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専門職の仕事は、デジタル化でどう変わるか?

AIが人間を代替して仕事を奪うという議論は一時期大きく話題になりました。その後、職業、特に専門職(弁護士・会計士・医師など)とAIをめぐる議論はさらに発展しています。ここでは、そうした最新の論文の一つを取り上げます。 Sako, M., Qian, M., & Atolini, J. (2022). Future of professional work: evidence from legal jobs in Britain and the United States. Journal of Professions and Organization, 9 (2): 143–169. 要するにこの論文は : AI等デジタル技術の浸透が専門職の仕事にもたらす影響を、英米の弁護士を題材にウェブ上の求人情報から検証した定量実証研究。 ポイント : デジタル技術は専門職の仕事にどう影響するか? この問いには、専門職の管轄領域のコントロール(professional jurisdictional control)という視点が有用である。 専門職の管轄領域のコントロールとは、外部からの妨害要因に対して、専門職が自らの管轄領域を守ったり変えたりする働きかけを指す。国や専門職によってその方向性が異なる デジタル技術は、そのような外部からの妨害要因の典型例である 管轄領域のコントロールは、防衛的である場合も開放的である場合もある。 防衛的なコントロール:専門職は既存の管轄領域を守りながら、外部変化から生まれた新しい補助タスクを、自らに従属する他の職業に担当させる 連携的なコントロール:専門職は新しいタスクを他の職業と分かち合い、対等な立場で望みつつ、自らの管轄領域も変化させる。 本研究では、法務の仕事に関するウェブ上の求職データを大量に集め、上記の仮説を検証した。具体的には: 2014-2020年について、以下のデータを収集した 雇用主は、英米共に伝統的な法律事務所・企業的な法律サービス事務所(リーガルテックを使った法務アウトソースなどを請け負う)・それら以外の他の企業雇用主の3種のセグメントを含む 英国:連携的なコントロールの例 法曹業界の求人89.1万件(要求資格に応じて弁護士向け42.6万件・その他の法律専門職向け19.5万件・その他向け27万件の3種) 他の業界での求...

人材の可視化がもたらす影響

社内でこういう分野が得意な人はいないか?社内でこういうプロジェクトを過去にやった人がいるのではないか?必要な知識や専門性を持つ人材と素早くコンタクトできれば、ゼロからやるよりも圧倒的に速く仕事が出来ます。昔からそういう社内ディレクトリはありましたが、デジタル技術はそれをさらに高度に、かつコミュニケーションとも連動させています。今回の論文は、そうした人材検索システムが成果にもたらす影響を検証したものです。 Wu, L., & Kane, G. C. (2022). Network-biased technical change: How modern digital collaboration tools overcome some biases but exacerbate others. Organization Science, 32(2): 273-292. 要するにこの論文は : あるITサービス企業への社内人材検索システム導入を題材に、そうしたシステムがもたらす結果を検証した定量実証研究。 ポイント : 企業にとって知識は重要な競争優位の源泉であり、社内の誰がどのような知識と専門性を持つかを的確に把握して知識を活用することは重要である。 デジタル技術の台頭で、そのような「誰がどのような知識と専門性を持つか」を可視化する仕組み(Digital transactive memory system, DTMS)が浸透しつつある。本研究では、DTMSがもたらす影響を検討した。 具体的には、ある大手IT専門サービスファームで、社内人材の専門性が検索・表示され、連絡が可能となるデータベースシステムを導入した3年間の利用データを統計的に分析した。その結果、以下が明らかになった。 DTMSの影響は、ユーザーの属性によって異なる形であらわれる。 特に、これまで組織で権力を持たなかった層(若手や女性)に対して、ポジティブな影響が強く表われた。具体的には、リアルの世界で目立たない/過小評価される人も知識やスキルがあれば検索で表示されるため、こうした層の組織内での新しいコネクション量が特に増え、より多様な相手とつながって新しい仕事への貢献や情報獲得が可能となり、売上(顧客にチャージできる稼働時間)も増えた。 一方で、組織内で高い地位にあるなど有利な立場にあった層は、若手や...

