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デジタル化による変化の本質

Organization Science特集号について、巻頭言に少し理論的な提言が出ているので、ここではそれをまとめて考察してみます。 Bailey, D. E., Faraj, S., Hinds, P. J., Leonardi, P. M., & von Krogh, G. (2022). We are all theorists of technology now: A relational perspective on emerging technology and organizing. Organization Science, 33(1): 1-18. 要するにこの論文は : デジタル特集号の巻頭言。ただし、一つの理論的視点を提唱した理論論文としての部分も有。 ポイント : 本誌がデジタル特集号を企画した背景には、デジタルをはじめとする新技術が、組織化プロセスの中心となりかつその触媒となる役割を果たすようになったことがある。 社会のあらゆる所で生まれるデータが技術によって常時活用されるようになり、あらゆるものがデータ源になりつつある。この変化の本質は、人同士や人とものとの関わり方が、常に生まれるデータによって生まれ変わり続けることにある。 組織論や組織化にとって、この変化は3つの点で重要である。 第一に、新技術は、データを糧に自己学習し進化することを通じて、人の認知や行動を将来的に大きく代替する可能性がある。 第二に、新技術は組織が個人や他の集団の行動をトラッキングしモニタリングすることを容易にする。これは、監視社会につながる。 第三に、新技術は組織の枠を超えた新しい形の連携やイノベーションを可能にする このような変化の中では、技術を固定的な存在ととらえてその影響を分析するのではなく、技術の本質を常に進化し続ける関係性とその変化としてとらえる、「関係性の視点(relational view)」が有用である。 ある技術がある人の認識や行動を変化させると、その人と他の人や技術との関係性が変わる。これが滝のように関係性をさまざまな側面で変化させていく。このような視点が関係性を重視した視点である。 コメント : アメリカでの組織論を主導するジャーナルで、今後の研究の方向性を提唱した論考になると思います。特に、「AIが登場したから組織がどう変化したか」...

データと組織の脱集権化

今回の論文は、データの重要性を提唱した理論論文です。 Alaimo, C., & Kallinikos, J. (2022). Organizations decentered: Data objects, technology and knowledge. Organization Science, 33(1): 19-37. 要するにこの論文は : デジタル時代のデータ・知識・組織の新しい関係性を提唱した理論論文。 ポイント : デジタル化の進展に伴い、あらゆる所から厖大なデータを集め解析し、それを活用して新たな技術やソリューションが生まれる時代が到来している。 このようなデータ主導の状況は、組織や社会環境にどのような影響を与え、新しい組織化のパターンや経営手法を普及させるのか? これを理解するための前提として、次のような新しい変化が起こっている: データは既に単なる素材ではなく、それ自体が重要な資源であり手段となっている。なぜなら、データはアルゴリズムにとって触覚器であるため。 データは文化を記録する媒体となっている。文化は人の集合幻想ではなく、実体をもった記録として存在するようになっている。 このような普遍性を持つデータが社会の構成要素の隅々に浸透することで、さまざまな知識を産み活用する伝統的な専門分野の壁を溶かし、組織の「内」と「外」の壁が重要性を失う。これが、現在進行している組織の脱集権化である。 コメント : 重要なテーマを扱った論文です。データ自体が、このアルゴリズム時代には単なる材料ではなく、特別な重要性を持って、それを軸に組織化が起こる。その重要性を提起している点で、的を射た論考だと思います。 感想レベルですが、かなり煩雑な文章のため読み手に対する間口が狭くなっている感じもします。またメッセージが大レベル以外は散文的(明確なプロポジションなども明示はされない)なこともあり、非常に精緻に論じている割に、印象として全体が常識的な感じも出てきます。趣旨としては、まず理論的な言語で現象を整理して、今後の研究への下地を作るという目的なのだとは思いますが。

デジタル革命の未来とは

マクロレベルで、デジタル革命の行く末を考えると、どのような未来が考えられるのか。今日の論文は、少し通常の論文とは違う角度の、Organization Science特集号論文です。 Bodrozic, Z., & Adler, P. S. (2022). Alternative futures for digital transformation. Organization Science, 33(1): 105-125. 要するにこの論文は : デジタル革命が社会にもたらす帰結を、4つのシナリオに整理して提唱した理論論文 ポイント : シュンペーターの技術革新による経済モデルの変化の議論に従えば、人類社会は、これまで技術革新に応じて5つの革命的変化を経験してきた。 産業革命 蒸気機関と鉄道による革命 鉄鋼と電気による革命 自動車と石油による革命 コンピューターとデータによる革命(情報化革命) これらの革命的変化は、それぞれが次の時代の革命的変化の布石となった。さらに、戦前の科学的経営と工場モデル、戦後の戦略と構造モデル、その更新となる品質マネジメントなど、その変化に応じた新しい経営組織パラダイムを生み出してきた。 デジタル革命は、この中で5つめの情報化革命における最後の総仕上げ段階ととらえることが出来る。現在社会を大きく変えつつあるが将来が不透明なデジタル革命も、大きく2つの変数軸がどう変化していくかでその未来を想定することが出来る。 ビジネス組織の側面 政策・政治の側面 ビジネス組織の側面では、有力な企業群がビジネスプロセスモデル(Business process model)を取るか、コミュニティ・協力型モデル(Community-collaboration model)を取るかの幅がある。 ビジネスプロセスモデルとは、企業内外のプロセスを合理化することで、企業としての利益の最大化と価値の獲得を目指す志向性である。デジタルの文脈では、新技術によりさらなる合理化を目指し、労働を自動化し、支配的な地位を目指す。 コミュニティ・協力型モデルとは、社会の紐帯を再生し、共通の目的に向けて協力を目指す志向性である。デジタルの文脈では、新しい組織課題に対して新たなバランスを探索し、技術で人の労働を支援し、社外と力を分かち合い共通の基盤構築を目指す。 政策・政治の側面...

