デジタル技術に関する昨今の研究は、デジタル技術がどのように新しい社会秩序や経営のあり方を生むかを取り上げます。その前提は、技術が新しい秩序(New normal)をもたらし、新しい秩序が古い秩序を淘汰し新しい世界が来る、という見方です。ここで取り上げる論文は、これに異を唱え、技術は組織化(ある種の秩序)とともに脱組織化(秩序の崩壊)も生むことを強調しています。
Ratner, H. & Plotnikof, M. (2022). Technology and dis/organization: Digital data infrastructures as partial connections. Organization Studies, 43(7): 1049-1067.
要するにこの論文は:
デジタル技術が組織化と共に脱組織化も促す理論を提示し、デンマークの事例で論証した理論論文に近い事例研究論文。
ポイント:
- デジタル技術を活用したインフラについて、これまでの研究では、以下のような意味で組織化を促す側面が強調されてきた
- 技術開発に向かって組織的活動が活発化する
- 情報を可視化させ、それまで出来なかった組織的活動が活発化する、または組織のあり方が変化する
- 技術が浸透することで、新たな専門性が生まれる、など
- しかし、デジタル技術やデータインフラには、同時に組織化を解消する働き(脱組織化の作用)もある
- それを説明する上で、「部分的結合(partial connection)」の概念が有用である。部分的結合とは、社会的関係を互いに一部でありつつ、同時に互いに一部では無い結びつきとしてとらえる。ある概念を全体として理解しようとしても、部分の総和と全体とは一致せず、常に部分だけしか理解することは出来ない。
- この視点から組織化を見ると、組織化は常に起こりある部分に秩序が形成され続けるが、その他の部分は曖昧な状態にあり、組織は固定的で客観的な存在では無く、常に組織化と脱組織化を行うプロセスと考えられる。
- この考え方を、次の事例で見ると妥当性がある:
- 2015-16年にデンマークの学校で政府による40問のデジタル児童福祉サーベイが制度化された。これに関して、17-18年にはその結果のデータ活用の倫理性に関する大きな議論が起こった。
- なぜ論争になったのか。まず、当初、政府は問題を抱える児童の救済のために個々の生徒レベルでデータを確認することが出来たのに対し、教師や親は集団レベルの結果にしかアクセスを許されないデザインとなっていた。
- しかし、教育や児童救済のために個人データが必要と考える教師によって、中央政府以外の情報システムから一部個人データが漏れた。それは、政府が形成した新しい秩序の崩壊であった。
- その後、これを受けて中央政府はデータを個々の児童の事例への介入に活用することを禁止する新たな制度を作った。
- しかし、地方政府はその抜け道として、個々の児童を救うためにサーベイ実施に当たり個人が特定できる質問を追加して実施する形で秩序を崩壊させ、中央政府もそれを黙認した。
- その他にも、データ保管などに関して同様の組織化・脱組織化が並行して継続した。
コメント:
少し変わった論文ですが、面白い論点を提示しています。変わっているのは、体裁が通常の事例研究というわけでもなく(データ分析手法等の研究手法があまり具体的に書かれていない)、純粋な理論論文というわけでもない(事例をかなりのボリュームで書いている)、と言う点です。やや実験的な雰囲気を感じます。内容的には、新技術が秩序の崩壊を生む側面もあるのはその通りだと思います。ただし、それが起こるきっかけは必ずしも技術に限らないようにも思えますが。内容的には、(脱組織化(Disorganization)の定義にもよりますが)普通の政治的なせめぎ合いが技術で顕在化した事例の感じもあり、この議論の新規性は色々な解釈が可能にも思えます。
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