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見えてしまう組織

デジタル技術の発展によって、情報に簡単にアクセス出来るようになり、他人の評価もデジタル情報に頼り、それに基づいて行動を変える。このような時代のトレンドは、組織にどのような変化をもたらすか。今回は、新しい時代の組織を駆動するメカニズムの理論化を目指した論文です。 Leonardi, P. M., & Treem, J., W. (2020). Behavioral visibility: A new paradigm for organization studies in the age of digitization, digitalization, and datafication. Organization Studies, 41: 1601-1625. 要するにこの論文は : デジタル化で組織構成員の行動が周囲から常に見られるようになることで、どのような新しい組織のメカニズムが生まれているかを説明した理論論文。 ポイント : 近年の技術革新は、電子化・デジタル化・データ化の3つの潮流(3C)を組織にもたらしている: 電子化(Digitization):行動や行動の証が電子データになる デジタル化(Digitalization):社会的生活がデジタル技術を通じて、またその周辺で組織化される データ化(Datafication):活動・行動・プロセスが、意味を持ったデータとなってそれ自体が組織を動かす これら3Cがもたらす最も深遠な変化は、行為の可視化(Behavioral visibility)が強まることである。これは、人・集団や機器の行ったことがあらゆるポイントでデータ化され、行為の直接の相手でない第三者にも簡単に見えるように共有され、その結果としてそれらのパターンや結果・動機が勝手に推定されていく社会物質的な動きである。 行為の可視化が強まるためには、3つの条件となるメカニズムがある。それは、自己主張(Self-presentation)、集合としての定量化(Aggregate quantification)、アルゴリズムによる秩序化(Algorithmic ordering)である。 自己主張(Self-presentation):人や組織は自らの行為のある部分を声高に主張したり、見つかりやすくすることで、より他者から見えやすい状態を作る 集合と...

仕事のフィードバックをAIがしたらどうなるか

AIにコーチングを受けることで、仕事のパフォーマンスを上げる。そのような世界が簡単にくるのか?子供の勉強も、アルゴリズムを使って誤答に合わせ次の出題を調整したり最適なアドバイスを表示するような工夫が進んでいますが、仕事でもそうなのか。今回は、こうした問いを扱う実験です。 Tong, S., Jia, N., Luo, X., & Fang, Z. (2023). The Janus face of artificial intelligence feedback: Deployment versus disclosure effects on employee performance. Strategic Management Journal.  一言で言うとこの論文は : AIが仕事のフィードバックをすると、フィードバックの内容の質が上がる効果と、AIからのフィードバックと聞いて受け手の生産性が下がる効果が、どう相互作用するかを実験で検証した実証研究論文。 ポイント : AIを使って仕事のフィードバックをすることが可能になってきているが、これは大きな議論を読んでいる。なぜなら、そこにはトレードオフがあるためである。 一方では、AIはポジティブな「導入効果」があり、より良質なフィードバックを提供し従業員の生産性を高めることが出来る。 AIはより多くのデータを正確に分析するため、個々の従業員のパフォーマンスをより正確に評価できる。 さらにAIは個々の従業員によりカスタマイズしたフィードバックを提供できる。 他方では、AIはネガティブな「開示効果」があり、従業員の生産性を下げる効果がある。 AIのフィードバックであることを受け手が知ると、AIへの信頼性への疑問が生じる さらに、職を奪われるリスクの感覚からネガティブな認識が生まれる この二つの効果が両方働くとき、AI導入の効果はどうあるのか。本研究では、実際の職場での実験によって検証を行った。 アジアの大手金融サービス会社の、債権回収コール業務 265人の正社員に、ランダムにAIによるフィードバックと人間によるフィードバックを割り当て、さらにランダムにそれがAIによるフィードバックと通知する例と、人間によるフィードバックと通知する例を割り当てた。 一日に100件の債権回収コールを行い、ランダムに5つのコー...

