(ツール、技術、手法) 2 システムがもたらすある分野への影響(例:医療、マーケティング、教育) 3 システムの具体的な活用とその結果のあり方(例:個人・組織・社会への影響) (以下、次の論文の要旨を咀嚼したものです Günther, W.A., Mehrizi, M.H.R., Feldberg, F., Huysman, M.H., 2017. "Debating Big Data; a Literature Review on Realizing Value from Big Data,". Journal of Strategic Information Systems 26 (3), 191-209. ) 2/3で問題となっている一つの大きなテーマは、「 Datification 」です。ある技術を使ったら、組織がどういう結果を生むか。これが単線・一次的な因果関係ですが、Datificationはこれを越えて因果関係をシステム的にとらえたものです。要は、 ・あらゆるもののデータ化が進み、様々な変化が発生する ・そして、今度はその変化を所与として前提が変化した組織行動が起こる ・特にデータ化浸透の場合、行動や成果の評価方法と質、序列化と分類の方法が革命的に進化することが大きい (主観的な分析と行動に任せた結果を断片的に解析する状態から、データ全量解析と行動の結果に基づく即時フィードバックの浸透) ・その結果、AIが規定する高い評価基準に沿って高評価を得ようと、組織・個人の行動が変質する( AIの分析が結果として意図せざるビッグブラザーになる ) といった議論です。 これに代表される重要なイシューとして、 AIが組織に不可避的につきつける倫理課題を無視することはできない 、という論調が情報系に強く存在します。主に、次のようなものが挙げられています。 ・AI活用による雇用問題・職務の性質変化の問題 (よくある議論ですが)AIは仕事を奪うのか?どう変えてしまうのか? ・AI活用による経営誤判断の問題 データの偏りも含め、AI判断には誤判断もある。小さな分析なら良いが、経営判断の重要部分を結果的に誤判断し、組織や他社に...