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デジタル時代の新しいプロフェッショナルとは

専門職とAIやデジタル技術との関係について、昨年末から重要な論文が立て続けに出版されています。今回は、その一つである北欧の弁護士の新しい姿を描いた研究をサマリーします。 Kronblad, C., & Jensen, S., H. (2023) ‘Being a professional is not the same as acting professionally’—How digital technologies have empowered the creation and enactment of a new professional role identity. Journal of Professions and Organization. 要するにこの論文は : 北欧で登場したデジタル技術をフル活用する新種の法律事務所群を題材に、法律プロフェッショナルとしての役割アイデンティティがどう変わったかを探索した定性研究論文。 ポイント : 弁護士業はデジタル技術の浸透を受けて大きく変化している。特に、近年はリーガルテックを活用した新しい種類の法律事務所が登場している。こうした弁護士は北欧や英国などで規制緩和の結果生まれたもので、法務サービスにデジタル技術を大胆に取り入れて価格破壊やビジネスモデル革新を起こし、営利型の法人特性を兼ね備え、またスタートアップ企業のような特性を兼ね備えている。 デジタル技術の活用は、顧客の体験を大きく変える。またそのためのスキルが必要となり、伝統的な法律知識だけでは十分でなくなる。これらは、確立された専門職としての弁護士の権威を損ないかねない。 そのような変化の中で、専門職は新しい種類の法律事務所でどのような仕事をし、自らのアイデンティティをどのように保つのか。本研究は、次のようなデータを収集し分析を行った: 33人のインタビュー(リーガルテック型弁護士事務所の創業者(弁護士)、および少数の非弁護士創業者と幹部層) リーガルテック関連のカンファレンスの観察 新種の法律事務所のオフィス観察 結果として、次のことが明らかになった: デジタル技術の実用は専門職の仕事の仕方を変えるだけでなく、それを通じてリーガルテックという新しい専門職のアイデンティティを別個に構築し、伝統的な専門職制度を揺るがすムーブメントになる 新しいリーガ...

デジタル技術がすべてではない?

昨今は何でもDXで、デジタル化がもてはやされています。しかし、後から出てきたデジタル技術が、古い技術を必ず淘汰するわけではありません。ここでの論文は、そうした技術の「後戻り」現象を取り上げたものです。 Nelson, A., Anthony, C., & Tripsas, M. (2023) “If I could turn back time”: Occupational dynamics, technology trajectories, and the reemergence of the analog music synthesizer. Administrative Science Quarterly, 68: 551-599. 要するにこの論文は : 新しい技術が次々登場し採用されていく中で、昔の技術が再び採用される現象がなぜ起こるのか、シンセサイザーを題材に探索した定性事例研究。 ポイント : 技術は常に新しいものへと進化し、さまざまな職業は次々に新しい技術を採用し続ける、という世界観が広がっている。 しかし、ある職業で古い技術が見直され、再び脚光を浴び普及することもある。このような現象はなぜ、どのように起こるのか。そして、職業と技術の関係を、一方向の進化という単純な世界観を超えて説明できるメカニズムとは何か。 本研究では、音楽家が使うシンセサイザーを事例として、このような現象のメカニズムを探索した。 シンセサイザーは1960~70年代の登場当初はアナログ的な操作だったが、1980年代からデジタル化による半自動化が進み、その後2000年代から再びアナログ回帰していった 過去40年分の専門誌(ミュージシャンインタビュー記事、商品広告)、過去50年分の商品カタログスペック、過去50年分のメーカー情報、業界カンファレンス5回の観察、インタビュー9件から定性的分析を行った 結果として、次のような発見があった: シンセサイザーは1960年代から登場し、ミュージシャンがアナログ的に入力を独自に工夫することでさまざまな音楽表現を可能にするものとして、普及した。 1980年代から本格的に登場したデジタルシンセサイザーは、ミュージシャンの目的である独自の創造的表現をさらに助けるものとして、どのようにサウンドが出来るのかが人間には分からないブラックボックスだったに...