AI時代の競争優位とは何か

戦略論では、競争優位とは何かを主眼の一つとしています。AIの台頭で競争優位の内容や意味がどう変わるのか。今回の論文は、こうした重要テーマをゲーム(チェス)のデータで実証した研究です。 Krakowski, S., Luger, J., & Raisch, S. (2022) Artificial intelligence and the changing sources of competitive advantage. Strategic Management Journal. 要するにこの論文は : AIが人間の能力をどう代替しまた拡張するかを、AIを利用したチェスのデータで検証した実証研究論文。 ポイント : 人間の認知能力は、不均一に分布し、供給が限られ、模倣が困難であるため、重要な競争優位性の源泉とされてきた。しかし、AIは限界再生産コストがゼロに近く、模倣の障壁もほとんどない。そして、AIは、人間の認知能力を代替するだけでなく同時に補完する潜在力を持つ。 本研究では、このようなAIがどのように人の認知能力を代替・補完し、競争優位の源泉にどう影響を与えるのかを検討する。 具体的には、AIと人間が混在して行われたチェストーナメントの対戦データを題材に、統計的分析を行った。 2000~17年、112人が参加した3,181のトーナメント 人間だけ、AIと人間のチーム、AI単体、の三種のプレイヤーが対戦 その結果、次のことが明らかになった。 まず、チェスエンジン(AI)が競技に参加することで、人間のチェスプレイ能力とチェスの成績の間にあった正の相関が損なわれた。つまり、AIを使ったチェスでは、チェスの能力が高い人間が統計的に多く勝ちを収めることがなくなった。これは、AIが人間のチェス能力を代替して無力化させたことを意味する。 第二に、AIだけで参戦する場合と人間がAIとチームを組んでプレイする場合の両方で、AIエンジンを人間が選択、調整、制御することで、そこに補完関係が現れる。このような人間の能力による機械の補完は、新たな持続的な性能差を生み出す。しかし、その補完能力は、人間の従来のチェスプレイ能力とは無関係であるか、あるいは否定的な関係さえある新しい能力である。 これらを通じて、従来のAIによる代替(競争優位の破壊)と補完(競争優位の創造)という二者択一...

生成AIは何を変えるのか

昨今話題となっているのは、なんと言ってもChatGPTなどの生成AIです。今回は、生成AIをどう経営学で扱うか、どういう論点があるかを簡単に提示した最近のエッセイです。 Berg, J, Raj, M., & Seamans, R. (2023) Capturing value from artificial intelligence. Academy of Management Discoveries.  一言で言うとこの論文は : 生成AIの台頭を受けて、関連する研究テーマの重要性を提唱したエッセイ。 ポイント : 2022年11月に本格リリースされたChatGPTを筆頭に、生成AIがきわめて速いペースで浸透し、社会的な話題となっている。これは、AI技術が既に出来上がった決まった形のものではなく、次々に進化していくことを示している。 このようなAIの進化は、経営学研究に対してどのような新しい問いを投げかけるのか。 AIは、これまで主流だったある特定のデータ範囲で最適解や予測を出すものから、新たなデータを生成するAIに進化した。これらに二種は根本的に異なる可能性がある。 ここでは、AIと補完的資産という観点から、特に重要な2点を挙げる。 補完的資産とは、技術を活用するために必要となる資産である AIに限らず歴史的に、汎用技術(General purpose technology)は、補完的資産を持つ組織だけがその価値を利用することができた 1.異なるタイプのAIでは補完的資産も異なるか? 従来型の閉じたAIはデータサイエンスのスキルなどが重要となっていたが、生成AIでは誰でも使えるインターフェースとなっており、必ずしもそれがあてはまらない。 実際に、最新の研究では生成AIにより影響を最も受けるのは、従来型のAIで強く影響を受ける職業・産業とは違うものであるとされる。具体的には、テレマーケターやさまざまな教師が影響を受ける職業の上位とされる。 これは、AIのタイプが違えば必要な補完的資産も異なることを暗示しており、従来型で重要なデータサイエンスに代わって、生成AIの場合はどのようにAIを使うか、使い方の創造性が重要な補完的資産となるかもしれない。 2.組織はAI技術の進化をどうマネジメントするか? AI技術から価値を得るには、補完的資産を持つしかない...

人事評価をAIが決めると何が起こる?

HRMにもAIの導入は進んでいます。今日の論文は、特に人事評価について、その影響を検証した最新のものです。 Scheibmayr, I., & Reichel, A. (2023). The future of HRM incentivizing Strathern’s paradox? Workers’ responses to algorithmic HRM. Academy of Management Discoveries. 一言で言うとこの論文は : アルゴリズムが定めた人事評価の基準が、評価される側の行動をどう歪めるかを実験とインタビューで検証した実証研究論文。 ポイント : AI・アルゴリズムは人的資源管理(HRM)にも浸透し、人間の手間を省きながらより客観的な人事の意思決定ができるようになると考えられている。 そうした肯定論の多くは、アルゴリズムを人事評価に使う際、評価される側がその後も行動を変えず、アルゴリズムが正しくその人の評価を予測できることを暗黙の前提にしている。 しかし、特定の指標が評価上重視されていれば、評価される側の行動は変わり得る。そこで、本研究では、評価上の重視項目(インセンティブ)が、人事AIと評価される側の関係にどう影響するかを検証した。 検証には、次の混合研究の手法を用いた: 2020/21年に経済学関連分野専攻の大学生104名に協力を得て、シミュレーション実験を行った。 実験では、コンピュータ上のシミュレーションで病院の人事責任者となったと想定してもらい、架空の外科手術担当医たちを評価するとして、医師と患者の過去10年分の(架空)実績データを見せた。 次に、「機械学習アルゴリズムが医師のパフォーマンスを予測する先行指標として、次の3つの指標を特定した」と提示した。3つとは、術後24時間生存率、30日以内の再入院率、1年以内の患者のウェルビーイングである。ここで、医師の評価基準でどの項目を重視するか、3つについて参加者に自由に重み付けさせた。 次に、このアルゴリズムと評価が実行されたとして、友人の医者からある架空の3人の患者についてそれぞれ手術を担当すべきか、Yes/Noでアドバイスを求められたとし、回答を求めた。3人の患者の内、一人だけ心臓移植の症例で死亡率が高く高齢となっていた。 実験後、参加者にこのやり方では誰が...

