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AI時代の競争優位とは何か

戦略論では、競争優位とは何かを主眼の一つとしています。AIの台頭で競争優位の内容や意味がどう変わるのか。今回の論文は、こうした重要テーマをゲーム(チェス)のデータで実証した研究です。

Krakowski, S., Luger, J., & Raisch, S. (2022) Artificial intelligence and the changing sources of competitive advantage. Strategic Management Journal.

要するにこの論文は:

AIが人間の能力をどう代替しまた拡張するかを、AIを利用したチェスのデータで検証した実証研究論文。

ポイント:

  • 人間の認知能力は、不均一に分布し、供給が限られ、模倣が困難であるため、重要な競争優位性の源泉とされてきた。しかし、AIは限界再生産コストがゼロに近く、模倣の障壁もほとんどない。そして、AIは、人間の認知能力を代替するだけでなく同時に補完する潜在力を持つ。
  • 本研究では、このようなAIがどのように人の認知能力を代替・補完し、競争優位の源泉にどう影響を与えるのかを検討する。
  • 具体的には、AIと人間が混在して行われたチェストーナメントの対戦データを題材に、統計的分析を行った。
    • 2000~17年、112人が参加した3,181のトーナメント
    • 人間だけ、AIと人間のチーム、AI単体、の三種のプレイヤーが対戦
  • その結果、次のことが明らかになった。
    • まず、チェスエンジン(AI)が競技に参加することで、人間のチェスプレイ能力とチェスの成績の間にあった正の相関が損なわれた。つまり、AIを使ったチェスでは、チェスの能力が高い人間が統計的に多く勝ちを収めることがなくなった。これは、AIが人間のチェス能力を代替して無力化させたことを意味する。
    • 第二に、AIだけで参戦する場合と人間がAIとチームを組んでプレイする場合の両方で、AIエンジンを人間が選択、調整、制御することで、そこに補完関係が現れる。このような人間の能力による機械の補完は、新たな持続的な性能差を生み出す。しかし、その補完能力は、人間の従来のチェスプレイ能力とは無関係であるか、あるいは否定的な関係さえある新しい能力である。
  • これらを通じて、従来のAIによる代替(競争優位の破壊)と補完(競争優位の創造)という二者択一ではなく、代替と補完が統合的に起こることで新しい競争優位のメカニズムが生まれることが示された。
    • 伝統的な人間の認知能力による競争優位は無尽蔵の計算能力を持つAIによって代替(無力化)されるが、従来はその領域に無関係だった人間の能力を活用して機械と協働することで、新たな持続的競争優位性が生まれる。
    • つまり、過去に優位性の源泉となっていた人間の専門性は、今後のAI時代の競争環境では同様の強みを発揮することができなくなる可能性がある。
    • しかし、見方を変えれば、人間は今後も変わらず競争優位を実現するための重要なピースであり続ける。なぜなら、機械との独特な協働関係こそが、相互の能力を最大限に引き出すカギとなるためである。このような、機械の能力を増幅する(それを通じてそれと協働する人間も結果的に能力を増幅する)能力こそが、今後の競争優位性の源泉であり、企業はこの新たな能力の開発に投資を行っていくべきである。

コメント

この研究の最大の魅力は、結論としての競争優位のあり方の変化の明確さだと思います。言葉を換えると、AIにある部分では人間は勝てないので、そこでは代替されてしまうことを前提に、むしろAIを使いこなしAI+人間でパフォーマンスを最大化することが最重要。そしてそうした増幅能力を開花させることこそが競争優位になる、ということです。

そして、こうしたAI増幅能力は従来の専門性とは関係ない、「AIリテラシー」とも言うべき全く新しい能力である、という点も刺激的です。AIに慣れた素人の方が、専門家を打ち負かすことが容易に出来るという。生成AIの動向などを考えても、そうした未来があり得るシナリオとして説得力を持ってきます。

気になる点は、やはり実証データを取っているのがチェスであり、現実ではないということでしょう。もちろん単純化されたチェスの世界は、純粋なシミュレーションをするには理想的な側面もあります。しかし、たとえば企業の競争であれば、チェスのように一つの能力が高いか低いかで勝負が決まることはなく、むしろある能力に劣れば別の軸で勝負する、あるいは規制など勝負のルールを変えてしまう、といった、総合格闘技に近いものになります。そうすると、AI+人間のチェスのように協働モデルがある局面で人間より優位を持っても、それ自体は全体の中のごく一部の局地戦になるのではないでしょうか。

また、専門性が無力化するような示唆が書かれていますが、これも微妙な部分があると思います。たとえばチェストーナメントであれば、チェスAIのチューニングを行う際にチェスを全く知らなくても良いのかも知れませんが、現実にAIを導入する場面では、一定の現場知識がある方が、少なくとも解くべき問題設定の場面や、ソリューションを現場に落とし込む際には有効なことも多く、組み合わせとしてはそうした知見もあった方が良い例はあるような気がします。

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