今回の論文は、俯瞰的に経営学(組織論)研究とAI時代を論じたものです。
Bailey, D. E., & Barley, S. R. (2020). Beyond design and use: How scholars should study intelligent technologies. Information and organization, 30.
要するにこの論文は:
AIなど先進技術がもたらす課題と、経営学研究者が取るべき対応を提唱したエッセイ的な論文。
ポイント:
- AIなど先進技術の台頭は、仕事のあり方を変化させる。社会は着実にこの方向に向かい、関連研究も増えているが、現状そこには4つの課題がある:
1.評価の難しさ
- AIの影響は個々の文脈で微妙に異なるが、ある程度広い範囲で計測しないと全体に意味のある議論にならない。
- そのため現状はマクロレベルでの研究が主流になっている
- しかし、計測・予測手法によってマクロ分析の結果は大きくばらつきがあり、また技術の影響は本来人間や社会の対応の積み重ねで定まるのに、その理解が欠けている。
2.権力の潜在的な影響
- ある技術の普及には、その背後に企業や政府の利害や意図がある
- なぜなら、権力者(企業トップなど)の承認や後押しなしには技術変化はそもそも仕掛けられないためである
- しかし、このような政治的プロセスは表に出ず捨象される事が多い
3.イデオロギーの影響
- 技術普及を主導するAI研究者は技術中心主義を持ちやすく、人間を考慮せずに効率性を最優先する傾向がある。本来、人とAIの共存を強調する思想もあるが軽視されやすい。
4.制度への甚大な影響
- ・現状、AIによる雇用消失に備えて、政策面では教育(リスキリング)や法律(セーフティネット)の検討ばかりが進んでいるが、AIの人間代替で影響を受ける制度はより幅広い
- 例えば、家族や文化のあり方、交通インフラまでも大きく変化する可能性がある
- このような課題に対処するためにも、現状分断されている技術の「デザインフェーズ(導入前、技術の社会的構成論やデザイン研究など)」と、「使用フェーズ(導入後、技術・業務・組織の研究)」とを連続的にとらえ、組織レベルを重視した研究をする必要がある
- 権力やイデオロギーの影響については、デザインフェーズをさらに時間的に前に遡ることで検討できる
- 制度については、使用フェーズをさらに時間的に後に下ることによって検討できる
- 評価の問題については、組織内の具体的な事象を精緻に検討するアプローチで、ニュアンスを補完し是正することが出来る
- 経営学はこれまで断片的にAIの問題を扱い、また政策的な主張は控えめにしてきた。しかし、今こそ多くの課題に正しく社会が対処できるよう、この萌芽期に積極的にどうすべきなのかを提唱し、それを実証する姿勢を強めていくべきである。
コメント:
米国の技術と組織論の大家二人による、提言エッセイ的な論文です。米国の先行研究をたくみに一つの時間軸に統合し、ここでは割愛しましたが、自動運転トラックの事例を挙げてそのアプローチの妥当性を主張しています。
個人的に非常に面白いのは最後の部分で、経営学の役割について踏み込んで書かれた部分です。実際の所、伝統的な組織論のアプローチでいくら研究を出しても、時間がかかるので論文が公刊される頃には実務への情報価値はごく小さくなっていますし、抽象的すぎて実務家からするとほぼ無視できる評論のようなものになっていると思います。実務や社会と併走しながらそこに良い影響を与えていけるような、新しい形の経営学とは何か。AIの台頭が浮かび上がらせる経営学の課題として、こうした役割論が大御所から勇気を持って言われることも、非常に興味深いと思います。
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