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アルゴリズムがマッチングする仕事の意味

Uberのドライバーは、アルゴリズムが駆動するオンラインプラットフォームに従って仕事をする。同僚とランチを食べて冗談を言い合ったり、上司から指導を受けて成長したり、あるいはチームを率いて達成感を共有する機会もなく。このような仕事に、人はどうやって意味を見出すのか?今回の論文は、仕事の意味とAI(が支配する疑似組織としてのプラットフォーム)について掘下げています。 Cameron, L. D. (2022). “Making out” while driving: Relational and efficiency games in the gig economy. Organization Science, 33(1): 231-252. 要するにこの論文は : ギグエコノミーの労働者が、上司も同僚もいない自らの仕事にどう意味を見出すかを探索したエスノグラフィー実証研究。 ポイント : オンラインプラットフォームは、顧客とマッチングして仕事を割り振り、プロセスを管理し成果を評価する機能を持つ、伝統的な組織のマネジャーと同じ機能を果たす。 そうした伝統的な組織やマネジャーは、同僚たちと合わせ人間関係を作りふれあうことを通じて、従業員に対して働くことの意味を与えるきっかけを多く提供していた。 しかし、上司も同僚もいない、孤独にアルゴリズムと向き合うプラットフォームワーカーには、従来の組織のような機会は与えられない。では、どうやってギグエコノミーの労働者は、自らの仕事に意味を見出していくのか? これに対して、ライドシェアリング業界を対象に4年間の参与観察を行った。 結果として、次のことが明らかになった。 ライドシェアのドライバーたちは、二種類の「ゲーム」を行うことで仕事に意味を見出していた 関係性のゲーム(relational game):ドライバーは顧客と親しくなり、顧客にとってポジティブなサービス体験を演出する。それが上手くいったかどうか、後で顧客からの評価レーティングで確かめることで、意図の通りに高評価を得ることに成功したかに意味を見出す。 効率性のゲーム(efficiency game):ドライバーは出来るだけ速やかに仕事を済ませ、労力あたりの報酬を最大にすることに意味を見出す。顧客との関わりは最小限にとどめ、余計なことは一切しない。労力あたりの報酬を測ることはア...

フリーランサーはギグエコノミーでどう主導権を保つのか?

フリーランスとして仕事を請け負える、オンラインプラットフォームが増えています。プラットフォーム上では、アルゴリズムに従って働き手と依頼者がマッチングされ、独特のルールに従ってサービスの契約が成り立ちます。ギグエコノミーとも言われますが、この分野はAI関係の組織論で注目が集まる1つのトピックです。今回の論文は、そうしたギグエコノミー系論文です。 Cameron, L. D., & Rahman, H. (2022). Expanding the locus of resistance: Understanding the constitution of control and resistance in the gig economy. Organization Science, 33(1): 38-58. 要するにこの論文は : ギグエコノミーの労働者が、プラットフォームによる統制にどう抵抗するかを探索したエスノグラフィー実証研究。 ポイント : オンラインプラットフォームが様々な職業分野で台頭している。そこでは、労働者(フリーランサー)はアルゴリズムの指示とルールに従いながら、互いに競争して顧客をマッチングしてもらい、顧客の評価を高めようと必死に努力せざるを得ない。そのため、プラットフォームを通した仕事では、労働者がプラットフォームや顧客からの支配に抵抗したり、搾取を避けることが普通の雇用関係よりも難しくなっている。 しかし、言われるがままの搾取ではなく、労働者が時には抵抗し自分に合った仕事を形成することは重要である。 その実態を探るために、ライドシェアとフリーランスの仕事マッチング市場を題材に、189件のインタビューを含む3年間の参与観察を行った。 結果として、次のような反応が観察された。 プラットフォーム上の労働者は、抵抗を契約の段階に応じて使い分ける 仕事を受ける前は、フリーランサーは最も強気に抵抗戦術を使う。 具体的には、仕事を請け負っても評価を高くつけてくれなそう、または仕事自体がキツそう、これまでの働き手からの評価が低いなどの相手には、ぞんざいに対応しわざと断られるようにする。その意味で、自ら客を選ぶ。 理由は、この段階ではプラットフォームと直接やり取りしており、依頼者側は評価をすることが出来ず、フリーランサーの立場が強いためである。 仕事をや...

専門的な仕事にAIツールを導入したらどうなるか?