専門的サービスのDX

法律や会計など、専門的知識に基づくサービスにも、デジタル技術の影響は広がっています。今回扱うのは、そのような専門的サービスの世界で、どうイノベーションを実現するかという論文です。 Dodgson, M., Ash, S., Andrews, J., & Phillips, N. (Forthcoming). Managing Technology-Enabled Innovation in a Professional Services Firm: A Cooperative Case Study. Academy of Management Discoveries. 要するにこの論文は : AIなど技術を導入したイノベーションを、総合プロフェッショナルサービスファーム(PwC)がどう実現したかについての実証研究。 ポイント : イノベーションの研究は製造業を中心としており、サービス業、特に専門サービスについての研究は非常に限られている。 本研究は、監査法人やコンサルティングなど幅広い専門サービスを提供する国際的プロフェッショナルサービスファーム(PSF)であるPwC(イギリス)が、AIなど技術を導入したイノベーションをどう実現したか、3年間の過程を、当事者も研究者と共に研究に参加する形で探索した。 結果として、以下が明らかになった: PSFの技術導入イノベーションは、新技術導入に対する必要性(ファーム内部での効率性向上ニーズ、クライアントの競争優位向上支援のニーズ)を契機として始まる しかし、PSFには固有の障害(パートナーが自律的である組織構造、ファームとしての全体戦略よりも個々のクライアント中心、規制産業としてのイノベーションスキルの不足)がある そのため、PSFの技術導入イノベーションは特有の形を取る。具体的には: シニアリーダー層の強いコミットメントが重要となる 具体的な成果物は、現場と協働しながら創発的に作られていく イノベーション自体が浸透していないため変化の触媒となるような仕掛けが必要となる(人材育成など) さらに、これを支援するために。実験的なスペース(試行錯誤を許す環境、物理的なコラボレーションスペースを含む)と知識面のスペース(学びの共有と反芻)の二つが発達する これらが効果的に機能することで、イノベーションは成果を生む 合わせて、プラ...

デジタル化とコーポレートストラテジー

論文誌では、ときどきテーマを決めて特集号が組まれることがあります。デジタル化についての特集号も2020-21年に刊行されるタイミングでかなり多く出ていました。ここでは、その一つを扱い、個々の論文ではなくその冒頭のエッセイでまとめとして書かれたことを取り上げます。 Menz, M. et al. (2021). Corporate Strategy and the Theory of the Firm in the Digital Age. Journal of Management Studies, 58 (7): 1695-1720. 要するにこの論文は : デジタル特集号の巻頭論文。特に全社戦略と企業に関する論点を整理した論考。 ポイント : デジタル化は、①全社戦略のあり方について、また②企業という存在の境界について、③企業の内部構造について、大きな変化の可能性を投げかける。 ①全社戦略のあり方について、デジタル技術が様々な領域の境界線を曖昧にする影響から、特に二点について新しい傾向が登場している。 ビジネスモデルの選択肢が大きく多様化し、かつリアルよりもビジネスモデルの可変性が高まっている。かつ、プラットフォームモデルを筆頭に、優れたビジネスモデルを構築できるか否かが、他のリアル要素を超えて圧倒的に重要な影響を持つようになる。このため、全社戦略の意味がビジネスモデル論に集約する傾向すらある。 全社戦略の焦点が、価値獲得から価値創造にシフトしている。これは、デジタル時代に登場するビジネスモデルの多くが、ポーター的な視点で見れば魅力の無い市場であることと関係している。参入障壁は低く、差別化可能な固定資産は無く、ITで多くの情報を持つ買い手の交渉力は圧倒的に強く、サービス開始当初はスイッチングコストも非常に低い。しかし、成功するデジタルビジネスは、顧客が一度ロックインされると替えの効かない圧倒的な依存性を実現する。そのため、勝者となれば価値を総取りできる。企業はこれが分かっているため、目先の利益獲得ではなく後で収奪するための価値の創造に邁進する。 ②企業の境界については、デジタル化は二律背反する作用がある。 一方では、あらゆるものがオンライン市場で取引可能になるため自前で人や資産を抱える必要性は下がり、企業が機能を内製化して規模を追う意味がなくなる。他方では、AI...

ギグエコノミーと仕事の評価

ギグエコノミーに関する論文は多く、AI/テック関係の論文で相当な比重を占めています。今日は、その一つ(ある種典型的なもの)を扱います。 Rahman, H. A. (2021). The Invisible Cage: Workers’ Reactivity to Opaque Algorithmic Evaluation. Administrative Science Quarterly, 66(4): 945-988. 要するにこの論文は : フリーランサーがオンラインプラットフォームでの仕事において、機械による不透明な評価基準に対してどう対処するかを探索した実証研究論文。 ポイント : 第三者によって仕事の評価が為される場合、通常なら高い評価が取れるようにその評価基準に合わせて仕事をするコントロール効果が生まれる。 しかし、仕事の評価を人工知能が行うようになると、判断結果に至る論理がブラックボックスであるため、評価基準が人間には判断できなくなる。オンラインプラットフォームは、その端的な例である。 本研究では、オンラインプラットフォーム上のフリーランサーについて3年間の参与観察を行い、フリーランサーがそのような評価基準の不透明さにどう対処するかを研究した。 結果として、以下が明らかになった: プラットフォームのアルゴリズムはフリーランサーを評価し、それによってフリーランサーの処遇に差をつけていった フリーランサーたちはそのような評価の影響は理解していたが、どういう評価基準で評価されているかが彼らには分からなかった。その結果、フリーランサーの間では、プラットフォームへの依存度(高いか低いか)と、プラットフォームから受ける評価(ハイパフォーマーかローパフォーマーか)に応じて異なる反応が見られた。 ハイパフォーマーの場合、そのプラットフォームに仕事を大きく依存している層がたまにプラットフォームから低評価を受けるとき、何が点数を低くする要素だったのかを探るために、様々な実験的や働きかけをした(仕事期間の長さを変える、クライアントの感想コメントを確保する、等)。 一方で、プラットフォームへの依存が低い層は、高評価を受けても低評価を受けてもそれへの対応に時間を使うことを嫌い、特に何もしなかった。 ローパーフォーマーの場合、プラットフォームへの依存が大きい層はある仕事の評価が...

