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アメリカ経営学会(AOM)でのAI議論

アメリカ経営学会(Academy of Management)は、毎年8月に年次大会(Annual Meeting)を開催します。開催地は北米の主要都市をローテーションするのですが、今年は8/9-8/14にシカゴで開催されました。 そこに参加してきたのですが、 人工知能に関する研究が少しずつ登場する中、最前線はどうなのか ? 結論から言うと、「 今始まった段階 」という色彩が強い状況です。まだ少数ですが、ようやく関連セッションが登場し、少しずつ話題になり始めていました。但し、経営学で具体的な話が出るには、あと1-2年以上かかりそうです。あくまで自分が見てきた範囲ですが、どんな状況だったか書いておきます。 1.セッション AIが直接扱われたセッション(PDW等)はいくつかあり、そのうち2つに参加しました。 (1)Work in the age of AI 米国政府が出資するプロジェクトのセッション。これは特定研究に資金を出すものでなく、主要分野のトップ学会(経営学だけでなく、例えば心理学や工学系など幅広く)でセッションを開き、そこで研究者交流を深め研究促進することにお金を出すプロジェクトです。 研究室のタコツボを壊す、かつ純粋に学術的な取組に国が資金を出す ところが、大変面白いと思いました。バックグラウンドが違う研究者が40人ほど集まり、会場が満員立ち見だったのも、潜在的関心の高さを示していました。 その場で、実施中の研究例として、「AIを使ったバーチャルキャラクターを病院の受付に導入した事例」の研究*が紹介されていました。ただし、他の参加者でAIの実証研究をした人がおらず、まだまだ話題先行のようです。またその後AI✕経営で研究アジェンダをブレストしたのですが、論理上あり得るイシューを網羅的に挙げたものの、具体的な課題意識は研究者にまだ無いようでした。 *具体的には、バーチャルキャラクターの導入が看護士・医師などのスタッフや患者にどのような反応を及ぼすかを検討(アイデンティティやスキル開発の観点で分析)。最近増えている、ロボット手術機器の導入による医療スタッフや医療施設の組織変化を検討した論文に近い系譜に位置づけている (2)Management in the age of machine intelligence もう一つのセッショ...

限定された自動化 Bounded Automation

AIは人類の仕事を奪うのか? Organization Studies誌のウェブ先行公開で、 AIがもたらす組織への影響 を議論した記事が出ています。通常の論文ではなく、別分野と組織論について語るエッセイコーナー(「X and Organizations」)ですが。経営学のトップジャーナルではほとんどない、貴重なAI論なので今回はこちらを少し丁寧に読み解いてみたいと思います。 Fleming, P. (2018). Robots and Organization Studies: Why Robots Might Not Want to Steal Your Job. Organization Studies (Online first, April 4, 2018). <要旨> AIは仕事を奪い社会と組織に破壊的影響をもたらすとされる。実際、日本を筆頭に企業によるAI適用事例がメディアをにぎわせている。しかし、現実には世界的に失業は増えず、むしろ減少している。 なぜAIが浸透しても仕事がなくならないのか? 組織論研究からは、これは当然である。理由は、 技術は決まった結果を持つものでなく、組織行動(人間)が技術のあり方を決める から。特に、組織内外の権力者が何を望むか、組織がどういう戦略を取るかで未来は大きく変わる。AIが人間の全仕事をするポテンシャルがあっても、それを人間があえて実現させるかは全く別問題。人間の合理性が決定的なものでなく、人間の認知や環境で制約を受ける「 限定された合理性 Bounded rationality 」であるのと同様、AIがたどる道は「 限 定された自動化 Bounded automation 」である。 「限定された自動化」が意味する自動化の制約条件は、次の3つ。 第一に、 労働コストの安さ 。多くの場合(特に新興国の貧困地域)、機械に投資するよりも人を雇った方が実は安い。企業はより安いオプションを選ぶため、機械化は短期的には進みにくいことが多い。 第二に、 権力関係 。一点目と関係して、労働者が安い賃金でも喜んで仕事を求めるなら、企業は仕事を機械化せず人を安く使い続けようとする。しかしやがて人は組合を結成し権利と賃金の向上を求める。すると、企業は社会的にそれに応えざるを得ないが、コストも上がるので企業は...