新技術が革新的な変化を生むための条件とは?

久しぶりに、AI系の論文のサマリーに戻ります。今回も、これまでの続きでOrganization Scienceの特集号からの論文です。 Pentland, B. Y., Yongjin Yoo, Reker, J. & Kim, I. (2022). From lock-in to transformation: A path-centric theory of emerging technology and organizing. Organization Science, 33(1): 194-211. 要するにこの論文は : 新技術がどういう条件なら革新的な変化を生むか、を理論化しシミュレーションした論文。 ポイント : 新技術の登場で、組織や社会に革新的な変化が起こることは広く認知されている。しかし、全ての技術にそれがあてはまるわけではない。新技術にも革新的な変化を起こすものと起こさないものがある。 その違いはどこからくるのか?どういう条件なら、新技術が革新的な変化を起こすのか? これを考えるため、仮説的な理論を構築しコンピュータシミュレーションで検証した。理論とは、次の通りである: 技術には、その使い方から定まる様々な「経路(path)」がある。 組織や個人などのアクターは、彼らにとって「選択可能な経路の集合(space of possible paths)」から、どう技術を使うかを決め、「実践(performing)」を通じて「現実の技術利用(actual performances)」を形作る。 「現実の技術利用」は、「パターン化(patterning)」を通じて、その後の「選択可能な経路の集合」にフィードバックされ、これを拡大したり制約したりする。 こうした「実践」と「パターン化」を通じて、「選択可能な経路の集合」が移り変わる。そこには3つの状態があり、これらが新技術を通じて革新的な変化が起こる/起こらない状態を指す。 Lock-in:集合が技術利用を通じても変化しない Drift:集合が漸進的に移行しわずかに変化する Transformation:集合が大きく革新的に変化する 新技術の結果がこの3つのどれになるかは、その技術に関わる「厳密性(stringency)」「柔軟性(flexibility)」によって決まる。(これらは技術自体だけでな...

組織学会の議論

この週末は、組織学会の年次大会(於武蔵大学)に参加しました。学会としても久しぶりの対面開催で、日本でも人が集まって学会をやる感覚が少し懐かしい大会でした。大会の運営もスムーズで、興味深いセッションをいくつか聞くことも出来ました。 特に面白かったものの一つが、初日の実務家を呼んだセッション。世界で5億部以上と大ヒットした少年マンガ「キャプテン翼」の担当編集者だった方と、同作品の版権管理をされている方による、成功物語と貴重な裏話がたくさんうかがえました。設定いただいた主催者の方に、感謝したいと思います。 トピック自体が、子供の頃夢中で読んだマンガの裏話でそもそも大変面白い。それと同時に、クリエイティビティのマネジメントとして、ヒントが沢山あるお話でした。「キャプテン翼」が掲載されていた少年ジャンプは、なぜ後発から大成功できたのか。きちんとした事例研究に出来たらまさに世界に通用する研究になりそうな印象でした。勿論、「キャプテン翼」自体の創作上の工夫のお話も、大変印象的なものでした。 同時に、AIに絡めて言うと、マンガ市場もテクノロジーとアルゴリズムで変化していると理解しています(セッションでは話題にならなかったですが)。モバイルに特化したフォーマットを磨いて、Netflixなどと同様に、レコメンドエンジンの質とクリエーターエコシステムの構築で高い評価を得つつある中国企業などが登場しています。売上など正確には把握していませんが、中国などの人口規模を考えると、日本の出版社群を凌駕しても不思議はなさそうです。こういった、読者の反応データをコンテンツやUXに迅速に反映する新興企業に、旧来からのクリエイティブ産業はどう立ち向かうのか、という論点は普遍的だと思います。 一方で、少年ジャンプの成功の秘訣の一つも、実は読者アンケート主義ということで、ある意味では読者の反応データの反映だったようです。しかし、プロセスがアナログ(紙のハガキと手集計、それに基づく多少定性的な人間の判断)だったこともあり、完全にデータが支配して決めていたわけでもない。そうした、顧客データ主義によるデジタルな判断と、個々の作家の個性を生かしたアナログな実験の許容という、バランス感の取れた状態が、もしかしたらマンガに限らず現代でも重要なのではないかと感じました。

