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Datification:技術がヒトの行動原理を変え、社会を支配する?

3つの視点での経営情報論における関心の整理(前回の続き)。 1 システムそのもの(ツール、技術、手法) 2 システムがもたらすある分野への影響(例:医療、マーケティング、教育) 3 システムの具体的な活用とその結果のあり方(例:個人・組織・社会への影響) (以下、次の論文の要旨を咀嚼したものです Günther, W.A., Mehrizi, M.H.R., Feldberg, F., Huysman, M.H., 2017. "Debating Big Data; a Literature Review on Realizing Value from Big Data,". Journal of Strategic Information Systems 26 (3), 191-209. ) 2/3で問題となっている一つの大きなテーマは、「 Datification 」です。ある技術を使ったら、組織がどういう結果を生むか。これが単線・一次的な因果関係ですが、Datificationはこれを越えて因果関係をシステム的にとらえたものです。要は、 ・あらゆるもののデータ化が進み、様々な変化が発生する ・そして、今度はその変化を所与として前提が変化した組織行動が起こる ・特にデータ化浸透の場合、行動や成果の評価方法と質、序列化と分類の方法が革命的に進化することが大きい (主観的な分析と行動に任せた結果を断片的に解析する状態から、データ全量解析と行動の結果に基づく即時フィードバックの浸透) ・その結果、AIが規定する高い評価基準に沿って高評価を得ようと、組織・個人の行動が変質する( AIの分析が結果として意図せざるビッグブラザーになる ) といった議論です。 これに代表される重要なイシューとして、 AIが組織に不可避的につきつける倫理課題を無視することはできない 、という論調が情報系に強く存在します。主に、次のようなものが挙げられています。 ・AI活用による雇用問題・職務の性質変化の問題 (よくある議論ですが)AIは仕事を奪うのか?どう変えてしまうのか? ・AI活用による経営誤判断の問題 データの偏りも含め、AI判断には誤判断もある。小さな分析なら良いが、経営判断の重要部分を結果的に誤判断し、組織や他社に...

AIは経営情報論と組織論をつなげるのか?

組織論は、組織のあり方を問題にした、経営学の中で比較的大きなボリュームを占める領域です。一方で、情報技術を中心に、技術がビジネスの中でどのような影響を及ぼすかをより問題にした領域もあります。いわゆる経営情報論とか情報システム研究に関する学術分野です。これまで 両者は微妙に住み分けあまり会話しなかった ところがあると思います。AOMでいえば、前者(OMTや一部OBなど)と、後者(TIM、OCIS)の微妙だが埋めがたい断絶といいますか。結局それぞれのトップジャーナル(トップ研究者)で問題意識や良しとされる基準が同じでないことが、棲み分けを自然に促してきたと思います。 組織論では、技術を組織のメカニズムの中核としては必ずしもとらえず、むしろそれ以外にも 要因が無数にある組織に関する原理を追求 してきたもの(技術もその一つ)。しかし、AIは徐々に浸透し、ほとんどの経営現象(人間が思考する部分まで)に大きな影響を与えるように見られ始めています。本当にそのような特有の性質があるのかどうか、というのがまずは論点になりますが。 一方で、情報系の経営学では、これまでずっと 新技術が経営・組織に与える影響 を中心イシューの一つとして扱ってきました。情報系ジャーナルでも、Intelligent systemも想定したBig dataに関して、一定の議論が進んできました(実証研究はまだ少ないですが)。情報系のジャーナルで何が問題となっているのか?例えば、Markus (2017)によると3つの視点が提示されています。 Markus, M. L. (2017). Datification, Organizational Strategy, and IS Research: What's the Score? Journal of Strategic Information Systems, 26(3), 233-241. 1 システムそのもの(ツール、技術、手法) 2 システムがもたらすある分野への影響(例:医療、マーケティング、教育) 3 システムの具体的な活用とその結果のあり方(例:個人・組織・社会への影響) 1は、いわゆる IT自体の研究 です。どういうツールやシステムが、どういう技術で成立し、どういう手法で使えるか。ITを組織に実装する実務家にとっては...

