今年のAoM Annual meetingで、AI関係で目についたのが、アイデンティティを考える研究でした。AI関係の議論がマクロからミクロにシフトする中、ミクロ系の筆頭理論としてアイデンティティが注目されているようです。複数のセッションで、そうした研究発表を多く見ました。
新しい技術が普及すると、仕事で行う個々のタスクが少しずつ変わります。あるものは自動化されたり、あるものは精緻化されたり。すると必然的に、職業としてのトータルでの仕事内容も変わります。実態として日々やることが変わってくるので、結果として職業の存在意義も変わります。職業アイデンティティはそのような、ある職業について「私たちはどういう存在か」「どういう作業をするのか」という共通理解です。
職業アイデンティティは集団レベルと個人レベルと、階層で分かれます。集団レベルというのは、職業全体での理想。個人レベルとは、実際に職業人が日々の仕事の中で形成する自己認識です。しかし、往々にして理想と現実にはギャップがあります。そのため、現実に合わせて、集団レベルの理想を微妙に修正して自分を納得させる作用(アイデンティティワーク)が起こります。
新技術と職業アイデンティティについては面白い先行研究もあり、割と検討しやすい理論的視点だと思います。特に、AI導入という大きな変化が生まれたときに、どう自己認識を新しい現実に整合させるか、というアイデンティティワークは広く起こりえます。それに、AIで仕事の「意味」がどう変わるかという問いは、一般にも興味を持たれやすいでしょう。こうした観点で、有望分野として研究が多く登場しているようです。
多くの研究は、既存の職業でのアイデンティティワークを問題にしますが、データサイエンティストなど、新しく生まれた職業のアイデンティティも問題になります。(データサイエンティストが現場で奮闘する具体像を深掘りした研究も、増えてきている印象です)現状では、いろいろな職業についてエスノグラフィーを行って、そこでのアイデンティティワークを探索する研究が学会レベルで増えている状況です。これが一巡すると、それらの発見が何かアイデンティティの理論を根本的に変えるほどなのか、単に事例が増えるだけなのかがより明確になってくると思われます。
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