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デジタル化と制度派組織論は相思相愛?

デジタル化は組織論にどのような刺激をもたらすのか?近年の組織論で大きな影響力を持つ、制度派組織論の視点からストレートにこの問いに答えた理論論文が、今年出ています。著者に制度論の大家も入っているので、今回はこの論文のポイントを考えてみたいと思います。かなりマニアックな、研究のための研究という内容ですが。

Hinings, B., Gegenhuber, T. & Greenwood, R. (2018). Digital innovation and transformation: An institutional perspective. Information and Organization, 28, 52-61.

――――(以下、少し補足した論文の骨子)――――

近年はデジタル技術の発展による経営と組織の革命的変化が議論される。
デジタルイノベーションは組織にどのような影響をもたらすのだろうか?
この問いに、制度理論は有効な視点を与えてくれる。

制度理論とはどのような考え方か。制度理論では、組織は必ずしも合理的に行動しない。むしろ、何が組織にふさわしい正当な行動か、暗黙の社会的期待に沿うことを当然の前提とし、制度の影響外にある者から見れば時に非合理な行動も取る。

例えば、「事業部制」のような組織形態は、全ての企業に最適なものではない。それでも、それが「一流企業なら当然採用すべき最新の経営手法」として株式市場で正当性を確立すれば、本当に有用かに関係なくあらゆる企業が事業部制を採用する。前例が無い初期に採用した企業は、真剣に実利を考えてそうするのだが、それが正当とされてから採用する企業は、「それが当たり前で、そうする以外に考えられない」状態になる。このように、組織は独立して存在し合理的に意思決定するのでなく、制度的文脈に埋め込まれその影響を受ける。

このような制度理論は、デジタル化を考えるのに相性が良い。なぜなら、新技術も初めから全てが決まったものではなく、その使われ方や価値は社会的に構成され、社会的認識の中でスタンダードが形成されていくものだからである。

デジタルイノベーションがもたらす影響は、組織論(制度論)からは3つの視点で整理できる。

第一に、デジタルな組織形態の誕生と普及。これは、デジタル技術が可能にした従来にない疑似組織である。例えば、Airbnbはデジタルが可能にした、一般人と宿泊客を結ぶプラットフォームだが、その生態系も一種の組織であり、従来のホテル業界に代わる新たな正当性を突き付ける(社会全体で資産を有効活用し、また人と人とを結びつける)。このようなデジタルによって可能となる疑似組織は、伝統的組織とは異なるメカニズムで動き、どこまでどう普及するかは今後の動向次第である。

第二に、デジタルな制度的インフラ。例えばアップルの製品プラットフォームやブロックチェーン技術(とBit coin)など。作り手の側がある種の意図を持ち、特定の技術仕様を社会が活用できるように開放する。特定の組織やイノベーション単体を超えて、組織やイノベーションのスタンダードを定め、次代の「当たり前」を定めてしまう技術的な場が生まれている。

そして第三に、デジタルな制度的パーツ。例えばWordPressなど、誰にでも利用可能で一般に正当なものとして受け入れられた技術的ソリューションが増えている。これらを使って、個人が従来になく素早く組織を立ち上げ、また社会的な影響を及ぼすことが出来るようになっている。

こうした個別変化を超えてより重要なのは、これらイノベーションが組み合わさることで、従来当然とされてきた秩序が激変する可能性があることである。それは、業界など同じ制度の影響にある組織群(組織フィールド)にとって、大きな制度変化をもたらす。

これまでの経営学研究でも、こうした新技術がもたらす組織変化は、個々の組織のレベルでは検討されてきた。例えば、病院で薬剤の処方に機械を導入したことで、薬剤師・技師・アシスタントの役割とアイデンティティが変化した。あるいは、NASAで技術の内製主義からクラウドソーシングへの移行が起こることで、科学者の行動とアイデンティティが変化した、等。

一方で、デジタル化がもたらすこうした個々の組織の変化が、組織フィールドの変化にどうつながっていくのかは、まだほとんど未検証である。人工知能の台頭等、新たな技術が社会を大きく変えていく議論がなされる中で、こうしたマクロレベルの実証研究が急務である。特に、以下の研究テーマなどは重要性が高いと言えるだろう。

・新しい制度的インフラはどのように登場し、どう正当性を確立していくのか?
特に、ブロックチェーンと仮想通貨は、経営学が解明していくべき最適な素材である。

・新旧の制度は、どのようにシナジーまたは対立を生んでいくのか?
例えば、Uberのように新しい正当性を掲げつつ、論議を招き規制を受ける存在は制度論研究に新しい素材を提供する可能性がある。

・デジタル化した世界で、専門職や職業という概念はどう変わっていくのか?
人工知能など、技術が知識を誰にでも活用でき人間よりも効果的に処理する時代に、職業は生き残るのか。

・組織は新旧の制度の中で、どのような生存戦略を取っていくのか?
デジタル化がもたらす制度的複雑性(デジタル化自体を制度と捉えなくても、諸制度が変化していく)に対し、個々の組織の対処法とその作用を探ることは、実務に有用である。
―――――――――――――――

この論文は、デジタル化を制度論で検討することの重要性を指摘し、その際の主要論点を整理しています。制度論の大家が著者に入っており、的を射たさすがの内容だと思います。

著者たちが指摘している点で重要なのが、ミクロとマクロの視点の弁別だと思います。個々の企業で何が変わるかという視点と、それを越えた組織フィールド(業界や職業など)・社会レベルで何が変わるかという視点。両者をつなぐ研究は、制度論でも近年必須とされる視点になっており、技術に関してもそれが望まれる(逆にまだそういう研究が無いのが驚き)という感じです。

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