技術が職業を変える論

先週いっぱい、エストニアの首都タリンで行われた EGOS (European Group of Organization Studies、欧州組織学会)に参加していました。欧州中心に50数か国から組織研究者(二千人位?)が参加し、数十のトラック(テーマ)に分かれて集中討議を行いました。 私は今回「Professions」のグループに参加。「仕事・職業」に関する経営(社会)学者の集まりのような感じです。審査を通過した各自の論文を、15分プレゼン+15分討議の形式で3日間ひたすら見ていく形式です。グループのメンバーは3日間固定なので、そのテーマでどういう人がいて何が旬の話題か、相場観が分かるように設計されています。 伝統的な研究も当然多かったですが、一つ目についたのは「 デジタル化と職業 」の研究。ソーシャルメディアやコミュニケーションツールの発達と社会変化によって職業が激変する状況の実証研究は、ホットトピックのようです。特に、マスコミや学校(大学)の変化が多く取り上げられていました。(AIを題材にした実証研究を発表したのは私一人でしたが) 「破壊的技術が仕事を奪う」とはよく言われますが、雇用の有無ではなく、「技術が社会に実装されることで実質的な仕事の中身がどう変わるか」が強調されていました。例えば、マスメディアの仕事はソーシャルメディアの台頭で、職業倫理として良いとされてきた活動(例えばスクープや報道賞を取れる記事)でなく、「いいね」を最大化しバズを起こすことに、ノウハウも人事評価も力点が変わっている、など。 技術の台頭と浸透は、組織にアイデンティティ、要求スキル(育成方法と評価基準も)、内外の権力関係等で変化を与える 。広くどの職種でも見られることの追証が続いている感じです。 さらに言えば、技術は日々の活動レベルの話を超え、新しい職業(体系的な知識とアイデンティティを持ち、教育や資格・職業団体と結びついて制度化する)を生む、もしくは生まれ変わるという議論が、このテーマでの研究者の関心事になっています。例えば、データサイエンティストという新しい職業が当事者によって社会的に構成されていく、など。 またAIとは直接関係ないのですが、特に大学の変化は、そこにいる研究者たちの自己認識も反映していてシニカルに興味深いところがありました。発表は例えば、最近の環...

経営学に「未来ビジョン」はあるか

第35回AI社会論研究会 が、ドワンゴ人工知能研究所で昨日開催されました。 ゲストスピーカーはお二人。今回は 航空自衛隊 の方と SF作家 という、異色の組み合わせでした。普段は聞けない貴重なお話をうかがう機会になりました。 先に、航空自衛隊航空研究センター長の山下愛仁氏より、「 航空研究センターの概要と研究の取り組みについて 」のお話。航空研究センターは、航空自衛隊のシンクタンクとして研究企画を担う組織とのこと(研究領域は防衛戦略・事態対処など)。 未来の航空防衛を考える際、AIは主要国が注目する一つの重要要素である。日本としては、人口減少も考慮しAI/ロボットによる防衛機能の代替を真剣に考える必要がある。但し完全な無人化でなく、人とAIの協働の仕方を考える必要があろう。大筋このようなお話と理解しました。 紹介された米国の未来コンセプトYoutube動画にある、有人機とドローンの連携運用、ドローン編隊、母体から大量の小型子機を射出する自動飛翔体など、まさにSF的空想だった世界が真面目に検討されていました。こうした「SF的未来ビジョン」にはどういう意味があるか、は後半のSF論議で再登場します。 経営学との接点が無い話題ですが、あえて言えばこうした技術戦略の背景で、そもそも戦略を考える組織体制(タコツボに陥らない全体最適)、市場インテリジェンス(競合やサプライヤーの洞察)、戦略策定プロセスの柔軟性(可変性の組み込み)などが重要なのかとは感じました。また昨今では経営「戦略」は一般的な言葉になっていますが、戦略はもともと軍事用語であり、ビジネスの世界でそのアナロジーを使うこと自体が20世紀半ばの斬新なイノベーションだった、という経緯があります。それまでは、組織の形態や管理方法、また管理者の役割に関心が集中し、敵である競合と争って勝つための市場行動への洞察は基本的にありませんでした。今では経営戦略自体が独立して活発に検討され、軍事とはほぼ全く関係なく進化と枝分かれを続けていますが。 そして二番目のスピーカーは、SF作家の長谷敏司氏でした。 演題は、「 SF作品と未来ビジョンについて——未来ビジョンの作り方の一例 」。SF作家は、SF作品という「未来ビジョン」を作る仕事でもある。では未来ビジョン(SF作品)をどう作るのか?を、「ビートレス」という代表作...

拒否権のパラドックス

AI社会共創・ラボの経済経営学グループの勉強会がこの日曜日にありました。 今回は、下記の本を題材に議論しています。 ・アンドリュー・マカフィー/エリック・ブリニョリュフソン著 プラットフォームの経済学:機械は人と企業の未来をどう変える?(2018年、日経BP) 著名な本なので詳細は割愛しますが、一つ議論になったのが、 ・非合理な人間に頼りすぎず、意思決定に人工知能をもっと取り入れていくべき というこの本の冒頭の方の論。 大筋はYESなのですが、現実の組織でそれをやると独特の問題が起こる指摘があります。 それが、Parry et al. (2016)という、経営学では数少ないAIを正面から論じた組織論の理論論文です。 ・Parry, K., Cohen, M., & Bhattachary, S. (2016). Rise of the Machines: A Critical Consideration of Automated Leadership Decision Making in Organizations. Group & Organization Management, 41(5), 571 –594. Parry et al. (2016)は、 AIを組織に導入し人間の意思決定を代替させたときに、どのような影響が生じるか 、メリットとデメリットの両面で論じています。 メリットとしては、大きく二点。 ① 複数のデータ層を横断した、人間に不可能な複雑なデータ分析が可能となる ② 痛みを伴う、嫌われがちな政治的に困難な意思決定が可能になる (意思決定の「脱属人化」(De-individualization of leadership) これら(特に①)は、「プラットフォームの経済学」が主張するAI意思決定の推進理由とも合っています。 一方で、デメリットとしてこれらに対応して大きく二点が提示されています。 1.機械が下した判断に盲目的に従わせることは、組織の動機づけを損なう 2.100%機会任せにする場面を想定すると、「意思決定のパラドックス」がある 1は、例えば企業で流行のHR Techを考えると分かりやすいでしょう。 人材採用でAIが採用を決定する方が採用業務の生産性は高まる。でもだ...

