組織論では、AIに関する研究もだいぶ増えてきました。その多くがエスノグラフィーで、特定の組織でAI利用する場面に入り込み、観察して実態を描写するものです。このような第一期AI研究とでも呼ぶべき現状から、課題と次のステップを提唱したのが、今日の論文です。
Anthony, C., Bechky, B. A., & Fayard, A. (Forthcoming). "Collaborating" with AI: Taking a system view to explore the future of work. Organization Science.
要するにこの論文は:
これまでの組織論でのAI研究を2つの視点に整理し、その課題を指摘して、新しい第3の視点を提唱した論文(若干エッセイに近い)。
ポイント:
- 組織論のこれまでのAI研究では、様々な組織でのAI導入が深く観察され、ある程度の現象的な理解が出そろってきた。
- その視点は、大きく次の二つに整理できる。
1.ツールとしての技術(AI)
- この視点は、「タスクを遂行するツール」としての技術を強調する。
- 問いとしては、ユーザーがどのように技術を解釈するか、どのようにツールを使いこなすか、結果としてどのようにスキルや専門性に影響を受けるか、を問題とする。
- 典型的には、ある特定の組織を部隊に、技術が導入されユーザーが実際に使う場面にフォーカスする。
- 技術は、ヒトの専門性を補完したり自動化して影響を与える役割を持つ。
2.媒体としての技術(AI)
- この視点は、「人同士の相互作用の媒体」としての技術を強調する。
- 問いとしては、技術の導入がさまざまなグループ間のせめぎ合いや意味認識をどう変えるか、技術は媒体としてどのような性質を持つか、問題とする。
- 典型的には、ある特定の組織を部隊に、技術が導入されユーザーが実際に使う場面にフォーカスする。
- 技術は、ヒトの相互作用の間でそれを媒介する役割を持つ。
- しかし、これらの視点は二つの理由からAIの実態を捉えるのに十分でない。
- 第一に、AIは次のような、これまでの技術にない3つの特性を持つため、固定的で独立した存在としての見方が成り立たないためである。
- 継続的変化:AIはデータの拡大とフィードバックを受けて自律的に進化し続け、全く同じ存在として固定されない。
- 不可視性:AIはユーザーがモノとしての姿を持たず、時には隠れて作用する。そのため、ユーザーが「AIとはこういうもの」という共通理解を作ることが難しい。
- 不可解性:AIはその判断がブラックボックスであり、また学習を通じ変化していくため、ユーザーだけでなく作り手にとっても説明できない。
- 第二に、AI(に限らず技術)は、ユーザーだけでなくもっと多くの関係者の相互作用から成り立っているが、これまでの研究はこれを捨象している。
- 例えば、AIソリューションの作り手はプログラムを作る際に、特定の意図やバイアスを持ち込まざるを得ない(そうでないとプログラムを定義できない)。
- さらに、規制や社会的認識など、ユーザーがAIを使う際にはその場面に直接現れないさまざまな変数が「AI」を形成している。
- そのため、これからの組織論のAI研究は、次のような第3の視点を取るべきである。
- この視点は、「社会的な相互作用を形作るアクターの1人」としての技術を強調する。(アクターネットワーク理論を援用する)
- 問いとしては、開発者やユーザーなどさまざまなアクター間の利害関心や権力関係がAIのデザインや利用法にどう影響するか、AIの開発や利用にどのような「見えざる手」が働いているか、組織を超えた全体環境の中でAI利用の影響をどのように計測できるか、を問題とする。
- 過去/現在/未来の複数の時間軸で、AIの利用場面だけでなく、各アクターの歴史、AIの開発、その後の進化までを視野に入れる。
- 技術は、さまざまな立場の人間と同じく、技術をめぐる組織化に寄与するアクターの一員である。
- このような視点を実現するためには、伝統的な一組織でのユーザーにフォーカスしたエスノグラフィーを超えて、研究手法も新しいモデルに革新していく必要がある。たとえば:
- 組織システムの複数の部分を調査する
- 複数の文脈・場面を調査する
- 複数の時間軸で調査する
- 象徴的な物語としてのAI(AIについて、実態でなく人々が語る神話)を、実際の行動と分けて意識的に深く調査する
- このような研究を実現するためには、新しいスキルセットが研究者に求められる。たとえば:
- 多数の観察を行うエスノグラフィーに、複数人の統合的なチームで取り組む
- 言葉に加えて、ビジュアルやモノを使って情報を多角的に引き出させるよう、新しいインタビュースキルを向上させる
- ユーザーにマッピングさせる、デザインワークショップの手法を活用する、など
- エスノグラフィーであっても、文献資料データやサーベイを併用する
- 蓄積されたデジタルデータを、(研究者もアルゴリズムを使うなどして)解析する
コメント:
組織論でのAI研究について、現状を整理しつつ新しい展望を提唱した、重要な論文/エッセイです。特に、より包括的な視点として第3の視点を打ち出し、具体的な研究方法やスキルをある程度詳しく解説している点は、出色だと思います。これらの方法/スキルの点は、このAIの文脈に限らず重要性があると感じます。AI研究はまず色々な組織でエスノグラフィーでの事例探索が出てくる段階、とはこのブログでも何度か書いていますが、米国では「その先」を議論するフェーズに移ってきたと理解します。内容的には、非常に整理されていて、先行理論もしっかり包摂して連結させた、さすが米国のトップジャーナルと感じます。
あえて気になる点を書くと、AIに関する組織論も(他もそうした分野があると思いますが)欧と米が分岐している感を新たにしました。参照された文献・理論系譜も技術・組織論=「米国系」というべき感があり、欧州ではまた別の議論をしているような感覚があります。また、学術的にAIの実態をより深く広い視点で理解していくべき、というのは正しいと思うのですが、これが世界にとって何につながるのか、という感じもします。AIについては、単純な推進論が無邪気な邪悪につながる、という論点もあるので慎重な純学術的探求も分かるのですが、一方で現実に対処している実務家がこれを読んでどう思うのか(実際には読まないですが)は、少し気になりました。
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