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アメリカ経営学会でのAIまわりの議論

 ちょうど今、アメリカ経営学会の2022年次大会(Academy of Management, Annual meeting)がハイブリッドで開催されています。タイムリーなので、リモートで参加しているその学会の最新動向について、備忘録を残します。

デジタルやAI関係の話がどう展開していくかに注目して、AoMにはこの5年ほど連続して参加しています。まだ5日のうち2日目が終わった段階ですが、AI関係で特に印象的なのが二点ほどあります。

1.「Future of work」ブーム

昨年までは、「Algorithm」や「AI」がセッションのタイトルに多く使われていました。その趣旨は、最近のテクノロジーを扱うこと自体、あるいはそれが全く新しい理論的展開をもたらす可能性が強調されていたことだと思います。2018年頃は、「AIをトピックにした研究がやってくる、あるいはそれをやっている!」みたいな、素朴なブーム感がありました。

それが、今年は「Future of work」というキーワードにほぼ統一されています。とにかくこのタイトルがついたセッションが数多い。Covid-19が一段落して、誰もマスクをせずに参加するようになっていることもあり、ここから新しい未来へ、という空気感なのかも知れません。特にテクノロジーを特別に扱う系の研究でなくても、このキーワードが普及しているのが印象的です。

個人的な感想としては、「雇用がどうなるのか」的なマクロに見る議論や斬新な理論提案が当初注目を集めやすかったものの、ミクロに現場で実際に仕事がどう変わるのかを見据えよう、というモードにシフトしている印象です。そういう地道な観察研究を積み上げていくフェーズにある、すぐには画期的な理論にはならないが、という共通理解というか。米国のトップジャーナルがそちらに舵を切っていることもあり、少し前なら流行りものとしてデスクリジェクトされていた、そういう研究が増えてきていると思います。(一度スコープ外としてある種の論文をデスクリジェクトすると決めたのなら、世の中がどうなってもそれを貫くのがフェアであるとも思いますが)

2.アルゴリズムを使った研究手法の進展

もう一点非常に重要な現象として、AIを使って経営学研究の一部のステップを代替あるいは補強する動きが、具現化してきています。特に面白かったのが、自然言語処理を使って文献レビューを補完するツールです。

特にシステマチックレビューなどを行う際に、数千から万を超える論文を精査し、先行研究の系譜や示唆を検討することがあります。文献サーチ(論文リストを出すこと)については、詳しい条件を入力すれば各種のデータベースが既にかなり網羅的かつカスタマイズした条件に合う論文を提示してくれます。そのデータの一括ダウンロードも可能ですし、Endnoteなどの文献ソフトでそれらの本文PDFのウェブ上からの自動収集も可能になっています。

しかし、それら厖大な論文の中から、読む価値のある重要なものを選別するのは大変です。もちろん全部本文を読むことは出来ず、タイトルやAbstractを見て簡易的に判断して重要なものを選別していくのですが、人間がこれをやるとそれだけで何ヶ月もかかる作業になっていました。これに対して、最近はAIでこの仕訳をやってくれるソリューションが複数登場している、という話です。

プレゼンされていたのは、研究者が自ら立ち上げたソリューションのようで、教師あり学習を行うことで文脈に合う仕訳をしてくれるというものでした。具体的には、まず対象論文リストのうち少数を、タイトルとAbstractだけ見てそれがそのレビューで関係あるものか・そうでないかを人間が判定入力します。そのデータをAIに学習させ、同じような判断をリスト全体に適用し、各論文が何%の確立で関係あるものかを評価し、確率が高い順に並べ替えして表示します。途中で教師データ(人間のサンプル判定)を何度でも入れて再学習できるので、人間とAIが交互に判定を続けながら、一緒に仕訳を行う感じです。一度AIが出した判定に対して、人間が再度Yes Noを入力もできるので、更新されるたびに精度が上がります。実務的には、そうして作ったデータで順位が高い順にサンプル確認していき、特に閾値に近い論文を確認して、例えば200本続けて人間もAIも「関係ない」評価で一致する程度まで人間が見たら、それ以上はAI判定を信じてカットするイメージです。例えば、人間が見る基準が中位50%程度までとなれば、作業量が半分位に劇的に減るということです。(残りの半分は、AIが人間の代わりにチェックして、判定を下したという形)

参加したセッションでは、この教師データ作りの作業をクラウドソーシングし合うことで、世界中の研究者や研究機関が一緒にメタデータを作っていくことが出来、それが研究のあり方を変えるという提言がなされていました。Patients like meモデルというか、経営学学術研究の未来はクラウドソーシングにあると私も漠然と思っていたのですが、アルゴリズムの進化という具体的な形でそうした提言が出てきたことが、画期的だと思います。

専門家による膨大な検証作業について、

  • AIがあたりをつけてみるべき点を絞ってくれる
  • しかしAIだけでは決して作業が完結せず、専門家+AIの共同体が作業者となる(ここから先は人が見なくてよい、とする判断の手がかりを出してくれる)
  • かつ、絞り込みの論理は一つのプロジェクトを超えて、メタに学習されることでより精度が高まっていく
というあたりは、経営学研究者の文献レビューだけでなく、会計監査の仕訳の精査や、弁護士の判例確認なども同じ。これが専門職にAIがもたらす一つの新しい力学なのかもしれません。

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