AIの目標精度をめぐる論点

最強のAI活用術という、刺激的な題の書籍があります。AI社会共創・ラボの経済経営学グループでは、定期的に勉強会を行っていますが、この日曜の会は、この本を題材に読み合わせと議論を行いました。 ・ 野村直之著 実践フェーズに突入 最強のAI活用術(2017年、日経BP社) 書籍は、AI実装を支援するソリューション企業の経営をされている著者が、「いま実際に導入する場面」を想定して、そのコツと注意点を書いたもの。実際の導入開発の目線で書いてあるため、AIプロジェクト経験が無くても、導入担当にとって何が問題となるかイメージが湧きやすい本です。 ーーーーー ポイントの一つは、 精度指標の設定 。 つまり、AIを導入して画像や文章を解析しても、AIは100%正確にはならず必ず誤りは残る。そのため、どの程度の精度を目標にすべきか、文脈に応じて2種類の精度指標について設計する必要がある。 2種類の精度指標とは、 適合率 と 再現率 。 適合率とは、システムが正解としたものが、本当に正解である率(普通の意味でのAIによる正答率)。再現率とは、本来の正解の内、システムがどれだけをカバーできたかの率(取りこぼしのなさ、カバレージ)。 文脈により、求められる精度指標の高低が違う ので、注意深く設計する必要。 例えば、自動車運転教材用に、長時間の運転画像から危険運転の場面をいくつか特定する場合、適合率も再現率も低めで良い。なぜなら、AIの成果物が誤答が入った候補群であっても、人間が全て見るより候補群だけ見ればOKなら十分時間短縮になるから。一方で医療診断ではより高い適合率・再現率が必要となる。等など。 ーーーーー このような指標が重要であるという詳細を一般にはあまり聞けないので、それだけでも価値があると思います。こうした目標精度は営業秘密でもあるため、基本的に各企業が自由に模索して決めます。しかし、AIが普及し一般化する過程で、このような 目標精度の「制度化」 が起こる可能性があるのではないでしょうか。 つまり、当初はどの程度が妥当かデータも無く分からないため、各社が試行錯誤する。 一方で、やがて社会全体ではあるタスクでどの程度の精度でどういう結果になるか、大体の経験値がたまる。そのうちに、 タスクごとのAI導入のあるべき目標精度が、AI導入の担い手なら知って...

AIがもたらす、制度の「変化の仕方」の変化

昨日、第34回AI社会論研究会が東京21Cクラブ(新丸の内ビル)にて行われました。今回は特別に前回から一週間も開けず続けて、海外からゲストを招き法律関係のトピックを議論する回でした。会場は満員大盛況で、社会的関心の高さがうかがえました。 講演者はトリノ大学のウーゴ・パガロ教授で、今年1月に翻訳が出版された書籍「ロボット法」の内容などをお話しされました。合わせて二回前に登壇された産総研の赤坂氏が、AIの法人格について補足講演され、パネルディスカッションが続きました。 『ロボット法』 ウーゴ・パガロ著 勁草書房 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88%E6%B3%95-Ugo-Pagallo/dp/4326403454 (内容(アマゾンより))ロボット技術の進展に伴い発生する実定法上の問題を27に分類し詳細に検討するとともに、メタ技術としての法や人間とロボットの間の相互作用を規律する環境デザインの一部としての法といった法哲学的分析も施す。ロボット法研究において、どのような問題をどのような観点から研究していくべきかを考える、フレームワークを提示する。 演題は、The Hard Cases of AI & Robotics, and their Legal Governance。 詳細な法的論点も色々ありますが、次のようなお話をされていました。 ――――(ご講演のポイント)――――― AI・ロボットの進化と浸透に伴い、既存法と社会的現実との乖離が多くの分野で顕在化しつつある。そこで、様々な新しい法的論点が登場している。重要な点として、 ・AI・ロボットが権利侵害を発生させた際に、誰がどう責任を負うべきか? ・その判定のためにどのような判断基準が必要か?(防止可能性、予見可能性…) ・そしてAI・ロボットに一定の法的地位(特に法人格)を与えるべきか? などがある。 特に、AI・ロボットへの法人格の付与は話題となっている。 但し、法的には必ずしも法人格を与えなくても議論可能である。 例えば、 ・ペットが他人に怪我をさせる ・古代ローマ時代に奴隷(当時はモノと同じ扱い)が他人に損害を与える など、人間以外の存在が問題を起こす例はこれまでもあっ...