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AIのバイアスはどうすれば抑制できるのか?

アルゴリズムの処理結果をそのまま使おうとすると、結果が歪んでいることがあります。このようなバイアスにどう対処すべきか?ここでは、これを実験で検証した戦略論ジャーナルの論文を取り上げます。 Choudhury, P., Starr, E., & Agarwal, R. 2020. Machine learning and human capital complementarities: Experimental evidence on bias mitigation. Strategic Management Journal, 41(8): 1381-1411. 要するにこの論文は: データのゆがみから生まれるAIのバイアスをどう抑制できるかに関する、事例と実験での実証研究論文 ポイント: 特許審査は、申請データにゆがみがあり、その微妙な真贋の判定が必要なタスクである。 申請者は一般に、申請が認められやすいよう、言葉の工夫で新規性を誇張して主張する(ゆがんだ言語データを生成する)。 そのため、審査分析を単純に人工知能で機械化すると、文言に誘導され結果にバイアスがかかってしまう。 これに対し、米国MBA学生(221人)による実験(AIを活用した特許の模擬審査)を行った。結果として、特許対象の文脈に予備知識がある人間がAIを補助することで、AIはより妥当性の高い分析結果を抽出できるようになり、バイアスが抑制された。 コメント: AIの判断の質(バイアス)は、データの質に強く影響されます。現実にはゆがんだデータは多いため、AI活用の際には、バイアス除去のための対応が重要な準備となります。そのための一つの解決策は、綺麗なデータを使うこと(データクリーニング)ですが、それだけでは十分ではありません。もう一つの解決の方向性は、AI自体は不十分なものとして受け入れ、文脈知識ある人間がAIの補助を行う、相互補完の共同作業を設計することとなります。 この論文は、そのような、「人間とAIの共同作業で実際にバイアスが抑制できる」ことを示した点が、発見の中心となります。特許審査という、実際に存在する業務でこれを実証した点も画期的です。 アルゴリズムの処理結果を使う時に、一定の誤りやバイアスがあることを前提とすることは、非常に重要です。その際に重要なことが二つあります。 一つには、 誤...

AIの芸術や意思決定を、人間はどう評価するか?

AIによる芸術、というのも議論が活発化している領域ですが、今日の論文はそうした人工の成果物を人間がどう評価するか、というテーマです。 Jago, A. S. (2019) ‘Algorithms and Authenticity’, Academy of Management Discoveries, 5/1: 38-56.  要するにこの論文は: 同じ芸術作品や意思決定を、「AIが作った」と聞いたときに人間が感じる評価をオンライン実験で実証した研究論文 ポイント: 実際にはAIが作った芸術作品・意思決定について、「AIによるもの」と言われた場合と、「人間によるもの」と(うそを)言われた場合とで見た人の感想がどう違うか、4種のオンライン実験を行った。 結果は、次の通りとなった: 同じAIが創った芸術でも、「AIが創った」と知ると、「人間が創った」と聞かされた場合よりも、「本物らしさ」に関する評価が低くなった 。具体的には、moral authenticity(作者の意図を体現していると思うか)・type authenticity(その種別の作品らしさがあると思うか)の両面で作品評価が低かった。 同様に、 同じ意思決定でも、回答者が「AIの意思決定」と知らされると、「人間の意思決定」と言われるよりも、信憑性・倫理的妥当性の両面で評価が低かった 。 一方で、同じAIの芸術作品で「AIが創った」と知らされても、 「このAIは人間の専門家に訓練された」と聞かされると、信憑性の評価が高まった コメント: AIへの信頼性に関して、トップ学会(AOM)のジャーナルで最初に出てきた論文です。2019年公刊なので、厳密には2020年代の論文ではないのですが、最初のものとして取り上げています。 簡単に言えば、 AIにはスピードなど長所が多くても、それが「AIによる成果」と知ると、人間はその成果をネガティブに捉え低く評価することがある 、という結果になっています。要は、機械にそれをやられると、どうも信用できない、受け入れられない、と感じる領域が人間にはあるということです。例えば、電卓が最初に登場したときも、「本当にそれで合っているのか?」と信用できず算盤で検算する人がいた、という感じでしょう。 もちろん、こうした受け取り方は、何より対象とする分野によって大きく変わります。そのため...

どんな姿のAIなら信頼できるのか?