久しぶりに、Organization ScienceのAI特集号に戻って、論文サマリーを続けていきます。今回は、次の論文です。 Lebovitz, S., Lifshitz-Assaff, H., & Levina, N. (2022). To engage or not to engage with AI for critical judgements: How professionals deal with opacity when using AI for medical diagnosis. Organization Science, 33(1): 126-148. 要するにこの論文は: 病院でのAI診断ツール導入を題材に、専門職のAIツール活用の実像を探索した実証研究。 ポイント: AIに関して、それが人間が行うタスクを「自動化」するか「強化」するか、の二元論が議論となっている しかし、実態はそのように単純なものではない。AIは専門的な判断を提供するとしても、その根拠を提示しない「ブラックボックス問題」があるため、根拠が求められるような重要な仕事では、単純にAIの判断結果を使うことは出来ないためである。 本研究では、病院での放射線診断という文脈を題材に、専門職がAIツールを使う上でその不透明さにどのように対処し、AIを能力強化に活用出来るのかを検証した。 具体的には、米国病院での3つの部門(肺がん診断、乳がん診断、骨からの年齢推定)を題材に、500時間の観察と33件のインタビューを含むエスノグラフィーを行った。 結果として、次の発見があった。 放射線技師は、どのパターンでも、AIの診断が自分の判断と異なる場合に直面し、またAIの判定根拠が分からないためどう処理すれば良いか困る状況に直面した。 これに対して、どうAIツールを活用し、AIと協力して人間の能力を増幅できるかについて、「関与型の強化」と「非関与型の強化」の2つのパターンが存在した。 「関与型の強化(engaged augmentation)」では、専門職がAIの判定とその材料データ(画像)を厳密に再精査し、判定の根拠を推測し、自らの判断との違いを理解し、また自らの判定基準にそれを反映していく、AIによる知識と自らの専門知識を統合していく努力が見られた。 「非関与型の強化(unengaged...

AIは職業アイデンティティをどう変えるか?

 今年のAoM Annual meetingで、AI関係で目についたのが、アイデンティティを考える研究でした。AI関係の議論がマクロからミクロにシフトする中、ミクロ系の筆頭理論としてアイデンティティが注目されているようです。複数のセッションで、そうした研究発表を多く見ました。 新しい技術が普及すると、仕事で行う個々のタスクが少しずつ変わります。あるものは自動化されたり、あるものは精緻化されたり。すると必然的に、職業としてのトータルでの仕事内容も変わります。実態として日々やることが変わってくるので、結果として職業の存在意義も変わります。職業アイデンティティはそのような、ある職業について「私たちはどういう存在か」「どういう作業をするのか」という共通理解です。 職業アイデンティティは集団レベルと個人レベルと、階層で分かれます。集団レベルというのは、職業全体での理想。個人レベルとは、実際に職業人が日々の仕事の中で形成する自己認識です。しかし、往々にして理想と現実にはギャップがあります。そのため、現実に合わせて、集団レベルの理想を微妙に修正して自分を納得させる作用(アイデンティティワーク)が起こります。 新技術と職業アイデンティティについては面白い先行研究もあり、割と検討しやすい理論的視点だと思います。特に、AI導入という大きな変化が生まれたときに、どう自己認識を新しい現実に整合させるか、というアイデンティティワークは広く起こりえます。それに、AIで仕事の「意味」がどう変わるかという問いは、一般にも興味を持たれやすいでしょう。こうした観点で、有望分野として研究が多く登場しているようです。 多くの研究は、既存の職業でのアイデンティティワークを問題にしますが、データサイエンティストなど、新しく生まれた職業のアイデンティティも問題になります。(データサイエンティストが現場で奮闘する具体像を深掘りした研究も、増えてきている印象です)現状では、いろいろな職業についてエスノグラフィーを行って、そこでのアイデンティティワークを探索する研究が学会レベルで増えている状況です。これが一巡すると、それらの発見が何かアイデンティティの理論を根本的に変えるほどなのか、単に事例が増えるだけなのかがより明確になってくると思われます。

NWOW

 アメリカ経営学会の2022年次大会(Academy of Management, Annual meeting)が終わりました。先週に続いて、テクノロジー系で重要だと感じた議論をメモしておきます。 一つ面白いキーワードとして、「NWOW」(New Ways of Working)がフィーチャーされていました。NWOWとは、様々な技術やコロナの影響を受けて登場した「新しい働き方」のことです。これが、企業や職場に根本的な変化をもたらし、新しいスタンダードが今まさに形成されようとしているという考え方です。内容としては、テレワーク(在宅勤務)、自由な勤務時間、シェアデスク(オフィスでも固定席は無し)、コワーキングスペース多用、フラットで階層性の小さい関係、などが取り上げられています。 昨今は、普通の会社でもある程度こうした新しい慣習が広がっています。海外では、「大退職時代」ということもあり、企業がこの変化に対応していないと従業員がすぐ辞めてしまうので、変化は不可逆だという論調になっています。具体的には、 新時代のオフィスデザインが、新しい働き方の概念とどう相互に影響を与えていくか 新しい働き方は企業の組織アイデンティティをどう変えていくか 新しい働き方は、企業と従業員の間にどのような虚々実々の駆け引きを生むか などが研究例として取り上げられていました。 こうした「新しい何か」という議論は、過去からずっとその時代ごとに対象を変えて行われています。今新しいものも、いずれ当たり前になり古くなり、というサイクルがあり。その意味で、単に現象として新しいことだけを訴求するのは不毛なので、何か固有の側面がある現象だと、文脈を定義づけなければいけません。NWOWの場合は、固有性を求めるとその本質はリモート性に行き着くように思います。他の特徴は、普及の程度に違いはあれある程度実現されてきたことか、リモート性によって生まれる派生の話だと思いますので。

