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限定された自動化 Bounded Automation

AIは人類の仕事を奪うのか?
Organization Studies誌のウェブ先行公開で、AIがもたらす組織への影響を議論した記事が出ています。通常の論文ではなく、別分野と組織論について語るエッセイコーナー(「X and Organizations」)ですが。経営学のトップジャーナルではほとんどない、貴重なAI論なので今回はこちらを少し丁寧に読み解いてみたいと思います。

Fleming, P. (2018). Robots and Organization Studies: Why Robots Might Not Want to Steal Your Job. Organization Studies (Online first, April 4, 2018).

<要旨>
AIは仕事を奪い社会と組織に破壊的影響をもたらすとされる。実際、日本を筆頭に企業によるAI適用事例がメディアをにぎわせている。しかし、現実には世界的に失業は増えず、むしろ減少している。
なぜAIが浸透しても仕事がなくならないのか?

組織論研究からは、これは当然である。理由は、技術は決まった結果を持つものでなく、組織行動(人間)が技術のあり方を決めるから。特に、組織内外の権力者が何を望むか、組織がどういう戦略を取るかで未来は大きく変わる。AIが人間の全仕事をするポテンシャルがあっても、それを人間があえて実現させるかは全く別問題。人間の合理性が決定的なものでなく、人間の認知や環境で制約を受ける「限定された合理性 Bounded rationality」であるのと同様、AIがたどる道は「限定された自動化 Bounded automation」である。

「限定された自動化」が意味する自動化の制約条件は、次の3つ。

第一に、労働コストの安さ。多くの場合(特に新興国の貧困地域)、機械に投資するよりも人を雇った方が実は安い。企業はより安いオプションを選ぶため、機械化は短期的には進みにくいことが多い。

第二に、権力関係。一点目と関係して、労働者が安い賃金でも喜んで仕事を求めるなら、企業は仕事を機械化せず人を安く使い続けようとする。しかしやがて人は組合を結成し権利と賃金の向上を求める。すると、企業は社会的にそれに応えざるを得ないが、コストも上がるので企業はあらためて自動化を目指す。Uber(カリフォルニア)で起きていることがまさにこの流れの通りで、Uberが最近自動運転に投資しているのは偶然ではない。ストや訴訟が続くような仕事があれば企業は必死で自動化し、そうした仕事は無人になる。

第三に、仕事自体の性質上、人間の存在が求められる場合もある。例えば、コールセンターはいまだに完全には無人化されず(人間に相手をして欲しい顧客はなくならない)、旅客機は自動操縦されているのに人間の操縦士が乗る(非常時に備え責任を果たす)。

このように社会的作用が複雑にからまるので、仕事の機械化は一直線には決まらない。しかし、やがて次のような仕事のカテゴリーに分化していく可能性が高い。

第一に、エリート層。
経営者、起業家、医学研究者など、複雑で重要な責任を負う専門家。

第二に、半自動化労働者。
社会の大多数を占める。機械化で仕事の中身は変わり続けるが、何らかの人間の介入が必要。この中にも階層があり、上(パイロット、エンジニア、医師等)、中(大学教員、管理職、ゲームデザイナー等)、下(コールセンターオペレータ、アシスタント等)がある。機械化の進展により、賃金の下降圧力が常にかかり得る。どの仕事がどこに入るかは、技術自体ではなく社会経済的・組織力学的に決まる。

第三に、自動化に値しない労働。
コストが機械化に見合う場合は機械化されるが、見合わない場合に残される仕事。主に肉体労働系。

こうした「限定された自動化」は、搾取や貧困・格差拡大など負の影響をもたらすリスクがある。それに対して、社会は次の手を打っていく必要がある。
①人間が持つ仕事スキルの高度化
②労働者個人への自己責任転嫁でなく、集団としての権利保護
③労働をめぐる制度の再構築(AIツールの民主化、ベーシックインカム、週3日労働等)

このような問題に応えていくため、組織研究者は今こそ「公のための組織研究 Public Organization Studies」を立ち上げていく必要がある。
―――――

正規の論文でなく自由に書けるエッセイであることが幸いした面もあり、非常に的を射た問題意識だと思います。問題は、通常の学術論文でどこまでこうした社会的に意味ある内容を盛り込めるか。役立つことを書くよりも、査読通過への技術的対応がどうやっても優先になるのが(特に海外経営学の)現実だと思いますが、「Public Organization Studies」に資する研究を日本からも行っていければと思います。

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