AIとリテール:経営学とトピックの関係

Journal of Retailing で、この12月にAIリテールの研究を薦めるコメンタリーが出ました。(Shankar, V. 2018. How Artificial Intelligence (AI) Is Reshaping Retailing. Journal of Retailing, 94: ⅵ-ⅺ.) いわゆるネット小売りだけでなく、リアルの小売店舗の経営にも、AIを適用した新しい変化が起こりつつあり、これを研究すべきとする主旨です。 同誌はマーケティング分野で実績ある論文誌です(ABSのAcademic Journal Guide 2018で上から二番目の4点評価)。AIを研究対象として真剣にとらえる姿勢が、経営学の各分野に広がっている好例と思います。 このコメンタリーでは、小売企業がAIで得られるメリットを、次のように例示しています。 1.モバイルを含めたオムニチャネルでの消費者行動の理解 2.個客に最適化した提案(アマゾンのエコー) 3.接客・顧客リレーション管理(ペッパー) 4.店内の個客経験価値の向上(店内ロボットによる顧客支援、現金レス決済) 5.個客対応窓口と決済マネジメント(チャットボット、ペイパル) 6.広告販促メディア最適化 7.在庫最適化 8.物流最適化・自動化 9.店舗清掃の自動化 そして、有望な研究領域の例として (1)具体的なAI活用システムの設計と効果検証 (2)AI利用環境下での顧客行動のメカニズム (3)AIを応用した、顧客行動の神経心理学的解析 を挙げています。 このコメンタリー自体は、引用文献もほとんどなく、著者の意見が内容のほとんどです。ビジネス雑誌等でも事例はもっと沢山出ていると思いますが、精緻に公開事例を拾ったわけでもなく、網羅的な整理でもない印象です。ただ、先行研究が無い中で、まずはとにかく 「AIの研究をしてもOKだ」と提唱すること が主眼だったのかもしれません。反論や突っ込みも含めて刺激を与える流れと言いますか。 このように、トピック主導で研究をドライブすることに対して、懐疑的な考え方もあります。「 バズワードに乗って経営の流行語を研究するのは真の研究ではない。研究とは理論的貢献のためにあり、理論を磨く道具に過ぎないトピックがどうこうというのは、...

経営学が人工知能を正面からとらえ始めた

Academy of Management Discoveries ( AMD ) という論文誌があります。そこで昨年 12 月に、人工知能がもたらす影響を経営学として研究すべき、というコメンタリーがついに出ました。 AMD は、発行元が Academy of Management ( AOM, 米国経営学会) で世界的なトップ学会です。しかし、 AMD は AOM が出す他の論文誌とは一線を画した特殊ジャーナルです。普通、ジャーナルは理論的貢献(先行研究が提示した理論に関して、それを修正したり、別の側面を示したり、理論間をつないだり、適用範囲や条件を明確にしたり)を尺度に評価されます。しかしこれでは、先行研究に十分材料がなく議論がされない領域だと、理論的貢献を作れず論文になりません。そのため研究には、 既存研究に引っ張られそれがある範囲で無難な貢献を探す方が現実的 、という力学が働きます。かといって、逆に先行研究を無視して新しい理論や現象を自己流に提示しても、それは研究ではなく個人のブログや一般書と同じです。もちろん、ブログや実務書には価値があり、特に実務ではその方がよほどすぐ参考になるものですが、「研究」とはあえてそうしない営みを指すという共通理解があります。要は、 研究をする以上、過去の蓄積を活用できる一方で、論文採択のされやすさを考えると、蓄積に縛られ新奇性を出しにくいというジレンマ があります。 AMD はこうしたジレンマにも対応して 4 年前に生まれた若いウェブ専門ジャーナルです。 AMD が求めるのは、理論的貢献ではなくその萌芽となる「 Discoveries 」です。つまり、 現実の新奇な現象や、理論に修正を迫るかもしれない発見を、無理に理論まで結論付けない素材の状態で出す 。これを刺激に、続く研究者がその発見の含意を理論に昇華させていこう、という取り組みです。 ・定性研究限定 ・厳格性:但しデータ収集・分析手法は普通の論文以上に厳格さを求める ・マルチメディア:文章に加え、研究者の動機など生の声を音声メディアで共有 という特徴があります。 このような AMD にとって、人工知能の台頭がもたらしつつある大変化は、まさに見過ごせないもの。率直に言って 経営学全体の AI に関する取り組みは驚異的なまでに遅かっ...

デジタル化と制度派組織論は相思相愛?