アメリカ経営学会でのAIまわりの議論

 ちょうど今、アメリカ経営学会の2022年次大会(Academy of Management, Annual meeting)がハイブリッドで開催されています。タイムリーなので、リモートで参加しているその学会の最新動向について、備忘録を残します。 デジタルやAI関係の話がどう展開していくかに注目して、AoMにはこの5年ほど連続して参加しています。まだ5日のうち2日目が終わった段階ですが、AI関係で特に印象的なのが二点ほどあります。 1.「Future of work」ブーム 昨年までは、「Algorithm」や「AI」がセッションのタイトルに多く使われていました。その趣旨は、最近のテクノロジーを扱うこと自体、あるいはそれが全く新しい理論的展開をもたらす可能性が強調されていたことだと思います。2018年頃は、「AIをトピックにした研究がやってくる、あるいはそれをやっている!」みたいな、素朴なブーム感がありました。 それが、今年は「Future of work」というキーワードにほぼ統一されています。とにかくこのタイトルがついたセッションが数多い。Covid-19が一段落して、誰もマスクをせずに参加するようになっていることもあり、ここから新しい未来へ、という空気感なのかも知れません。特にテクノロジーを特別に扱う系の研究でなくても、このキーワードが普及しているのが印象的です。 個人的な感想としては、「雇用がどうなるのか」的なマクロに見る議論や斬新な理論提案が当初注目を集めやすかったものの、ミクロに現場で実際に仕事がどう変わるのかを見据えよう、というモードにシフトしている印象です。そういう地道な観察研究を積み上げていくフェーズにある、すぐには画期的な理論にはならないが、という共通理解というか。米国のトップジャーナルがそちらに舵を切っていることもあり、少し前なら流行りものとしてデスクリジェクトされていた、そういう研究が増えてきていると思います。(一度スコープ外としてある種の論文をデスクリジェクトすると決めたのなら、世の中がどうなってもそれを貫くのがフェアであるとも思いますが) 2.アルゴリズムを使った研究手法の進展 もう一点非常に重要な現象として、AIを使って経営学研究の一部のステップを代替あるいは補強する動きが、具現化してきています。特に面白かったのが、自然言語処理...

デジタル時代の4つの組織パターン

今回、Organization Scienceの特集号ではないのですが、少し前の割と重要な議論かと思う論文を取り上げます。 Vergne, J. P. (2020) ‘Decentralized vs. Distributed Organization: Blockchain, Machine Learning and the Future of the Digital Platform’, Organization Theory, 1. 要するにこの論文は : AI・ブロックチェーンなどのデジタル技術が生み出す新たな組織形態の類型を整理した、理論論文。 ポイント : デジタル技術は新たな組織形態を生む。組織の形態は、データを知識に変換する役割を誰が担うかに応じて、二軸で整理できる。二軸とは、(コミュニケーションの)分散度✕(意思決定の)分権度である。 具体的には、現代の組織には以下の四類型がある: 1.集中・集権型:データ収集はメンバーが行うが、あとはリーダーが判断し意思決定する(例:コンサルティング会社のプロジェクトチーム) 2.集中・分権型:データ収集はメンバーが行い、データ処理と情報統合を中間マネジャーが行い、意思決定をリーダーが行う(従来型の会社組織) 3.分散・集権型:データ収集から処理、情報統合までメンバーが行い、それを束ねるリーダーが意思決定する(権限委譲の進んだチーム) 4.分権・分権型:全部メンバーが行う(いわゆるDAO) それぞれの類型には、次のような特徴がある: 1.集中・集権: 明確な目標達成に最適化されている 2.集中・分権:多少複雑な環境でも漸進的な成長が可能なことが強み、弱みはコミュニケーションエラーや情報の出し惜しみで低信頼組織となるリスク 3.分散・集権: ある程度明確な目標やパターンのあるタスクに対し創造性を発揮することに適した形態 4.分散・分散:未来の組織と言われるが、信頼が絶対的に必要となるため、それをどのように構築するかが重要 現在、プラットフォーマーが社会的公正を阻害するリスクが懸念されている。特定の有力企業の利害に左右されない、中立的オンラインプラットフォームの必要性は広く議論されており、DAOをその裏付けとする新たな可能性は重要な意味を持つ。 コメント : デジタル時代の組織形態の整理として分かりやすい論考です(但...