スキップしてメイン コンテンツに移動

投稿

AIはヒトの創造性を高めるのか

仕事にAIを使えば、無駄な作業は自動化され、人間はより創造的で面白いタスクに集中出来る。AIの楽観論は、よくこのような見方を取ります。しかし、それは本当なのか?今回は、これを企業の現場での実験とインタビューで深掘りした論文です。 Jia, N., Luo, X., Fang, Z., & Liao, C. (Forthcoming). When and how artificial intelligence augments employee creativity. Academy of Management Journal. 要するにこの論文は : AIが従業員の創造性と成果にどう影響を与えるか、実験と定性データ分析(インタビュー)で検証した実証研究論文。 ポイント : AIの導入は、人間の従業員の創造性を高めるのか?「AIを使いこなすことで、人間の能力は強化される」と言われているが、それは本当なのか? 実務界では、こうした問いが技術変化への対応戦略上も人事マネジメントの点でも、重要性を増している。 本研究は、まだ解明が進まないAIのこうした実態について、AIと人間が実際に協働して創造的な仕事にあたる現場のデータから解き明かす。 具体的には、テレマーケティング会社のコールセンターで電話をかけクレジットカードを消費者に契約させる仕事の現場を題材とし、以下のデータを取り検証した: 40人のスタッフがAIボットの支援を受けて作業し、AIボット無しで通話するスタッフとの比較データを、3144人の消費者(電話コール)について収集した。通話を録音し音声認識で自動分析して、消費者からの質問がスタッフの事前知識の範囲にあるものかないものか(創造的な対応が求められたか)、それに効果的に回答できたかを判定した。さらに消費者が結果としてカードを申し込んだかも確認された。 実験に参加したスタッフ28人に半構造化インタビューを行い、どのような要因が作用していたかを探索した。 結果として、以下の結果が明らかになった: 実験 AIを使ったスタッフは、使わないスタッフよりも想定外の質問に2.33倍の確率で効果的に回答した しかし、その効果は優秀な成績トップ層に顕著であり、ボトム層と比べトップ層では2.81倍の増幅効果があった さらに、想定外の質問に効果的に答えることが契約につながる確実性...

オンラインプラットフォーム上の力関係

プラットフォーム上で仕事をする個人事業主や商店は増えています。リアルで普通に業務委託や雇用関係を結んで仕事をするのと比べて、プラットフォームではどのような違いがあるのか?近年増えている、プラットフォーム系論文の一つを取り上げます。 Curchod, C., Patriotta, G., Cohen, L., & Neysen, N. (2020). Working for an algorithm: Power asymmetries and agency in online work settings. Administrative Science Quarterly, 65(3): 644-676. 要するにこの論文は : オンラインプラットフォーム上で、事業者がどのようなパワー関係(影響力)を受け、それに対してどのように対処するかを検討した事例研究論文。 ポイント : 近年は、オンラインプラットフォームの台頭が著しい。そこで事業を行うフリーランサーや事業者は、仕事の評価やパワー関係について、従来の組織とは違う環境で仕事をする。このような新しい常識がどのようなものか、重要だが解明が進んでいない。 そこで本研究は、事例研究によりオンラインプラットフォーム上でのパワー関係の実態とそれにたいする事業者の対処のあり方を探索した。 eBay上で事業を行うフランス・ベルギーの販売事業者(売り手)の内、顧客からの評価で95%以上ポジティブな評価を得ている77人にインタビューした。 結果として、オンライン上の顧客からの評価は事業者にとって不確実性と支配された感覚につながり、それに対して自律性を保つために様々な対処策を打つようになることが判明した。具体的には、次のことが明らかになった。 オンライン上の顧客からの評価は新種の従業員モニタリングのような効果を生む。顧客は匿名だが事業者は誰からも評価が分かる形になる非対称性があり、また顧客とプラットフォーム運営主は協力してその評価システムを維持させる形になるためである。 評価結果によって事業者のオンライン上での扱いがアルゴリズムによって自動的に変わる。さらに、評価によって別の事業者との比較が可視化されてしまう。そのため、アルゴリズムはそのような不平等な力関係を維持し再生産し続け、事業者の自律性を失わせる。 オンライン上で顧客から...

AIは専門職に取って代われない。その3つの理由とは?