今日のAIに関する経営学論文は、AIに関してよく登場するテーマを扱ったレビューです。 Glikson, E. and Woolley, A. W. (2020)   ‘Human Trust in Artificial Intelligence: Review of Empirical Research’, Academy of Management Annals , 14/2: 627-660. 要するにこの論文は: AI に対して人間が感じる信頼に関する、過去の研究をレビューした。 ポイント: •         AI の形態には大きく 3 種類ある 1.       Robotic AI :人型・あるいはその他の形の物理的なロボット 2.       Virtual AI :チャットボットやアバターなど、バーチャルな姿 3.       Embedded AI :姿がなく、人間には直接見えない存在 •         これらの形態は、人間が AI に対して感じる信頼感に強い影響を与える •         具体的には、認知・感情の両面で、次の点が信頼感に影響する: 1.       Tangibility : AI が目に見える存在か? 2.       Transparency : AI の判断のあり方に透明性があるか? 3.       Reliability :繰り返し AI を使っても同じ対応を取ると信頼できるか? 4.       Task characteristics :作業の特性上、人間でないと不快・不安なものはあるか? 5. ...

AI時代の組織はどう学習するのか?

AIに関わる経営学論文、2本目です。今日の論文は、組織学習に関するものです。 今日の論文: Balasubramanian, N., Ye, Y. and Xu, M. (Forthcoming) ‘Substituting Human Decision-Making with Machine Learning: Implications for Organizational Learning’, Academy of Management Review. 要するにこの論文は: AIの学習と人間の学習がどう違い、その結果AIが浸透すると組織学習がどう変化するかを理論化した。 ポイント: 人間の学習・AIの学習にはそれぞれ長短がある。 人間の学習は、社会的な文脈を想像で補完することに強く、状況に応じて拡張性があり、予想外の事態に対して修正がききやすい。 AIの学習は、条件がそろえば人間を超える高い正答率を出すが、3つの弱点がある。弱点とは、①データに含まれるバイアスが増大してしまう、②過学習により歪んだ正解を出すことがある、③計算過程がブラックボックスなため説明が必要なプロセスには使えない、ことである。 組織として考えると、人間の意思決定をAIで代替していくことで、短期的には最適化が進む。その理由として、AI導入後に組織内で2つの変化が進むことがある。 変化①:AIを導入していくと、組織内の業務は画一化していく。これは、AI導入にはデータの形式・処理方法の統一化が不可欠なため。そうすると、人為的なミスや、定式に合わない属人的・非効率な作業方法が駆逐されていく。 変化②:AIを導入していくと、業務の裏で話し合われてきた背景知識は次第に省略される。無駄な情報で煩わされることがなくなる一方、必要とされる以外の余分な情報を知る人は減っていく。 結果として、AIによる人間の代替を進めていくと、組織には次のようなリスクがある。 リスク①:長期的なトレンドや長期的な結果を軽視してしまう。 リスク②:組織・人間の間の複雑な相互関係を軽視してしまう。 リスク③:極端なシナリオを排除してしまう。 コメント: 組織学習の観点で、AI導入が何をもたらすかを論じた、先駆的な理論論文です。組織は常に学習していくものであり、組織学習の質は成果に直結するとされています。しかし、AIによる人間の代替を...

自動化と強化のパラドックス

AI関係の経営学論文紹介の1本目です。正式な論文ではない(ブックレビュー)のですが、有名な考え方でもあるので紹介します。  <今日の論文> Raisch, S. and Krakowski, S. (2021), ‘Artificial intelligence and management: The automation-augmentation paradox’, Academy of Management Review, 46/1: 192–210. <簡単に言うと> AIは人の簡単な作業を代替し(自動化)、人はより高度な作業を受け持つようになる(強化)が、業務の強化は新たな自動化を生むので、そのサイクルは止まらない。 <ポイント> AIは業務の自動化と強化をもたらす。 これらは二律背反で、組織はどちらかを選ぶ必要があると考えられてきた。しかし、実際には両者は補完関係にある。具体的には、次の二つの作用で相互強化が進む。 第一に、長い時間軸で考えると、AIによる業務の強化は業務の自動化につながる。具体的には、AIを活用しより高度な業務に取り組むことで、新たな法則性や業務プロセスのパターンが発見される。またその解析に必要なデータを特定して蓄積することが可能になる。そのため、高度な業務に専念するほど、新たにさらに自動化出来る業務領域が見つかり、さらに高度な業務領域に人間はフォーカスしていくサイクルがある。 第二に、業務の幅を広く取ると、AIによる自動化は、自動化する業務の前工程と後工程で、AIによる業務の強化につながる。これは、自動化に必要なインプットを前工程で用意し、またAIが出したアウトプットを後工程で解釈して使う必要があるためである。それらの準備・AI利用の過程で、それら前後工程自体にも考えなければならない要素が増え、それが業務の強化につながる。 但し、AIによる完全な自動化は実現しない。なぜなら、4つの技術・社会的要因がボトルネックとなるためである。 目標設定:機械には、責任と表裏一体である目標設定が出来ない(そもそも「組織が何を目指すべきか」自体を機械に任せて良いとする合意が人間には出来ていない。 意思決定:機械には、ある決定が学習データ範囲を超えて組織・社会に広く及ぼす影響を推察する能力が限られている。 文脈化:機械は、訓練されたデータと異なる文...

