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ギグエコノミーで苦闘するフリーランサーの内心

オンラインプラットフォームで生計を立てていく。そのようなフリーランサーが増えていますが、これは特定の企業に雇われて働くのとは大きく環境が違います。今回の論文は、そのような新しいタイプのフリーランサーのアイデンティティ(自らが何者であるか、の自己認識)をめぐる研究です。

Petriglieri, G., Ashford, S. J., & Wrzesniewski, A. (2019). Agony and ecstasy in the gig economy: Cultivating holding environments for precarious and personalized work identities. Administrative Science Quarterly, 64(1): 124-170.

要するにこの論文は:

特定の組織や専門職に属さずオンラインプラットフォームで仕事をするフリーランサーが、どのようなアイデンティティを持つかを探索した実証研究論文。

ポイント:

  • 人は仕事でストレスや変化にみまわれる。逆境の中で人は自らのアイデンティティを守り、傷ついたそれを修復し、あるいは時にあきらめたりする。このようなアイデンティティへの働きかけ(Identity work)は、多くの研究者の関心を集めてきた。
  • これまでの研究は、伝統的な組織で雇われる労働者や、特定の専門職に属する人々を前提としてきた。そこでは、組織や職業が求める役割やそこでの人との関係性に対して、働き手がどのようにそれらと自分の信じるものとの折り合いをつけるかが問題となってきた。
  • しかし、技術の発展に伴い、特定の組織や専門職に属さないフリーランサーが増え、彼らの多くが拡大を続けるギグエコノミーのオンラインプラットフォームで仕事を完結させる。このような働き手は、自由でもあるが拠り所とする規範を持たない、全く新しいタイプの働き手である。彼らギグエコノミーのフリーランサーは、仕事を通じてどのような意味を見出し、どのようなアイデンティティを持つのだろうか。
  • 本研究では、米国のギグエコノミーフリーランサー65人を対象とした半構造化インタビューにより、彼らがどのようなアイデンティティを持ち、それをどのように保つのかを探索した。
    • 男女は約半々(男性30人・女性35人)
    • 年齢は幅広く27-74歳(中間値46歳)
    • フリーランサー歴は2年未満から20年以上まで幅広く
    • 具体的な担当タスクは多様なもの
  • 結果として、以下が明らかになった
    • アンカーとなる組織を持たないため、フリーランサーたちの仕事におけるアイデンティティは不安定で、かつ個々に最適化され互いの共通性が低いものとなっている
    • 彼らは孤独と自由の中で自由市場での容赦ない競争にさらされ、アイデンティティの型を持たないが故に自らが何者なのかを能動的に作り上げていく存在である
    • そのような空白に置かれた状態は、激しく時に互いに矛盾する感情を生み、フリーランサーたちは仕事を通じてそれに対処し自らを確立する
  • このような現象は、理論的には、次のような示唆がある:
    1. アイデンティティへの働きかけ(Identity work)に関する研究に対して、組織などの拠り所のない働き手も、アイデンティティを築きむしろ積極的に働きかけることを提示する。さらに、感情がIdentity workで重要な役割を果たすことを示す。
    2. 拠り所となる環境(holding environment)の重要性を示し、アイデンティティへの働きかけ(Identity work)におけるその特異な役割を示す。
    3. いまだ研究が進んでいない、ギグエコノミーのフリーランサーの実態解明に貢献する。

コメント:

今回の論文は、オンラインプラットフォーム(ギグエコノミー)系研究で、比較的早い時期にトップジャーナルに出たものです。この時期(2019年頃)を皮切りに、このブログでも以前にも取り上げたような同種の研究が連続的に登場してきています。研究としては、当時あまり研究されていなかった現象を丁寧に探索的研究対象としており、後の研究の橋頭堡となるような位置づけの模範例だと思います。

ただ内容的には、二点気になる点もあります。

第一に、多様な職種・属性のフリーランサーが混在したまま一つの対象として議論しているので、本来は何らかのセグメント毎の傾向があるのではないかと気になります。特に、プラットフォーム上で仕事が成功している層(ハイパフォーマー)とそうでない層の違い、プラットフォーム上の仕事に対する依存度合い(プラットフォーム外からどの程度収入を得ているか)による違い、などは他の研究でも既に反応が異なると指摘されています。

第二に、この研究はオンラインプラットフォームを題材にしていますが、オンラインではないフリーランサーは昔から存在しています。そういう伝統的フリーランサーとの違いが浮き彫りになると、プラットフォーム(ギグエコノミー)がもたらしている変化がより明確になったと思います。この点は、プラットフォームが持つ機械による評価や組織化という新しいメカニズムを主眼として、それへのフリーランサーの反応や帰結を深掘りした、他のプラットフォーム系研究の方が価値が高いと感じます。

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