データで業務管理させられると、仕事の意義は変わるのか

今回は3年ほど前に公刊された、初期のDatification関係の論文についてです。 Stein, M., Wagners, E. L., Tierney, P., Newell, S., & Galliers, R. D. (2019). Datification and the pursuit of meaningfulness in work. Journal of Management Studies, 56(3): 685-716. 要するにこの論文は : デジタル技術が従業員の行動把握と監視を強めるとき、従業員にとって仕事の意義がどう変わるかを探索した定性実証研究。 ポイント : デジタル技術の進化と浸透に伴って、職場での幅広い行動履歴のデータ化(Datification)が進む。各人は、自分が取った行動について様々な記録とデータ入力を求められ、それはデータ化作業(Datification work)という新しい仕事のタスクになる。 しかし、そのような押しつけられた業務記録と監視強化は、仕事の自律性を損ない、仕事に対して感じる意義を失わせ得る。職場でのデータ化の進展は、仕事に対して人が感じる意義にどのように影響を与えるだろうか。 本研究では、北米の二大学における新しいピープルアナリティクスシステムの導入について、31のインタビューと内部資料による事例分析を行った。 結果として、データ化は、仕事の意義の認識に大きく影響を与えることが明らかになった。詳細は次の通り: データ化が自己実現につながり自らが価値ある存在ととらえられた文脈では、データ化は仕事の意義を肯定的に高める。各人は仕事と新技術の肯定的な側面を強化してとらえ直す(Augmenting)。 逆に、新技術が孤立や敵対的なものと理解される文脈では、各人は自らの役割を再定義するか、または新技術導入に積極的な抵抗をする形で変化に対処する(Offsetting) これらの反応はどちらも、データ化作業をより意義がある形になるよう変化させるフィードバック効果がある。 一方で、一部の場合には、データ化自体に対しては否定的なとらえ方をしても、愚痴を言うなどの小さな抵抗だけで、特に何も変わらない場合もある。その場合は、形式的なデータ入力だけが続き、仕事の意義に対する認識も仕事自体も特に変化しない。 コメント ...

デジタル化による変化の本質

Organization Science特集号について、巻頭言に少し理論的な提言が出ているので、ここではそれをまとめて考察してみます。 Bailey, D. E., Faraj, S., Hinds, P. J., Leonardi, P. M., & von Krogh, G. (2022). We are all theorists of technology now: A relational perspective on emerging technology and organizing. Organization Science, 33(1): 1-18. 要するにこの論文は : デジタル特集号の巻頭言。ただし、一つの理論的視点を提唱した理論論文としての部分も有。 ポイント : 本誌がデジタル特集号を企画した背景には、デジタルをはじめとする新技術が、組織化プロセスの中心となりかつその触媒となる役割を果たすようになったことがある。 社会のあらゆる所で生まれるデータが技術によって常時活用されるようになり、あらゆるものがデータ源になりつつある。この変化の本質は、人同士や人とものとの関わり方が、常に生まれるデータによって生まれ変わり続けることにある。 組織論や組織化にとって、この変化は3つの点で重要である。 第一に、新技術は、データを糧に自己学習し進化することを通じて、人の認知や行動を将来的に大きく代替する可能性がある。 第二に、新技術は組織が個人や他の集団の行動をトラッキングしモニタリングすることを容易にする。これは、監視社会につながる。 第三に、新技術は組織の枠を超えた新しい形の連携やイノベーションを可能にする このような変化の中では、技術を固定的な存在ととらえてその影響を分析するのではなく、技術の本質を常に進化し続ける関係性とその変化としてとらえる、「関係性の視点(relational view)」が有用である。 ある技術がある人の認識や行動を変化させると、その人と他の人や技術との関係性が変わる。これが滝のように関係性をさまざまな側面で変化させていく。このような視点が関係性を重視した視点である。 コメント : アメリカでの組織論を主導するジャーナルで、今後の研究の方向性を提唱した論考になると思います。特に、「AIが登場したから組織がどう変化したか」...