専門職とAIをめぐる研究は、近年一つのホットスポットになっています。ただ、専門職や職業といっても幅が広いので、なかなか一概に結論が出る問題でなく、これまでの研究は多くが特定の専門職・職業の深く狭い事例研究がほとんどでした。ここで挙げる最新論文は、これらを超えて俯瞰した議論を展開しています。 Pakarinen, P., & Huising, R. (2023). Relational Expertise: What Machines Can’t Know. Journal of Management Studies.  要するにこの論文は : 専門職を「関係性に基づく専門性(relational expertise)」の観点から再考し、AIが専門職にもたらす影響と限界を整理した理論論文。 ポイント : 近年のAIの台頭は、多くの専門職や職業が機械に代替されるとする予測によって、パニックに似た社会的関心を呼んでいる。 それらの代替予測は、専門性が定型的に定義可能で変化しないことを前提にしている。これは、人間の専門性を「固定的な形のある専門性(substantial expertise)」ととらえる価値観である。具体的には、特定の知識・過去の達成や成果・特定の認知的能力などで専門性が測れると考え、それがAIに代替可能かを問題としている。 しかし、人間の専門性には、「関係性に基づく専門性(relational expertise)」という側面もある。これは、ある種の知識やスキルを専門性として機能させるために、周囲との関係性の中で適切な調整・折衝を行う作用を指す。 何が正当な専門性かは状況に応じて変わり、また専門家として認められるかどうかは、関係性の中で決まる。 だからこそ、それらを踏まえた知識やスキルの発揮こそが、専門性の本質だとする考え方である。 関係性に基づく専門性という視点からは、専門職の仕事をAIが代替できない、AIの3つの限界が明らかになる。 1.専門性の創造における、透明性の問題 専門性は、個人が一人で作る/決めるものではない。クライアントやステークホルダー、社会など幅広い関係性と相互作用の中で形成されていく。例えば、自閉症は特定の医師が専門知識を使って病気として発見したものではなく、それまで病気とはされていなかった隠れた症例を、長い時間をかけ...

人が判断するか、AIが判断するか

AIが答を提案するソフトウェアは、幅広い分野で行き渡ってきています。ヒトはどんなときにAIに任せ、どんなときにAIをあえて無視して自分で判断しようとするのか?ここでの論文は、そんな素朴な問いに答えるものです。 Bader, V., & Kaiser, S. (2019). Algorithmic decision-making? The user interface and its role for human involvement in decisions supported by artificial intelligence. Organization, 26(5): 655-672. 要するにこの論文は : AIを活用した提案ソフトを導入した通信会社のコールセンターを題材に、現場の営業スタッフがAIの出す答とどう向き合うかを検討した事例研究。 ポイント : AIと人間は別々に仕事をするのではなく、現実には共同作業をする。人間はAIが出した答や意思決定を受け止めて、一緒に仕事を進めなければならない。 そのためAIの導入が、人間のスタッフの意思決定へのコミットメントにどう影響し、共同での意思決定がどう形作られるかは、重要な問題である。 本研究は、IBMのワトソンを活用し、顧客対応(営業コール)の次の一手をAIが提案するソフトウェアをオペレータに導入した通信会社のコールセンターで、インタビュー(28件)を元に、AIがもたらす人間への影響を明らかにした。 具体的には、次のような発見があった: AIがもたらすスピーディで一貫性ある提案は、それを受け取る人間にとっての心理的距離感を生み、意思決定へのコミットメントを減らす作用がある。それは次の理由による: AIは人間には知り得ない幅広いオンラインデータも使っているため、人間はAI判断の是非を評価しようがない AIはどんなに複雑な状況も単純かつブラックボックスで一瞬のうちに提案を出すので、人間自身の判断のプロセスとあまりに違う 人間では迷ってしまう二律背反も、AIは何を最適化するか明確で一貫した基準で提案するため、人間には情緒的に出来ない水準で冷徹に仕事をする 一方で、AIが自動的に処理していくからこそ、スタッフは人間ならではの要素からの判断があることを意識し、自分が出した答にこだわるようになる作用もある。人間な...

監視資本主義論が意味する変化

監視資本主義の議論では、著者以外の研究者にも波紋が広がっています。今日は、Organizaton Theory誌で書かれたエッセイ3本のうちの一本を要約します。これは、Audit societyという社会像の提唱で、25年位から一世を風靡したマイケル・パワーによるものです。 Power, M. (2022). Theorizing the economy of traces: From audit society to surveillance capitalism. Organization Theory. 1-19. 要するにこの論文は : 近刊「監視資本主義」で知られるS. Zuboffの指摘に対して、90年代から注目されてきた「オーディットソサエティー(監視社会)」論からその示唆を議論したエッセイ。 ポイント : ショシャナ・ズボフは、2019年の「監視資本主義」で、近年の技術進化がもたらす社会変化について次のように警鐘を鳴らした: あらゆるもののデータ化とデジタル技術の浸透は、資本主義の本質を変えつつある。特に政府やGAFAMをはじめとする巨大企業があらゆる社会活動からのデータを握り、人間はその監視の中で支配される存在となりかねない。 企業では、20世紀初頭にフレデリック・テーラーが生産現場に科学的マネジメントを取り入れた際に夢見た、経営による従業員の完全なる統制が実現する。 政府はデータの掌握によって万能となり、社会秩序はデータに駆動されて形成される。 これに対して、本エッセイの著者はオーディットソサエティー(監視社会)という概念を1990年代から提唱してきた。ズボフの議論は、監視社会論に、3つの変曲点をつきつける。 第一の変曲点は、「プラットフォーム化(platformization)」である。 これは、オンラインプラットフォームの普及により、組織がプラットフォームを介して自動的に形成される変化が加速していることを指す。 この結果、「監視社会」論で問題とされた、外部への説明責任の要請に過剰反応し歪む組織という構図が、もはや重要でなくなる。なぜなら、組織をアルゴリズムが作って自動運営するため、説明責任はデータやそれを扱うプラットフォームの問題になっていくためである。 言い換えると、「監査社会」論で問題となった「監査と会計が人間の組織を支配する」という世界...

