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AIの目標精度をめぐる論点

最強のAI活用術という、刺激的な題の書籍があります。AI社会共創・ラボの経済経営学グループでは、定期的に勉強会を行っていますが、この日曜の会は、この本を題材に読み合わせと議論を行いました。
・野村直之著 実践フェーズに突入 最強のAI活用術(2017年、日経BP社)

書籍は、AI実装を支援するソリューション企業の経営をされている著者が、「いま実際に導入する場面」を想定して、そのコツと注意点を書いたもの。実際の導入開発の目線で書いてあるため、AIプロジェクト経験が無くても、導入担当にとって何が問題となるかイメージが湧きやすい本です。
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ポイントの一つは、精度指標の設定。
つまり、AIを導入して画像や文章を解析しても、AIは100%正確にはならず必ず誤りは残る。そのため、どの程度の精度を目標にすべきか、文脈に応じて2種類の精度指標について設計する必要がある。

2種類の精度指標とは、適合率と再現率。
適合率とは、システムが正解としたものが、本当に正解である率(普通の意味でのAIによる正答率)。再現率とは、本来の正解の内、システムがどれだけをカバーできたかの率(取りこぼしのなさ、カバレージ)。

文脈により、求められる精度指標の高低が違うので、注意深く設計する必要。
例えば、自動車運転教材用に、長時間の運転画像から危険運転の場面をいくつか特定する場合、適合率も再現率も低めで良い。なぜなら、AIの成果物が誤答が入った候補群であっても、人間が全て見るより候補群だけ見ればOKなら十分時間短縮になるから。一方で医療診断ではより高い適合率・再現率が必要となる。等など。
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このような指標が重要であるという詳細を一般にはあまり聞けないので、それだけでも価値があると思います。こうした目標精度は営業秘密でもあるため、基本的に各企業が自由に模索して決めます。しかし、AIが普及し一般化する過程で、このような目標精度の「制度化」が起こる可能性があるのではないでしょうか。

つまり、当初はどの程度が妥当かデータも無く分からないため、各社が試行錯誤する。
一方で、やがて社会全体ではあるタスクでどの程度の精度でどういう結果になるか、大体の経験値がたまる。そのうちに、タスクごとのAI導入のあるべき目標精度が、AI導入の担い手なら知っているべきデファクトとして一定の規範になるかも知れません。

もしくは、場合により規制又は自主規制的に、AI本格導入前にスダンダードが決められる分野もあるでしょう。自動運転や医療関係がおそらくその代表で、これも素人には見えない領域ですが、「自動運転のこのタスクであればどの程度の精度で許容可能か」といった、タスクごとの目標精度設計を決める必要が生じる。社会的に影響が大きければそもそもそれが法規制の対象になるかも知れませんし、それに準ずる場合や、もしくは制度戦略的な意図で、業界団体などを通じて一定の目標精度を企業が自主設定する場面も出てくると思われます。

このような、AIの台頭をきっかけとした、AI独自の新しい企業規範・制度の登場は、経営学的に大変面白いテーマとなり得ます。従来は、企業の規範・制度といえば例えばダイバシティ、CSR、環境保護など、社会的認識の変化を端緒としたものが大半でした。
しかし、今はより技術を正面からとらえた、例えば次のような論点が重要に思います。
・革新的技術の登場と浸透が、どのように新しい規範・制度を生み出すか
・その影響は業界横断的だが、業界に応じて反応がどう異なり、それはなぜか
(例えば社会的批判を避けつつ生産性と収益向上に成功する業種と、そうでない業種の制度への反応の違いはどこにあるか)
・さらには、その制度の生み方を国際比較した際にどう違いがあり、その違いはどのような帰結を生むか
(例えば欧米中日の国・地域レベルで、AI関連の(自主)規制・規範・前提にどう違いが生じ、それがどのような企業の競争優位の差異にどうつながるか)
など。

AIの目標精度自体は、本来はテクニカルな設定事項の一つに過ぎないかもしれません。
しかし、それが社会認識の中で当然備えるべき正当性の源泉となるとき、ただの指標、資格、組織形態も、企業経営とその環境に不可欠なファクターとなり得る。制度派組織論が過去に多くの例で検討してきたその法則が、AIでもあてはまるとしたら、目標精度などは今後要注目かも知れません。

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