再スタート

2017年から19年まで、慶應義塾大学SFC研究所での、AI社会論研究会というプロジェクトに参加していました。  AIが社会にどう浸透し、社会を変えていくか?   こうした問いを、ブームが始まっていた当時、学際的に議論していました。  このブログの19年までの過去記事は、当時の備忘録です。 そして3年が過ぎ、AIとデジタルはすっかり社会に定着しました。 経営学でも、当時予言した通り、AIを扱った論文が激増しています。 そこで、この4月から、2020年代に登場した AIを扱った経営学論文のポイントを毎週1本ずつまとめてアップ していこうと思います。 対象は、組織論を中心とした主要ジャーナル。  - Academy of Management Annals  - Academy of Management Review  - Academy of Management Discoveries  - Administrative Science Quarterly  - Organization Science  - Journal of Management Studies  - Organization Studies  - Organization Theory  (Academy of Management JournalはAI論文がほぼ無いので基本除外) など  AIの定義は論文によって違いますが、少し広めに取って見ていきます。   <背景:近年の動向>   結論から言うと、こんな感じで状況が進化してきたと見ています。  - 決定的な経営学革命のようなものは起こっていない  - しかし、 何が問題になるか、主な論点のかたまりは明確になってきた - さらに、AI特別視に否定的だったトップジャーナルも、態度を変えてきた ジャーナルで言うと、AI系の論文はノントップの少しずれた領域で圧倒的に増えています。具体的には:  - Technological Forecasting and Social Changeのような、技術自体を扱う論文誌  - Journal o...

AI実装に関する組織論の3つの論点:ミクロ/メゾを主に

アメリカ経営学会(AOM) の学術論文誌である Academy of Management Discoveries(AMD) 誌で、昨年12月に 「AIを研究すべき」とするコメンタリー が出ました。AMDは、従来型の論文誌でなく、萌芽的な定性研究を発信し経営研究を刺激する特殊な論文誌です。とはいえ、発行母体が世界の経営学の中心であり、そこがAIを正面から対象と認めたことは、一定のインパクトがあったと思います。 コメンタリーでは、意思決定論の視点を軸に AIの組織実装の重要論点 を抽出しています。 ここでは、それをサマリーすると共に、一部に私見を入れて整理してみます。 まず、 実装の流れには3つの段階がある 、とAMDのコメンタリーは整理します。第一に、 Task input (入力変数としてのデータ) 。テキスト・画像・生態情報など、どのようなデータをどのように取得するか。第二に、 task processes (アルゴリズム) 。入力データをどういう手法で機械が処理するか。そして第三に、 task outputs (solutions, decisions) 。機械が出した分析解に対して組織がどう反応するか、です。このうち前二者は、主にコンピュータサイエンスなどの分野が扱うもの。 経営学では最後の点(組織反応)が重要 と指摘しています。 AIが出す分析解に対して組織がどう反応するか 。コメンタリーは、論点を二つの視点で整理しています。一つには、個々の意思決定にAIをどう使うか。そしてもう一つには、個別の意思決定を越えて問題解決にAIがどう寄与するか。率直に言って原文は二者で論理的重複があると思われ、ここでは分かりやすくするため、これを再編した三点に整理しています。 1.意思決定にAIをどう使うか 意思決定にAIを使う際、避けて通れないのが AIへの権限委譲の問題 です。これは、20世紀からカーネギー学派で議論されてきた本流に近い議論。AIが解を出したとき、それをそのまま意思決定に使うなら、実質的にAIに決定権を委ねることになります。しかし、どうでもよいことを自動決定するだけなら便利で良いですが、「AIが決めたから」ではとても納得できない、深刻な結果を招く領域もあるでしょう。例えば、 コスト削減のために、AIが人員整理を決めてよいのでしょうか。人...