監視資本主義と経営学の役割

 先日、Organization Theory誌のオンラインセミナーに参加しました。 原本がベストセラーになった「監視資本主義(Surveillance capitalism)」で知られるハーバード大学のShoshana Zuboffを中心としたセッションです。当日のスピーカーはそのほか「監査社会」で知られるMichael Power、北欧のMikkel Flyverbomでした。200人以上が世界から参加して、非常に盛り上がっていました。 話題は、監視資本主義を我々はどうとらえるべきか?経営学の役割は何か?というもの。非常に印象的な点が多いセッションだったので、簡単にメモしておきます。 スピーカーの話のポイント : (主にZuboffの話) 監視資本主義の本質: 監視資本主義は、2001年以来のテロとの戦いのために、ウェブを監視し情報を集約して分析することを許容した結果生まれた。本来無断のデータ収集は窃盗と同じであるのに、それを私企業に許す状態を放置してしまったため。 現在のようなプライベートデータの無断収集は全体主義とディストピアにつながるものであり、これと対抗し打破する必要がある。民主主義はその対抗のために最も適した存在であり、かつ生存の危機に瀕した立場にある。 今こそGDPRを模範に、私企業によるデータ収集の禁止を制度化し、そのための草の根からの運動によってビッグテックに規制を欠けるべきである。 無断データ収集と統制は、児童労働と同じように程度問題ではなく存在自体が問題であり、カテゴリーとしてそのようなものを禁止・廃絶すべきである。 経営学の役割: 学術研究は社会にとっての監視塔であり、率先して危機を知らせ行動を起こさなければならない。 学術研究として、技術によって組織がどう変わるかを研究する必要性も依然残る。プラットフォームが浸透し、人間による従来型の組織は減少していく傾向にあるが、急に人間の組織がなくなるわけではない。しかし、特にビッグテックへのアクセスの難しさが深刻化しており、重要なテーマの組織研究は簡単ではない。 コメント : まず、このセミナーがこれだけ先鋭的に監視資本主義への危機感を訴える内容だったことに単純に驚きました。アメリカの場合(欧州もそうだと思いますが)、プライバシー(自由)の侵害や民主主義の価値に対する、問題意識というか、宗教...

アルゴリズムと徒弟制度的な育成

AIで専門知識がブラックボックス化すると、人間の専門家が育たなくなるのではないか? パソコンの自動変換に慣れると手書きでは漢字が書けなくなるように、技術進化の中で人間のスキルが失われることもあります。人間のスキルをどこまで、どう維持すべきなのかは、大きな論点です。今日の論文は、この論点に現場の実態から切り込んだものです。 Anthony, C. (2021). When Knowledge Work and Analytical Technologies Collide: The Practices and Consequences of Black Boxing Algorithmic Technologies. Administrative Science Quarterly, 66(4): 1173-1212. 要するにこの論文は : 知的労働へのAI導入が現場でもたらす影響を、投資銀行の投資アドバイザリー部門のアナリストチームのエスノグラフィーを元に探索した事例研究論文。 ポイント : データを構造化して処理するアナリティクスは、組織にとって大きな可能性を秘めている。しかし、分析ツールは知識労働者のタスク遂行に大きな課題をもたらす可能性もある。知識労働者は、人間にはその過程が理解できないブラックボックスのアルゴリズムを、業務でどう活用しており、それはどのような結果を生むのか? 本研究では、投資銀行でのアナリティクスの使用について、4つのグループを横断で2 年間のエスノグラフィー調査を行い、次のような発見をした: 各グループは、アルゴリズムによる財務分析結果の信頼性をどう確認して結果を活用するか、その「検証プラクティス」について2つの異なるパターンを見せた。 パターンAでは、検証プラクティスがジュニアとシニアの間で分割された。ジュニアバンカーはタスクを設計して分析ツールによる分析を実行し、それを受け取ったシニアバンカーが独自に分析結果を解釈した。 もう1つのパターンBでは、ジュニアメンバーとシニアメンバーが共同作業に取り組んだ。ジュニアバンカーがタスクの組み立てと結果の解釈の両方を行い、シニアバンカーは結果の解釈に参加すると共に、ジュニアバンカーの推論と選択についてフィードバックを行っていた。 パターンAでは、ジュニアバンカーもシニアバンカーも、アルゴリズムを...