フリーランサーがギグエコノミープラットフォームに対抗する方法

ギグエコノミーフリーランサーの研究は増えており、今日の論文はそうした探索的研究の一つです。 Bucher, E. L., Schou, P. K., & Waldkirch, M. (2021). Pacifying the algorithm: Anticipatory compliance in the face of algorithmic management in the gig economy. Organization, 28(1): 44-67. 要するにこの論文は : ギグエコノミープラットフォームで活動するフリーランサーが、アルゴリズムによる管理に対してどのように能動的に対応するかを探索した定性実証研究。 ポイント : オンラインプラットフォームで仕事を請け負うフリーランサーは、その数と重要性を増している。 オンラインプラットフォームでは、登録の可否や仕事のマッチングをアルゴリズムが行い、その場の秩序の形成に強い影響力を持つ。 しかも、オンラインプラットフォームでは意思決定の理由が見えず、何のデータを意思決定に使っているのかも明確ではなく、さらにアルゴリズムの決定が自分にどう跳ね返ってくるかをきちんと理解することが難しい。 そこでこれまでの研究では、こうしたアルゴリズムの管理に注目し、フリーランサーをそれに左右される受動的な存在として、彼らの経験をエスノグラフィーで描いてきた。 具体的には、影響力(パワー)の格差、新しい働き方、新しい人事慣行などが注目されてきた しかし、通常の雇用と同じように、オンラインプラットフォームでも、フリーランサーは主体的に管理に対処する。フリーランサーは、アルゴリズムによる管理に対してどのように能動的に対応するのか。 本研究では、あるプラットフォームに関するフリーランサーによるコメントを解析して、彼らがアルゴリズムによる管理にどのように対処しているかを探索した。 UpWork(米国の有力プラットフォーム)で働くフリーランサーについて 彼らがUpWorkについてコメントをやり取りする別のウェブサイトでの12,994コメントをスクレーピング サンプリングしたテキストデータをコーディングし、それを教師データに学習させたアルゴリズムで残りをコーディング コーディングをガイドに、人間がデータの構造を分析 その結果、フリー...

第3の視点:組織論でのAI研究の課題とこれから

組織論では、AIに関する研究もだいぶ増えてきました。その多くがエスノグラフィーで、特定の組織でAI利用する場面に入り込み、観察して実態を描写するものです。このような第一期AI研究とでも呼ぶべき現状から、課題と次のステップを提唱したのが、今日の論文です。 Anthony, C., Bechky, B. A., & Fayard, A. (Forthcoming). "Collaborating" with AI: Taking a system view to explore the future of work. Organization Science. 要するにこの論文は : これまでの組織論でのAI研究を2つの視点に整理し、その課題を指摘して、新しい第3の視点を提唱した論文(若干エッセイに近い)。 ポイント : 組織論のこれまでのAI研究では、様々な組織でのAI導入が深く観察され、ある程度の現象的な理解が出そろってきた。 その視点は、大きく次の二つに整理できる。 1.ツールとしての技術(AI) この視点は、「タスクを遂行するツール」としての技術を強調する。 問いとしては、ユーザーがどのように技術を解釈するか、どのようにツールを使いこなすか、結果としてどのようにスキルや専門性に影響を受けるか、を問題とする。 典型的には、ある特定の組織を部隊に、技術が導入されユーザーが実際に使う場面にフォーカスする。 技術は、ヒトの専門性を補完したり自動化して影響を与える役割を持つ。 2.媒体としての技術(AI) この視点は、「人同士の相互作用の媒体」としての技術を強調する。 問いとしては、技術の導入がさまざまなグループ間のせめぎ合いや意味認識をどう変えるか、技術は媒体としてどのような性質を持つか、問題とする。 典型的には、ある特定の組織を部隊に、技術が導入されユーザーが実際に使う場面にフォーカスする。 技術は、ヒトの相互作用の間でそれを媒介する役割を持つ。 しかし、これらの視点は二つの理由からAIの実態を捉えるのに十分でない。 第一に、AIは次のような、これまでの技術にない3つの特性を持つため、固定的で独立した存在としての見方が成り立たないためである。 継続的変化:AIはデータの拡大とフィードバックを受けて自律的に進化し続け、全く同じ存在として固定さ...