監査に先端的技術を使う

さまざまな専門職の仕事にAIが適用され、その帰結や進み方を探索する研究は広く行われています。代表例として、弁護士や会計士の仕事があり、狭義の経営学だけでなく、法学や会計学で話題となることが増えています。ここでは、そうした会計学の論文の一つを取り上げます。 Kreiger, F., Drews, P., & Velte, P. (2021). Explaining the (non-) adoption of advanced data analytics in auditing: A process theory. International Journal of Accounting Information Systems, 41. Article 100511 要するにこの論文は : 監査法人が監査に先進的分析技術を導入する要因とプロセスを検証した事例研究論文。 ポイント : 昨今のAIやRPAなどの先進的分析技術(先端的分析技術、Advanced Data Analytics: ADA)の進化により、会計士などが行う監査業務にも、こうした技術が徐々に活用されるようになっている。 これまでの会計学研究では、主に次の点に関する研究が発展してきた: ADAの監査適用に関する研究における、監査にADAの適用を促進する要因や、適用後の帰結の検証 会計監査への技術導入全般に関する研究における、さまざまな変数間の関係の理論化 しかし、これにはそれぞれ次のような問題がある: 適用自体がどのように進むのか、その過程が無視されてきた 変数間の相関性に加えて、理論のもう一つの主要な形態である、プロセス(適用の意思決定やその後の進捗が具体的にどのような手順で進むのか)についての理論化が行われていない そこで、本研究はグラウンデッドセオリーの手法を用いて、ADAの監査適用のプロセスを深く探索した 監査法人(大手・中堅)・規制当局・ソフトウェアベンダー・内部監査サービス企業・会計士団体の計16名に対するインタビュー(ドイツ14、米国1、中国1) 結果として、次の発見があった: ADA適用を促進する要因として、次のものが特定された 内部要因(監査者の技術への受容性・技術に関する組織能力・組織の特性・組織の戦略的優先順位) 外的要因(技術要因(技術の特性)、環境要因(適用対象である監...

見えてしまう組織

デジタル技術の発展によって、情報に簡単にアクセス出来るようになり、他人の評価もデジタル情報に頼り、それに基づいて行動を変える。このような時代のトレンドは、組織にどのような変化をもたらすか。今回は、新しい時代の組織を駆動するメカニズムの理論化を目指した論文です。 Leonardi, P. M., & Treem, J., W. (2020). Behavioral visibility: A new paradigm for organization studies in the age of digitization, digitalization, and datafication. Organization Studies, 41: 1601-1625. 要するにこの論文は : デジタル化で組織構成員の行動が周囲から常に見られるようになることで、どのような新しい組織のメカニズムが生まれているかを説明した理論論文。 ポイント : 近年の技術革新は、電子化・デジタル化・データ化の3つの潮流(3C)を組織にもたらしている: 電子化(Digitization):行動や行動の証が電子データになる デジタル化(Digitalization):社会的生活がデジタル技術を通じて、またその周辺で組織化される データ化(Datafication):活動・行動・プロセスが、意味を持ったデータとなってそれ自体が組織を動かす これら3Cがもたらす最も深遠な変化は、行為の可視化(Behavioral visibility)が強まることである。これは、人・集団や機器の行ったことがあらゆるポイントでデータ化され、行為の直接の相手でない第三者にも簡単に見えるように共有され、その結果としてそれらのパターンや結果・動機が勝手に推定されていく社会物質的な動きである。 行為の可視化が強まるためには、3つの条件となるメカニズムがある。それは、自己主張(Self-presentation)、集合としての定量化(Aggregate quantification)、アルゴリズムによる秩序化(Algorithmic ordering)である。 自己主張(Self-presentation):人や組織は自らの行為のある部分を声高に主張したり、見つかりやすくすることで、より他者から見えやすい状態を作る 集合と...

仕事のフィードバックをAIがしたらどうなるか

AIにコーチングを受けることで、仕事のパフォーマンスを上げる。そのような世界が簡単にくるのか?子供の勉強も、アルゴリズムを使って誤答に合わせ次の出題を調整したり最適なアドバイスを表示するような工夫が進んでいますが、仕事でもそうなのか。今回は、こうした問いを扱う実験です。 Tong, S., Jia, N., Luo, X., & Fang, Z. (2023). The Janus face of artificial intelligence feedback: Deployment versus disclosure effects on employee performance. Strategic Management Journal.  一言で言うとこの論文は : AIが仕事のフィードバックをすると、フィードバックの内容の質が上がる効果と、AIからのフィードバックと聞いて受け手の生産性が下がる効果が、どう相互作用するかを実験で検証した実証研究論文。 ポイント : AIを使って仕事のフィードバックをすることが可能になってきているが、これは大きな議論を読んでいる。なぜなら、そこにはトレードオフがあるためである。 一方では、AIはポジティブな「導入効果」があり、より良質なフィードバックを提供し従業員の生産性を高めることが出来る。 AIはより多くのデータを正確に分析するため、個々の従業員のパフォーマンスをより正確に評価できる。 さらにAIは個々の従業員によりカスタマイズしたフィードバックを提供できる。 他方では、AIはネガティブな「開示効果」があり、従業員の生産性を下げる効果がある。 AIのフィードバックであることを受け手が知ると、AIへの信頼性への疑問が生じる さらに、職を奪われるリスクの感覚からネガティブな認識が生まれる この二つの効果が両方働くとき、AI導入の効果はどうあるのか。本研究では、実際の職場での実験によって検証を行った。 アジアの大手金融サービス会社の、債権回収コール業務 265人の正社員に、ランダムにAIによるフィードバックと人間によるフィードバックを割り当て、さらにランダムにそれがAIによるフィードバックと通知する例と、人間によるフィードバックと通知する例を割り当てた。 一日に100件の債権回収コールを行い、ランダムに5つのコー...