戦略論と実務家

SMSのAnnual meetingでは、実務家を交えたパネルディスカッションのセッションが2つほどありました。それを聞いていて、気付いたことが一つ。研究者と実務家、それぞれの違いです。 実務家としては、2つのセッションとも著名なコンサルティング会社の出身者が登壇して、AIがもたらすビジネスの変化について意見を出していました。様々な切り口に質問や話題がどんどん動く中、「それはそうだろうな」という適切な意見を絶やさず出し続ける、知的で柔軟な話術が印象的でした。 一方で、内容面では印象に残る点や新しい発見が無かったように思います。発言がどれも卒なく隙がない(批判したり突っ込んだりしにくい)のですが、同時にリスクを取った大胆さや個人的な思い入れもなく、平坦に聞こえるというか。また守秘義務もあるでしょうから、具体的なクライアント事例の話も出来ない。そうするとAIの話題だと特に、どこかで聞いた話を整然とつないでいる感じになるなと思いました。 なぜだろうかと考えると、やはり学会という文脈の影響も大きいと想像します。特定の企業クライアントの経営幹部が聞き手であれば、彼らにとって耳が痛い具体的な課題とその解決の方向性を散りばめる。あるいは多くの企業が聞き手であれば、彼らの問題意識を刺激するような共通課題や処方箋の切り口を提示して刺激する。目的は営業なわけですから、ゴールに至る「言っておくべきこと」も明確になります。 一方で、聞き手が研究者(客ではなく予算も無い)だと、条件が全く違います。普通のビジネスパーソンに刺さるような現実のビジネス課題を提示しても、率直なところ研究者は全然違う世界に生きているので、全く危機意識も刺激されません。そもそも研究者の相手をしてもコンサルタント等にとって直接には一文にもなりません。そうすると、実務家側も、整理された一般論を述べて失敗リスクなく講演し、「一流学会でも講演を求められるエキスパートである」というブランディングに活用するのが目的になる、という感じでしょうか。 これが逆に研究者がする講演だと、本人が手がけた具体的な研究(あるいは自分の専門領域の最近の動向など)を土台にした話が中心になることが多いと思います。それはそれで、視野が狭い話になったり、現実的な示唆がない話になることが多いと思います。しかし研究者としては、そういう狭くて深い話から、自分の研...

SMSでのAI議論

 現在、Strategic Management Society(SMS)での学会発表でロンドンに来ています。ちょうどイギリス国葬と日程がかぶってしまった年次大会ですが、学会としては盛況で滞りなく行われています。ロンドンの町も、意外と普通に生活しています。 今回は戦略論の学会なので、AIについて戦略論でどう議論が行われているかを観察しています。AIの関連セッションは、結構多くあります。応募論文による報告もあり、また主催側の設定した著名研究者によるセッションもあり。いずれも満席かつ立ち見の参加者もかなりいる状態です。戦略論においても、AIや革新的技術に対する関心の高さがうかがえます。 ここでのAI関係の議論は、大きく二つの側面があります。 第一に、戦略自体の変化。AIの浸透によって、企業を中心とする組織が意思決定し形成する競争戦略がどう変わるか。 第二に、AIによる戦略研究の変化。AIの浸透によって、戦略研究の手法がどう変わるかです。いずれもAIによって新しい事象が発見されることは同じなのですが、両者で焦点が異なっています。 最も人が集まって立ち見が大量に出ていたのが、後者の研究手法に関するセッションでした。要は、アルゴリズムを使った分析で経営学(戦略論)のトップジャーナルに論文がアクセプトされるようになってきたので、自分もやりたい人たちが多く集まっている感じです。画像認識アルゴリズムによる画像データの解析、大量のテキストの傾向を解析するトピックモデリングなど。AIが研究手法のスタンダード(論文の査読基準)を大きく変えてしまう前に、自分がフロントランナーの側に立とうという考えかと思います。こうして研究手法自体が革新されることで、今まででは処理できなかったデータや発見できなかったメカニズムに対処することができる。そうすれば、分析対象の現象がAI時代以前のものであっても以後のものであっても、新しい発見があるはず、という考え方です。 一方で、前者の戦略自体の変化については、あまり明確な結論がない印象を強く受けました。明確にそう議論されていたのですが、「結局AIが浸透することで、企業などが行う意思決定の傾向や結果が変わるのか」という問いに対して、研究が進んでいないということです。厳密にいうと、AIの浸透により、 企業組織の戦略策定の意思決定プロセスがどう変わるか その...