デジタル化は組織論にどのような刺激をもたらすのか?近年の組織論で大きな影響力を持つ、制度派組織論の視点からストレートにこの問いに答えた理論論文が、今年出ています。著者に制度論の大家も入っているので、今回はこの論文のポイントを考えてみたいと思います。かなりマニアックな、研究のための研究という内容ですが。 Hinings, B., Gegenhuber, T. & Greenwood, R. (2018). Digital innovation and transformation: An institutional perspective. Information and Organization, 28, 52-61. ――――(以下、少し補足した論文の骨子)―――― 近年はデジタル技術の発展による経営と組織の革命的変化が議論される。 デジタルイノベーションは組織にどのような影響をもたらすのだろうか? この問いに、 制度理論 は有効な視点を与えてくれる。 制度理論とはどのような考え方か。制度理論では、組織は必ずしも合理的に行動しない。むしろ、何が組織にふさわしい正当な行動か、暗黙の社会的期待に沿うことを当然の前提とし、制度の影響外にある者から見れば時に非合理な行動も取る。 例えば、「事業部制」のような組織形態は、全ての企業に最適なものではない。それでも、それが「一流企業なら当然採用すべき最新の経営手法」として株式市場で正当性を確立すれば、本当に有用かに関係なくあらゆる企業が事業部制を採用する。前例が無い初期に採用した企業は、真剣に実利を考えてそうするのだが、それが正当とされてから採用する企業は、「それが当たり前で、そうする以外に考えられない」状態になる。このように、組織は独立して存在し合理的に意思決定するのでなく、制度的文脈に埋め込まれその影響を受ける。 このような制度理論は、デジタル化を考えるのに相性が良い。なぜなら、新技術も初めから全てが決まったものではなく、その使われ方や価値は社会的に構成され、社会的認識の中でスタンダードが形成されていくものだからである。 デジタルイノベーションがもたらす影響は、組織論(制度論)からは3つの視点で整理できる。 第一に、 デジタルな組織形態の誕生と普及 。これは、デジタル技術が可能にし...

人工知能は社会をどう変えるか

慶應義塾大学 SFC Open Research Forum 2018(After the Next Societies: 次の(次の)社会)が開催されています。 11月22日(木)・23日(金) の日程で、会場は 東京ミッドタウン(六本木) です。 https://orf.sfc.keio.ac.jp/2018/ SFC研究所のAI社会共創・ラボも23日(金)17:30-19:00セッションで登壇します。 タイトルは、「 人工知能は社会をどう変えるか 」。 法・経済・技術・経営の混合セッションです。 ご興味ある方は是非ご覧ください! https://orf.sfc.keio.ac.jp/2018/session/s-16/ ーーー(セッション紹介)ーーー AI技術は既存の技術や課題と組み合わせて社会の広範囲に利活用されうる技術であり、産業界へのAI利活用の広がりが活発になりはじめています。マーケティング、金融(Fintech)、人材(HR Tech)、広告(Ad Tech)、チャットボットによりカスタマーサポート、AIスピーカー、自動運転車、などの社会でAI応用事例を通して 「人工知能は未来のビジネスをどう変えるか?」、「日本はAI時代に逆転できるか?」 について、法・経済・経営を中心とし社会制度の共創について議論を行います。

アルゴリズムがもたらす4つの組織変化

アルゴリズムの台頭は組織をどう変えるのか? この直球のテーマを扱った、経営学論文の要旨をここでは紹介します。 Faraja, S., Pachidib, S., & Sayeg, K. 2018. Working and organizing in the age of the learning algorithm. Information and Organization, 28: 62-70. (あくまで実証データの無い理論ペーパーで、また参照文献も一般メディア記事が多いため、どちらかというと「高級なビジネス評論」という感もありますが) ――――――(以下、要旨)――――――― 学習アルゴリズムの台頭は経済発展に貢献するとされる。しかし、社会が受ける影響には楽観悲観の両論が混在する。 アルゴリズムが持つ4つの特性が、社会への影響を形作る。 第一に、 アルゴリズムが持つブラックボックス性 。 アルゴリズムの高度化に従い、「なぜその結論に至るのか」が人間には説明不能になる。 第二に、 デジタル化の統合連動性 。 一つのデータソースだけでなく、複数の情報源を組み合わせて機械が学習することで、予測の精度が飛躍的に高まる。例えばアマゾンがフェイスブック並みの情報を持てば、推薦する本の精度がさらに高まる。 第三に、 定量化が持つ神話性 。 あらゆるものが数値化されることで、客観性が高まったと認識されやすい。あらゆるものを明確に定義された基準で判断する傾向が強まる。 第四に、 隠された政治性 。 例えば人種など、個人の属性とそれが統計的に紐付く結果を結びつけて分析すれば、意図しなくてもそこに政治的な意味が生まれてしまう。 では、それが組織にどのような影響をもたらすか? アルゴリズムは、これまでの技術革新とは質的に異なる変化をもたらす。ただし当面は、表面的には、過去の技術革新とあまり変わらない。自動化される業務範囲が広がり、生産性が高まり、ある職種の需要が増えたり減ったりし、いくつか新しい職業が生まれるだけである。 しかし、4つの特性が混ざり合って、組織と職業はそれを越えた変化にさらされる。特に、4つの組織変化が重要である。 第一に、 「専門性」の意味が変わる 。 人が判断に必要な暗黙知を獲得する過程がアルゴリ...