AI時代の競争優位とは何か

戦略論では、競争優位とは何かを主眼の一つとしています。AIの台頭で競争優位の内容や意味がどう変わるのか。今回の論文は、こうした重要テーマをゲーム(チェス)のデータで実証した研究です。 Krakowski, S., Luger, J., & Raisch, S. (2022) Artificial intelligence and the changing sources of competitive advantage. Strategic Management Journal. 要するにこの論文は : AIが人間の能力をどう代替しまた拡張するかを、AIを利用したチェスのデータで検証した実証研究論文。 ポイント : 人間の認知能力は、不均一に分布し、供給が限られ、模倣が困難であるため、重要な競争優位性の源泉とされてきた。しかし、AIは限界再生産コストがゼロに近く、模倣の障壁もほとんどない。そして、AIは、人間の認知能力を代替するだけでなく同時に補完する潜在力を持つ。 本研究では、このようなAIがどのように人の認知能力を代替・補完し、競争優位の源泉にどう影響を与えるのかを検討する。 具体的には、AIと人間が混在して行われたチェストーナメントの対戦データを題材に、統計的分析を行った。 2000~17年、112人が参加した3,181のトーナメント 人間だけ、AIと人間のチーム、AI単体、の三種のプレイヤーが対戦 その結果、次のことが明らかになった。 まず、チェスエンジン(AI)が競技に参加することで、人間のチェスプレイ能力とチェスの成績の間にあった正の相関が損なわれた。つまり、AIを使ったチェスでは、チェスの能力が高い人間が統計的に多く勝ちを収めることがなくなった。これは、AIが人間のチェス能力を代替して無力化させたことを意味する。 第二に、AIだけで参戦する場合と人間がAIとチームを組んでプレイする場合の両方で、AIエンジンを人間が選択、調整、制御することで、そこに補完関係が現れる。このような人間の能力による機械の補完は、新たな持続的な性能差を生み出す。しかし、その補完能力は、人間の従来のチェスプレイ能力とは無関係であるか、あるいは否定的な関係さえある新しい能力である。 これらを通じて、従来のAIによる代替(競争優位の破壊)と補完(競争優位の創造)という二者択一...

生成AIは何を変えるのか

昨今話題となっているのは、なんと言ってもChatGPTなどの生成AIです。今回は、生成AIをどう経営学で扱うか、どういう論点があるかを簡単に提示した最近のエッセイです。 Berg, J, Raj, M., & Seamans, R. (2023) Capturing value from artificial intelligence. Academy of Management Discoveries.  一言で言うとこの論文は : 生成AIの台頭を受けて、関連する研究テーマの重要性を提唱したエッセイ。 ポイント : 2022年11月に本格リリースされたChatGPTを筆頭に、生成AIがきわめて速いペースで浸透し、社会的な話題となっている。これは、AI技術が既に出来上がった決まった形のものではなく、次々に進化していくことを示している。 このようなAIの進化は、経営学研究に対してどのような新しい問いを投げかけるのか。 AIは、これまで主流だったある特定のデータ範囲で最適解や予測を出すものから、新たなデータを生成するAIに進化した。これらに二種は根本的に異なる可能性がある。 ここでは、AIと補完的資産という観点から、特に重要な2点を挙げる。 補完的資産とは、技術を活用するために必要となる資産である AIに限らず歴史的に、汎用技術(General purpose technology)は、補完的資産を持つ組織だけがその価値を利用することができた 1.異なるタイプのAIでは補完的資産も異なるか? 従来型の閉じたAIはデータサイエンスのスキルなどが重要となっていたが、生成AIでは誰でも使えるインターフェースとなっており、必ずしもそれがあてはまらない。 実際に、最新の研究では生成AIにより影響を最も受けるのは、従来型のAIで強く影響を受ける職業・産業とは違うものであるとされる。具体的には、テレマーケターやさまざまな教師が影響を受ける職業の上位とされる。 これは、AIのタイプが違えば必要な補完的資産も異なることを暗示しており、従来型で重要なデータサイエンスに代わって、生成AIの場合はどのようにAIを使うか、使い方の創造性が重要な補完的資産となるかもしれない。 2.組織はAI技術の進化をどうマネジメントするか? AI技術から価値を得るには、補完的資産を持つしかない...